交通新聞社 電子版

特集 鉄道の昔 知る ミュージアム ~SLキューロク館を訪ねて~

2024.09.05
土休日は1日3回、自走する9600形(49671号機)

 見学、乗車、体験…楽しさいっぱい!

 茨城県と栃木県を結ぶ第三セクター鉄道・真岡鐵道が管理運営する真岡駅構内にある「SLキューロク館」(栃木県真岡市)。蒸気機関車をはじめ、歴史ある車両を展示する〝鉄道の昔を知る〟ミュージアムである。土曜日・休日には「9600形49671号機」「D51形146号機」の自走シーン、「SLもおか」(C12形66号機)到着に合わせた見学目的の家族連れ、鉄道ファンらでにぎわう。

 

 ●車両の愛称から命名

 SLキューロク館は、「真岡市SLの走るまち」の拠点施設として観光振興、交流人口の拡大、周辺地域のにぎわい創出、真岡鐵道の利用促進などを図るため、2013年4月に開館、11年目を迎えた。

 施設名は、太いボイラー、短い化粧煙突、低い二つのドームにかたどられた9600形が「キューロク」の愛称で親しまれたことから。建物はSLをモチーフとした真岡駅との複合施設。真岡駅には子ども広場、駅前交番、真岡鐵道本社が併設されている。

 

 ●無料見学、乗車体験も

 施設内には9600形、D51形のほか、スハフ44形客車、ヨ8000形車掌車、キハ20形ディーゼル動車、DE10形ディーゼル機関車、ト1形無蓋(がい)貨物車、ワ11形木造有蓋貨物車、ワフ15形貨物緩急車を展示する。無料で、気ままに、自由に見学できる。9600形の運転台、スハフ44形客車の車内に入ることもできる。

 9600形は、土曜日・休日に1日3回(10時30分、11時30分、14時30分)ヨ8593号車を連結して、D51形は指定日の土曜日・休日(10時30分、13時30分)単機で自走する。動力源はいずれもコンプレッサーによる圧縮空気。石炭は使用しないため蒸気機関車特有の黒煙は上らないが、漆黒(しっこく)の機関車が汽笛を鳴らしながらゆっくりと登場するシーンは圧巻だ。

 ヨ8593号車の乗車体験は4歳以上1人300円(1回最大20人程度)、D51形の助士席乗車・汽笛吹鳴体験は1組1000円(最大4人まで)。

 SLキューロク館では「SLミュージアム回遊」と合わせて利用を呼び掛ける。

 

 ●9600形蒸気機関車

 1D型過熱式テンダー機関車で、展示しているのは初代9600形を改良するため設計された2代目と思われる。49671号機は、1920年に川崎造船所兵庫工場で製造され、76年の廃車まで北海道内で貨物列車けん引用として活躍した。

 引退後は真岡市内の井頭公園で展示、改修後は2013年にSLキューロク館に移設された。1D型とは軸配置が先輪1軸、動輪4軸で構成される機関車。

 

 ●49671号機 472番目の製造

 D51形146号機はD51形式の146番目、C12形66号機はC12形式の66番目の製造。では、49671号機は9600形式の何番目の製造なのか?

 9600形の番号と製造順の関係は、1機目を9600としたことで、2機目9601、3機目9602となり、100機目は9699。だが、101機目は9700とはならなかった。理由は9600形製造時点で9700形が存在していたから。

 このため、101機目は万の位に1を加えて19600とし、再び下2桁が99に達すると、万の位の数字を繰り上げた。製造順は「万の位の数字×100+下2桁の数字+1」。49671は「472番目の製造」となる。

 9600形は1913年から26年までに770両製造。最後の番号は「79669」である。

 

 ●運転台は右側

 鉄道車両の運転台は進行方向に対して左側にあるが、49671号機は右側にある。

 同館案内板によると、製造当初は左側だったが、北海道・五稜郭機関区から有川桟橋に向かう入れ換え線の線形が極度の右カーブであったことから、左側の運転席では前方が全く見えず、右側に改造されたという。

 

