特集 JR東日本「中央快速線用グリーン車」サービス開始へ準備着々
JR東日本が2023年度末のサービス開始を予定していたE233系中央快速線用のグリーン車は、準備が着々と進み、少なくとも1年程度遅れる見込みで営業運転開始を予定している。八王子支社は10月18日に豊田車両センターでグリーン車を報道公開。同20日23時ごろから22日4時20分ごろまで、中央線高尾駅でグリーン車導入に伴う線路切り替え工事を行った。スムーズな乗降に向けた両開きドアや、短時間での車内整備を可能にするための自動回転座席を導入するなど、工夫を凝らした車両の概要と、鉄道クレーン車2台が活躍した高尾駅線路切り替えを中心とした地上設備の工事について紹介する。(相川 夏子記者)
同社はグループ経営ビジョン「変革2027」で、ニーズに合わせた付加価値の高い移動空間と輸送ネットワークの提供を掲げている。中央快速線は、首都圏主要5方面(東海道、中央、東北、常磐、総武方面)で唯一グリーン車の連結がなく、着席サービスのニーズが高いことから、グリーン車サービス導入の準備を進めてきた。
当初の予定では20年度のサービス開始を目指していたが、バリアフリーなど他の施策との工程調整や関係箇所との協議に想定以上の時間を要したことや、世界的な半導体不足の影響を受けてグリーン車両の新造が遅れたことなどにより、24年度末以降に時期を見直す。グリーン車および車内トイレ設置のための事業費は約860億円と想定している。
グリーン車の運行区間は、中央快速線東京―大月間(E233系のみ)と青梅線立川―青梅間(中央快速直通列車のみ)。東京方から4、5両目に組み込み、1編成10両から12両になる。導入編成数は57編成、新製グリーン車は114両となる見込みで、同社グループの総合車両製作所が製造する。10月末現在で8両(4編成)が完成している。
両開きドア、自動回転座席導入
時間短縮へ工夫の車両
車両の主な特徴として、東京など折り返し駅でのスムーズな乗降を図るため、従来の在来線グリーン車で採用している片開きドア(開口幅810㍉)から、普通車と同サイズの両開きドア(開口幅1300㍉)に変更している。さらに、東京駅などでの短時間の車内整備を可能とするため、在来線では初めて座席を自動的に回転する仕組みを導入した。操作開始から約20秒で、座席の方向を変えることができる。
両開きドアの導入でデッキが広くなることから両端部の客室の座席数が減少するが、客室スペースの2階部分を広げることで、グリーン車2両合計の定員は従来の在来線グリーン車と同じ座席数を確保している。4号車はトイレ、洗面台、乗務員室、業務用室があり定員86人、5号車は94人。
車内では「JR―EAST FREE Wi―Fi」が利用でき、各座席のひじ掛け下にコンセントが設置されている。デザインは、横須賀・総武快速線用E235系車両の「華やかさと落ち着き」を踏襲している。座席は上部がライトグレー、下部が深いワインレッドのツートンカラーとした。
鉄道クレーン車2台出動
高尾駅線路切り替え
グリーン車運転区間の全44駅や車両基地などではこれまで、ホーム延伸や線路、信号の改良など、地上設備の工事を進めてきた。このうち、大規模な線路切り替え工事は20年11月の青梅線牛浜から今年5月の東青梅まで計8回実施しており、今回の高尾でクライマックスを迎えた。
20日23時ごろから着手した工事は、1番線や収容線を12両対応にするための配線変更をはじめ、同駅構内の収容線に大月方面からの電車が入れるようルートの構築、それに伴う分岐器の撤去や新設、架線撤去・調整、信号などの電気工事を行い、約29時間20分にも及ぶ大規模なものとなった。
工事の流れは▽配線変更に伴う電子連動装置1式の改修▽鉄道クレーン車を2台使用しての分岐器撤去(3組)と新設(3組)▽転てつ機の撤去(3台)と新設(2台)▽架線180㍍の撤去と754㍍の調整▽信号試験▽新設した分岐器上に車両を走行させ安全確認を行う試運転――で行われた。同社八王子支社や東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(東京建設PMO)、電気システムインテグレーションオフィス(電気SIO)をはじめ、協力会社、パートナー会社合計約1200人体制で臨んだ。
中でも、鉄道クレーン車(全長37・5㍍×重量125㌧)は同社が2台所有し、線路や橋りょう交換などに使用。架線の下の狭い空間で作業するため、水平づりの能力に秀でているなど、鉄道工事に特化した優れた施工能力を有している。大規模工事でも2台そろって出動することはめったにない。今回は約17㌧にもなる分岐器の撤去・新設などを次々とこなした。あらかじめ仮組みした状態の分岐器を設置できることから、品質も良く、作業時間短縮に威力を発揮するという。
鉄道クレーン車の運用・施工計画、現場調査、実施工は、東京建設PMOが直轄で行っており、工事当日もオペレーターや作業指揮者を務めた。大型の分岐器であるダイヤモンドクロッシング(DC)設置時には、その前に新設した分岐器との位置を合わせるため、DCをつり上げたまま微調整を繰り返し、数ミリの精度で据え付けた。
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