特集 JR東日本 GV―E197系 水郡線 砕石輸送現場ルポ
水戸・千葉両支社管内で砕石散布
作業効率化・安全性向上にも
JR東日本水戸支社は4月から、水戸、千葉の両支社を散布エリアとした砕石(道床バラスト)輸送に新型の電気式気動車「GV―E197形」と砕石用貨車「GV―E196形」による編成「GV―E197系」を投入して運用している。気動車免許が不要で電車免許のみで運転できるため担い手の幅を拡大するとともに、砕石散布作業の安全性向上と効率化を実現。機関車の付け替え作業もなくすなど多くの効果をもたらしている。水郡線西金駅の積み込みの様子と、同駅に近い砕石の採掘場の様子を見た。(岡崎 慎也記者)
■細心の注意で砕石積み込み
山々の間を久慈川が流れる静かな西金駅の側線に10時51分、GV―E197系が入線した。真新しいステンレス製の車体が輝いている。
連絡を受けた係員が、GV―E196形の散布口開閉ハンドルと軌間内散布レバーを操作し、竹竿を使って搬器内に残った砕石を落としていく。砕石が挟まった状態で新たに積み込むと、重さで散布口が開いてしまう危険があるためだ。30分ほどかけて4両の貨車を点検する。
12時から砕石の積み込み作業が始まった。ホイールローダーが側線脇の貯石場に積み上げられた砕石の山から5㌧程度をすくい上げ、貨車の搬器へ投入する作業を繰り返す。続いて、小山のように積まれた搬器内の砕石を油圧ショベルがアームの先端を器用に動かしながら丁寧にならしていく。貨車に接触させず砕石をこぼさないよう、積み込みとならし作業は細心の注意を払って進められる。
GV―E196形の砕石積載量は1両当たり30㌧、1編成で120㌧を輸送できる。2時間から2時間30分ほどかけて一連の作業を行う。
■電車免許で運転可能
これまで、水郡線では「DE10型」ディーゼル機関車に砕石用貨車「ホキ800形」を4両または8両連結し、毎年春から秋にかけて多い時は月に2、3回程度、砕石を輸送していた。昨年12月、西金駅の機関車入れ換え用の線路や分岐器の撤去、出発信号機の設置といった構内設備の改良が完了。GV―E197系の運用開始が決まった。
GV―E197系は、砕石を積載するGV―E196形4両を連結し、編成の両端に運転台と動力を持つGV―E197形を1両ずつ配置する。このため、方向転換時の機関車の付け替え作業を不要とした。
最高時速は100㌔で、気動車方式の採用により電化・非電化区間を問わずに走行できる。また、同社でディーゼル機関車を運転するためには電車免許の取得後に気動車免許を取る必要がある。GV―E197系は電車免許のみで運転可能としたため、担い手の幅が格段に広がった。
メンテナンス性の向上も果たしている。DE10型は、液体変速機や推進軸、減速機などさまざまな機械部品の保守が必要となる複雑な構造で、機関車ならではの多くのメンテナンスが必要。また、鋼製のため定期的な修繕と塗装も欠かせなかった。
GV―E197形は主変換装置に半導体を使用しているほか、最新の電車や気動車と同様の構造に。車体も腐食に強く塗装不要のステンレス製を採用したことで省メンテナンス化を図った。砕石輸送・散布作業のほか、非電化区間の車両入れ換えや回送車両のけん引などにも使用できる。
■軌間内外への同時散布可能に
散布作業でも、安全性の向上や人力作業の削減効果が期待できる。ホキ800形では積載した砕石をレールの外側へ散布した後、作業員の手で軌間内にも投入していた。GV―E196形は軌間内散布レバーを扱うことで、砕石を軌間の内外へ同時かつ安全に散布する運用を可能とした。
軌間内への散布は、散布量に合わせてスクリューの回転速度を調整できるほか、スクリュー操作盤のモニターでは新設の散布口カメラの映像で散布の状況を確認しながら作業を進められる。
1編成分の砕石(120㌧)の散布で、線路延長1~1・5㌔程度の道床を補充できる。同支社水戸保線設備技術センターの井坂祐輝主務は「散布作業では1割程度の人力作業の削減効果を期待している。軌間内にも直接散布できるようになり、軌間内の砕石不足箇所の解消も期待できるだろう」と話す。
16時30分、砕石を満載したGV―E197系が水戸方面へ出発した。水戸駅構内の留置線へ到着後、砕石を散布する各地へ向かう。水郡線の砕石輸送は冬から夏にかけて月に2~4回程度行い、水戸支社管内の常磐線など3線区約660㌔、千葉支社管内の総武線など10線区約740㌔の散布に使われる。
このほか、高崎支社でも吾妻線小野上駅の改良工事が完了した今年2月から、高崎、八王子、横浜、大宮の各支社と新潟支社の一部を散布エリアとして、同線でGV―E197系による砕石輸送を実施している。
■25万平方㍍の採掘場
昭和20年代から西金産の鉄道用砕石を提供する関東商工(水戸市)の河野秀幸社長に、西金駅から久慈川を挟んだ山の中腹に約25万平方㍍の規模を誇る西金工場の採掘場を案内してもらった。
製品ストックの小山の間を縫い、車は原石運搬路を上っていく。現在、原石の採取は標高175~190㍍付近で行われている。眼下にはプラントをはじめとした採掘場一帯が広がり、原石を採取している岩盤や採掘跡地、周囲を取り囲む山並みを一望できる。
原石の採取作業は、クローラドリルで岩盤に爆薬を仕掛けるための穴を開け、発破で崩した後、油圧ショベルで原石を削り取り、32㌧積みの重ダンプに積んでプラントへ運ぶ。投入口へ投じられた原石は複数のクラッシャーで砕かれ、整形されて用途に応じてサイズを選別される。同工場のプラントは毎時320㌧の原石処理能力を持つ。
鉄道用砕石は直径19~63㍉で角張っているものが使われる。同工場ではこのほか、アスファルト合材やコンクリートに用いる砕石、路盤材、砂などを出荷している。
西金産の砕石は、約2億年前に海底に堆積した砂がプレートの沈み込みによって圧力や熱などで硬く緻密に押し固められた硬質砂岩だ。河野社長は「適度な硬さを持ちつつも摩擦によるすり減りに強く、鉄道用の砕石に向いている」と説明する。
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