 ■D51形蒸気機関車

 146号機は1938年に日本車輌製造名古屋工場で製造され、76年の廃車まで北海道内で活躍。静岡市内の城北公園で展示されたが、2015年に真岡市が譲り受けた。

 ■スハフ44形客車

 1954年に製造された北海道向け車両。25号は急行「ニセコ」の客車として活躍した。2012年に真岡駅に移設された。車内は休憩スペースとして開放されている。

 ■キハ20形ディーゼル動車

 1957年に誕生した旅客用車両で全国各地のローカル線で活躍。247号機は88年4月の真岡線の第三セクター鉄道転換時まで同線で運用された。

 ■DE10形ディーゼル機関車

 1966年から78年ごろまで製造された中型ディーゼル機関車。1014号機は大阪貨物ターミナル駅での入れ換え作業やJR四国「アイランドエクスプレス四国」のけん引機として活躍した。

 ■ト1形無蓋貨物車

 積載重量10㌧の2軸小型無蓋貨物車で、1940年に日本車輌製造で製造。車両側面には「一畑電鉄」の文字が残され、砂利散布用として使用された。無蓋とは車体に屋根や蓋(ふた)がないことの意。

 ■ワ11形木造有蓋貨物車 

 積載重量10㌧の屋根付き2軸小型有蓋貨物車。昭和初期に新潟鐵工所で製造。地方私鉄向けで躯体(くたい)以外は全て木材で構成されている。12号は元蒲原鉄道で活躍。

 ■ワフ15形貨物緩急車

 列車にブレーキを掛けるための装置が取り付けられた車両。貨物を搭載する車両に車掌や制動手が乗り込む場所を取り付けた。倉敷市交通局で使用された。

 ■ヨ8000形車掌車

 ヨ 8016? ヨ 8614?

 ヨ8000形は1974年から79年ごろまで製造され、貨物列車最後尾に連結された事業用貨車(車掌車)。現役時代を知る鉄道関係者によると、2軸のため走行中はかなり揺れたそうだ。「ヨ」は車掌(シャショウ)の「ヨ」らしいが、酔っぱらいの「ヨ」ともいわれていた。

 SLキューロク館では、8593号車、8016号車の2両を展示しているが、8016号車車内の側面には「ヨ8614」の表記。一部で8016号車は現存していないとの説もあり、いずれが正しいのか、謎は深まるばかり。

 ◆9月6日は「キューロクの日◆

 SLキューロク館は、施設名にちなんで9月6日を「キューロクの日」と定めた。今後も秋の行楽シーズンに合わせたイベントを開催していく。

 開業から今日までの利用に感謝の気持ちを表すとともに、新たなファンづくりにつなげていく。イベント概要などは同館ホームページで案内される。

  

 ◇鉄道を守る「守鐵社」

 真岡駅東側にある「守鐵社」。真岡鐵道下館―茂木間全線開通までの建設工事の際に取り壊された熊野権現、稲荷明神、八幡宮の3社を一つにまとめ、鉄道の安全を守る願いを込めた神社として1923年に再建された。

守鐵社と沿線6社では、真岡線の利用促進と沿線地域の活性化を目的に「真岡鐵道沿線ご朱印めぐり」を開催中。守鐵社は蒸気機関車、6社は客車が印刷され、つなげると1編成になる。真岡駅で販売する守鐵社のご朱印は「右向き」「左向き」の機関車を用意した。初穂料は各社500円。

 

 ◇開業から112年「真岡鐵道」

 真岡鐵道は1912年4月、官設鉄道の真岡軽便線として下館―真岡間(16.5㌔)で開業。13年7月に真岡―七井間(12.0㌔)、20年12月に七井―茂木間(13.5㌔)が開通した。27年12月に国有鉄道化された。

 70年3月に国鉄真岡線でのSL運行を廃止。84年6月には国鉄経営再建促進特別措置法に伴う第2次特定地方交通線に指定された。87年4月時点ではJR東日本が運行管理したが、翌88年4月に第三セクター鉄道・真岡鐵道に移管された。

 

写真説明

㊤土曜日・休日は1日3回、自走する9600形(49671号機)㊦ヨ8593号車の乗車体験は家族連れなどに人気を博す

49671号機の運転台

守鐵社のご朱印と真岡駅

茂木駅に停車する「モオカ14形ディーゼル動車」。薄緑地に濃緑色の市松模様と腰部のオレンジ色のカラーリングが特徴だ

展示されているヨ8000形(8016号車)と車内側面の「ヨ8614」の表記

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