交通新聞社 電子版

特集 首都圏民鉄 新たな乗車サービスへ向けて

2023.09.12
認証の様子。装置に指をかざすことで静脈パターンを読み取る

 東武鉄道と日立製作所が年度内立ち上げの合意を発表した生体認証を活用したデジタルアイデンティティー(電子化した個人の証明書情報や属性情報)のプラットフォーム。第1弾として、本年度内に東武ストアの複数店舗にセルフレジをトライアル導入することも明らかにされた。将来的にはホテルや鉄道など東武グループ各分野、さらには社会基盤としての拡大を目指している。8月下旬には東急などがクレジットカードのタッチ機能を活用した乗車サービスの実証実験を開始、新たな鉄道の乗車手法の広がりが見えてきている。(鴻田 恭子記者)

 ■東武と日立 

 生体認証を将来の社会基盤に 鉄道への導入視野

 「指静脈」「顔」を登録

 東京都内で行われた発表会には、東武鉄道の山本勉常務執行役員、日立製作所の吉田貴宏クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットマネージドサービス事業部事業部長が出席。まず日立側から、個人のデジタルデータをプラットフォーム化することで、個々の企業が開発費やデータ管理のセキュリティーリスクを負うことなく、共通でデータを利用できるなどの説明があった。

 データへのアクセスに使う日立提供の生体認証技術は、「指静脈認証」と「顔認証」の二つ。特に、指静脈認証は体の中の静脈パターンを利用するためデータ偽装が難しいなどのメリットがある。認証には、公開型生体認証基盤(PBI)という方式を活用。事前に個人の指静脈のパターンから秘密鍵、さらに秘密鍵を元に公開鍵を生成して公開鍵のみをクラウド上のサーバーに保存、認証時は指静脈パターンから生成する秘密鍵を公開鍵と照らし合わせる。生体情報そのものは保存せず、公開鍵から生体情報を復元できない仕組みだ。

 生体データを登録することに関してはまだ抵抗感のある人もいるため、別にQRコードを発行して認証する方式も用意しているという。

 セルフレジのトライアル導入時には、事前に氏名や生年月日、クレジットカード情報、ポイントカードのID情報などに加え、指を装置にかざしてもらい生体情報とひもづけて登録してもらう予定。クレジット決済を用いるため、認証の精度を他者との一致確率6500万分の1、本人拒否率1万分の1以下と高めている。レジでは認証により、決済とポイント付与、年齢確認ができる。酒類購入時に有人での確認が不要となる一方、認証に約2秒の時間がかかる。

 スポーツクラブ会員カードなど実証検討

 トライアルの開始時期や規模などは今後公表予定。レジ決済のほか、スポーツクラブの会員カードでのチェックイン、飲料メーカーとタイアップしたキャンペーンなどの実証も検討中だ。

 安全性と速さ両立へ

 東武からは生体認証活用のプラットフォームに関し、昨年8月に日立製作所から利用企業として実証の場を提供してほしいと打診があり、東武として生体認証が将来的な社会インフラに成長すると期待できることなどから、プラットフォーム運営企業としての参画を希望したことなどを説明。鉄道や小売り、ホテルなどグループの事業と親和性が高く、全社一体感を持って取り組めることも参画の後押しとなった。

 日立とパートナーを組んだ理由については、指静脈と顔という複数の生体認証を活用でき、安全性とスピーディーさのバランスを取って場面に応じた適切な認証方式を使い分けられること、東武グループほか、今後参画する他の企業の施設でも利用でき、業種・企業横断のサービスを提供できることなどを挙げた。生体認証と個人情報管理などの知見を用いた日立のプラットフォームの安全性についても強調した。

 東武では今後、認証のロールモデルとしてさまざまなユースケースを日立とともに実証、提案していく方針。鉄道についても「時期や方法は未定だ。個人的な考えではあるが、安全性とスピーディーさを両立させ、なるべく早く導入したい」(山本氏)としている。

 会見ではセルフレジのデモンストレーションも実施。画面上のスタートボタンを押して商品のバーコードをスキャン、会計ボタンを押し、支払い方法を選ぶ。デモではビールをかごに入れていたため、年齢確認が必要な商品として指静脈認証を行うよう画面に指示が表示された。「装置に指をかざしてください」のアナウンスに沿ってかざし認証に成功。決済と年齢確認、ポイント付与までが一括で行われた。

 

 ■東急など

 クレカタッチ活用 相直運転対応に課題

 江ノ電は既に導入東京メトロも検討中

 8月30日から始まった東急などによる「クレジットカードのタッチ機能」などを活用した乗車サービスの実証実験。昨年12月の計画発表時にはタッチ決済導入を想定していたが、首都圏特有の事情として相互乗り入れが多く、乗り入れ先との連携などを考慮し、まずは事前にデジタルチケットを購入する形でのタッチ機能実証、その後に後払いのタッチ決済の実証を行う方針とした。タッチ決済については、首都圏の鉄道では今春に江ノ島電鉄が導入、首都圏大手では東京地下鉄(東京メトロ)が2024年度中の実証実験実施を検討する。東急なども24年春以降の実施に向け検討中だ。

 実証は東急のほか、東急電鉄、三井住友カード、ジェーシービー、日本信号、QUADRAC(クアドラック)が参画し、東急電鉄田園都市線で実施。三井住友カードの公共交通向けソリューション「stera transit(ステラトランジット)」を活用している。タッチ決済を行う他社とは異なり、事前に専用サービス「Q SKIP」のサイトで会員登録し、クレカでチケットを購入。利用当日にクレカのタッチ機能を使うか、スマートフォンに表示のQRコードを使うかを選び、田園都市線各駅全改札口に設置した対応の改札機にタッチして入出場する。

 販売チケットは「田園都市線・世田谷線ワンデーパス」(680円)、「田園都市線・世田谷線・東急バスワンデーパス」(1000円)、「世田谷線散策きっぷ」(380円)の3種類。世田谷線(軌道線)とバスは乗務員が乗車しているため、スマートフォンのQRコード画面提示(クレカタッチ選択の場合を含む)で利用を確認する方式。他社線で下車する場合も提示により乗り越し区間の精算を行う。

 東急などは今冬以降、「東急線ワンデーパス」など既存の企画乗車券や乗車券と沿線施設の連携サービスを追加。24年度に有料座席指定サービス「Q SEAT」の座席指定券も購入できるようにする。改札機は24年春までに一部駅を除き設置予定。世田谷線も車両または改札窓口に読み取り機器を設置予定。

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