特集 東急、東急バス、京浜急行バス 連携して自動運転実証 横浜市、川崎市などで
数年前から盛んに実証実験が行われている乗合バスなどの自動運転。関東大手民鉄系のバス会社でも、西武バス、相鉄バス、京成バスをはじめ、グループのバス会社が実証実験を実施あるいは参画してきた。こうした中、京浜急行バスと東急バス、東急の3社は5月28日から6月3日まで、3社共同で自動運転の実証実験を横浜市、川崎市などで実施した。3社は実証実験を通じ、地域のニーズや自動運転の受容状況、遠隔監視者の負荷などを検証した。(鴻田 恭子記者)
高齢化住民の外出を支える
実証運行を行ったのは、京急バスが横浜市南部の能見台エリア(同市金沢区)、東急バスは川崎市・横浜市青葉区にまたがる虹ケ丘・すすき野エリア。それぞれ、京急グループ、東急グループが1970~80年代に宅地開発を進めてきたエリアだ。2カ所計2台の小型モビリティーを用いて自動運転を実施し、遠隔監視を行った。
今回、バス会社の垣根を越えた連携が実現したのは、両社が共通の課題を抱えていたことがきっかけとなった。両エリアとも坂が多く、自宅とバス通りの行き来に坂の上り下りが発生する。開発から歳月がたち住民の高齢化が進む中、外出を支える手段として検討したのが、狭い道でも小回りの利く小型モビリティーだった。
京急グループでは同じ金沢区の富岡エリアで電動カートやミニバンタイプの乗用車を使い、有償の実証実験段階まで進めていたが、労働人口が減少する中で運転者が必要なことがネックの一つになっていた。そこで、自動運転の実証実験を行っていた東急グループと連携することになった。3社によれば、事業者が会社間の垣根を越えて自動運転実証を行うのは国内初という。
一方の東急グループは、小型電動モビリティーを用いた自動運転の実証実験を伊豆エリアや今回と同じ虹ケ丘・すすき野エリアで行ってきた。小型を選んだのは、京急同様大型の路線バスでカバーできない場所の移動課題解決を優先したことに加え、実装までの時間が大型より早いと見たためだ。
今回、車両はいずれも、タジマモーターコーポレーションのグリーンスローモビリティー(TAJIMA-NAO)をベースにした車両を使用。8人乗り(乗客6人)で、車体には自動運転用のレーザーレーダー(LiDAR、レーザー光により対象物までの距離や形状を計測)、遠隔監視用のカメラ、通信装置、監視者と車内外でやり取りをするマイク・スピーカーなどを取り付けている。GNSSのような衛星測位システムも取り付けているが、運行はあくまでレーザーレーダーによる測距ベースだ。
事前作成の高精度3次元地図データ上に走行ルートを付加、運行中にレーザーレーダーで取得する点群データと照らし合わせて位置を確認、速度や進行方向などを制御する。前方に停止車両など障害物がある場合、システムが検知して自動で停止する。最高速度は時速19㌔以下としている。
東急ではレベル4実現を見据え、遠隔監視を行っているが、今回はレベル2での運転。運転操作はほぼシステムが担うものの、車内前頭部に運転者が乗車し、安全監視義務を負う。ハンドルから手を離して走っていても、運転・監視の主体はあくまで「人」だ。レベル4では限定条件下でシステムが監視を担うため、車内に運転者が不要となる。
遠隔監視は、主に車内外に計11台取り付けたカメラを通じて実施。今回は京急グループ本社(横浜市西区)のエントランスに遠隔コントロールセンターを設け、平日に見学できるようにしたところ、1日10~20人ほどが訪れていたそうだ。
課題抽出し早期実装めざす
乗降は事前にLINEで予約し、運賃無料で収受は行っていない。運行は10~15時台。京急バスは毎時1便で、能見台営業所を拠点に1周約3・2㌔のルートを走行。東急バスは毎時2便で、虹が丘営業所を拠点に1周約1・9㌔のルートを走行した。東急では運転に合わせ、乗降箇所の「ネクサスチャレンジパーク早野」でマルシェなどイベントも開催。京急バスで1カ所、東急バスで4カ所の信号協調(信号の現示色情報、切り替わるまでの時間などを自動運転システムに通知)も行った。
京急バスに試乗した地元女性は「予想より安心できる乗り心地だが、無人の場合、子どもがいる場所を走るのは(子どもが事故に遭わないか)不安がある」と話していた。
実証実験を通じ、3社は自動運転技術の活用可能性や低速の自動運転車両が公道を走ることの社会的受容や一般車両との協調運行、信号協調を安全運転につなげるための検証などを実施した。
運行開始の5月28日には、京急グループ本社で京浜急行バスの野村正人社長、東急バスの古川卓社長が会見。野村社長は「まず安全、安定運行を第一に、地域のお客さまのニーズにどう応えるか。2社で連携し、課題を抽出しながら一刻も早く実装できるよう取り組みたい」と話した。
古川社長は「自動運転実装を見据え、バス会社自身が中心となって実証を進める必要がある。今後、複数社で連携するケースも出てくると思う。こうした事例が他のバス会社に広がることを期待している」と述べた。
2社は自動運転の実装だけでなく、自動運転に関するシステムを活用して安全性の向上につなげることも計画している。遠隔監視や信号協調などで得た情報を運転者に伝えることで、余裕を持った操作ができるように支援。運転者の負担の軽減につなげる方針だ。
自動運転レベルについて
レベル4運行は公安委許可など必要
自動運転のレベルは、レベル5(完全自動運転)まで定義されている。レベル1の運転支援はシステムが前後・左右いずれかの車両制御、2は高度な運転支援で前後・左右の制御を実施、3以上は監視主体がシステムとなる。レベル3は特定条件下における自動運転で、場所や天候、速度など特定の条件の下、システムが運転し、介入要求に応じて一部操作を運転者が対応する。
移動サービスに関する日本での実用化は現在レベル4まで。国内公道でのレベル4(特定条件下における完全自動運転)は2023年4月の道路交通法改正で解禁され、遠隔監視下で運転者なしの運転が福井県永平寺町で行われている。こちらは廃線跡を活用した町道の一部(約2㌔)に電磁誘導線を敷設、追従走行する方式としている。
運行には国土交通省による自動運転車の安全基準適合性の認可と、道路交通法に基づく都道府県公安委員会の許可などが必要。同町の場合、電磁誘導線などを用い時速12㌔以下で走行、走路に緊急車両がない状況下で、悪天候時を除くなどの条件が付く。
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