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特集 あふれるレトロ感 湘南観光ナビゲーター ~江ノ島電鉄線を訪ねて~

2024.09.17
江ノ島を背に快走する江ノ電の電車(20形)

 江ノ島電鉄(江ノ電)は、神奈川県湘南エリアの藤沢―鎌倉間を約37分で結ぶ。モスグリーンとクリーム色を主体としたレトロ感あふれる車両は、江の島を望む海岸沿いや住宅地の中、店舗が立ち並ぶ道路併用区間をゆっくりと走り抜けていく。距離にしてわずか10㌔だが、沿線の歴史、文化、自然といった〝湘南観光〟をナビゲートする鉄道路線として来訪者の人気を集める。

 

 ■増加する入込客数

 首都圏(東京方面)から鉄道で現地を訪れるには、JR東日本の横須賀線で鎌倉に向かうか、東海道線で藤沢に向かうか。あるいは小田急電鉄江ノ島線で藤沢、片瀬江ノ島に向かうか――。

 江ノ電の起点は藤沢だが、ここでは終点の鎌倉から1日乗車券「のりおりくん」を購入して乗車した。

 江ノ電鎌倉駅の三角屋根が来訪者を出迎えた。側壁に「長谷・江ノ島・藤沢方面 江ノ電のりば」の文字。駅に向かうと自動券売機前には長い列ができていた。東アジアからと思われる訪日外国人客によって、異国の地にいるような雰囲気に包まれる。

 鎌倉・江の島エリアはコロナ禍以 降、観光客が戻りつつある。鎌倉市がまとめた2023年の延べ入込観光客数は、約1228万人で、前年比2・7%増加している。

 ■江ノ島駅まで続く混雑

 4両編成の電車がホームに入線。降車客と乗車客が行き交う中、レトロ感あふれる車両を背景に記念撮影する訪日客も加わり、ホームは混雑状態となった。

 訪日客が次々と乗り込んでいく。乗り切れないと判断した日本人客は、おおむね10~15分後に発車する次列車に乗車するため、ホーム乗車口の最前部に陣取った。

 車内は肩が触れ合うほど。とりわけ鎌倉―江ノ島間は寺社・仏閣などの歴史、文化、由比ケ浜、七里ケ浜の海岸美などコンテンツが豊富で、駅ごとに異なる風景を求めて乗客が降り、乗車する。

 目的に応じた楽しみを来訪者に提供してくれるのも、江ノ電人気の理由だろう。

 ■住民との共存が課題

 観光客利用の増加によって影響を受けているのが、地域住民の移動手段としての江ノ電の位置付け。そのため、江ノ電と鎌倉市では17年からゴールデンウイーク限定で「江ノ電鎌倉駅西口改札における沿線住民等優先入場の社会実験」を実施している。

 鎌倉―腰越間に在住・在勤・在学する地域住民の日常生活に影響が生じる状況を考慮して、緊急を要する場合などに、鎌倉駅構内や鎌倉市役所で発行される証明書を提示すれば、観光客より早く鎌倉駅に入場できるようにした。

 鎌倉市などでは、江ノ電の混雑緩和策として、観光客に最混雑区間の鎌倉―長谷間の「歩き」を推奨する。地域に根差した鉄道路線であるためにも、地域住民と観光客が共存できる鉄道路線に向けた自治体、国を巻き込んださらなる対策が求められる。

 ■鉄道風景

 道路併用軌道、住宅地、トンネル区間など、移り変わる鉄道の風景も江ノ電の特徴の一つ。各所で見られたカメラを構えた鉄道ファンらの姿からも人気のほどがうかがえた。

 ○…道路併用軌道…○

 道路併用軌道は腰越―江ノ島間のほかに、鎌倉側から極楽寺―稲村ケ崎間、稲村ケ崎―七里ケ浜間、七里ケ浜―鎌倉高校前間にある。一部区間は道路にガードレールが設置されたバラスト軌道。見た目には鉄道だが、道路部を併用する軌道区間というのが法律上の位置付けだ。

 ○…住宅地内を走る…○

 開業後の軌道敷設整備の過程で、度重なるルート変更が生じたことで住宅地を縫う曲線の多いルートになったとみられる。線路側(旧道路側)に玄関口のある住宅が多いことからもうかがえる。

 生活に欠かせない小さな踏切も各所に見られる。1945年に「鉄道」に格上げされたが、沿線風景は今も変わらない。

 ○…唯一のトンネル…○

 江ノ電唯一のトンネルは「極楽洞・千歳開道(極楽寺トンネル)」と呼ばれ、1907年に竣工(しゅんこう)した。全工程を人力で掘削した江ノ電全通への最難関工事箇所だったという。

 鎌倉七切通の一つ、「極楽寺坂切通(極楽寺切通し)」を通過するもので、トンネルの長さは約200㍍。長谷方に「千歳開道」、極楽寺方に「極楽洞」と表示され、建設当時の面影を今に伝える。それまで住宅地だった沿線風景もトンネルを抜けると、日本三大深湾と呼ばれる相模湾の風景が開けた。

 ■多彩な車両

 江ノ電では10形、20形、300形、500形、1000形、2000形を運用する。

 最新車両は2006年にデビューした500形で、同社として初めてのVVVFインバーターシステムを採用した省エネルギー車両。車内に液晶ディスプレーを装備し、沿線名所の映像を放映する。

 鉄道ファンに人気があるのが300形だ。 305―355号車は1960年の製造で、京王帝都電鉄(現在の京王電鉄)の初代デハ2000形(旧玉南電気鉄道1形)の台枠を流用し、車体は東横車輛工業(現在の東急テクノシステム)、台車は東急車輛製造(現在の総合車両製作所)で新造された。車内床面の板張りが特徴。

 ■江ノ電・嵐電姉妹提携15周年

 江ノ島電鉄と京福電気鉄道は、江ノ電・嵐電姉妹提携15周年を記念して、江ノ電「江ノ電・嵐電 姉妹提携号」(1002号車)を4日から、京福「嵐電 新『江ノ電号』」(モボ611形613号車)を7日から運行している。

 江ノ電では車体を嵐電カラーにラッピング、京福の車体を江ノ電カラーに塗装(一部ラッピング)した。京福では「モボ631形631号車」に次いで2編成目という。

 ■沿線で人気の菓子処

 江ノ電沿線には甘味を楽しめるお店がいっぱい。

 長谷駅近くの「力餅家」は創業300年を超す歴史・由緒ある菓子処。つきたての餅をこしあんで包んだ「権五郎力餅」が人気商品。「求肥力餅」なども販売。

 江ノ島駅近くの「和菓子司 扇屋」も創業200年以上の老舗(しにせ)。江ノ電車両ときっぷをデザインしたパッケージの「江ノ電もなか」が有名。

 店舗デザインの江ノ電車両のカットモデルが特徴で、観光客の多くが訪れる名店だ。

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