特集 JR東日本 JR東京総合病院「e棟」開業 より質の高い「医療」提供へ
JR東日本は4月8日、建て替え工事を進めているJR東京総合病院で、人間ドックセンターとJR東京総合病院高等看護学園がリニューアル移転した「e棟」を先行開業した。最新機器による高精度の検査や、充実した教育を通じて、さらに質の高い医療サービスを提供する。新しく生まれ変わる同病院について、宮入剛院長(学園長)のインタビューを交えて紹介する。(相川 夏子記者)
■概要
同病院の病棟(地上15階・地下3階建て)は国鉄時代の1980年に竣工(しゅんこう)。建設から40年以上が経過し、建物と設備の老朽化が進んできたことから、2021年から建て替え工事を進めてきた。
計画によると、全体の建築面積は約9500平方㍍、延べ床面積約6万1600平方㍍。敷地東側に地上7階・地下2階建て、延べ床面積約9600平方㍍の「e棟」を新設。現在の病棟を挟んだ西側に地上16階・地下2階建て、延べ床面積約3万3500平方㍍の新病棟(入院棟)を建設する。新病棟開業後、現病棟は解体し、中庭として整備する。既存の外来診療棟(延べ床面積約1万8000平方㍍)は建て替え計画の対象外。新病棟は「A棟」の名称で25年春に開業、全体の完成は27年秋を予定している。
「e棟」の名称は、病院の東(east)側に位置すること、また教育(education)施設である高等看護学園が入ることなどから命名した。1、2階が人間ドックセンター、5、6階が高等看護学園で、4階は社員向けのカフェテリアや会議室、3階は更衣室などとなっている。
■人間ドックセンター
最新機器、利便・快適性も向上
新しい人間ドックセンターは1、2階で全ての基本検査を行うことができる。これまで外来棟7階にあった時は、胸部レントゲン、CT、バリウム検査などは外来棟地下2階まで一般の患者に交じって検査着で移動しなくてはならなかった。これが解消され、利便性・快適性が向上。看護師が常駐するようになり、スタッフルームも新設された。
内装は、ソファの仕切りや天井のルーバーに多摩産材をふんだんに使用するなど、木のぬくもりが心地よい。ゆったりと落ち着いた空間で快適に受診できる環境を提供する。
胃カメラは、経鼻にも使用できる最新鋭の細いファイバーで、苦痛を大幅に軽減できる。オプションの鎮静を選べば、さらに楽に検査を受けることができる。バリウム検査は行わない。
注目は、解像力に優れた低線量胸部CT。肺をターゲットにし、胸部Ⅹ線画像では検出できない小さな病変まで検出することが期待できる。通常のCT検査の10分の1の被ばく量で済むという。
スペース拡充に伴い、受診枠は従来の1日当たり最大42人から80人へと約2倍に。22年度の約7400人から、24年度は約1万2000~1万3000人、25年度は約1万4000~1万5000人の受診を見込む。
病院建て替えプロジェクトを担当する山上淳吉予防医学科・総合診療科(兼務)部長は「胃カメラをはじめとして検査人数を2倍に増やすのは苦労したが、人員配置などの体制を整えた。JR社員や配偶者、関連企業の皆さまの受診を集約し、健康経営に寄与するとともに、株主さまをはじめ、一般の受検者の皆さまにもぜひご利用いただきたい」と意欲をみせる。
■白衣リニューアル
同病院では4月から、医師が着用する白衣をリニューアルした。病院の顔として、院長以下、全医師がそろいのオリジナルロゴ入り白衣を着用している。
ワーキンググループを立ち上げてリニューアルするのは初の取り組み。左袖のロゴは看護師(社員)がデザインし、JR東日本の企業立病院であることがイメージしやすいよう、線路のマークを取り入れてオリジナリティーを演出。白衣の型などは実際に着用する医師へのアンケートや投票を行い、1年以上かけて作成した。
■高等看護学園
共用スペースが拡充、体制充実
高等看護学園は、5階に学年ごとに分かれた座学の教室、精巧な人体模型が収められた教材室など、6階に実習室や在宅看護実習室、図書室、パテオと呼ばれる学生ホール兼調理実習室などが並ぶ。Suicaによる入退室システムを導入し、セキュリティー向上を図る。
実習室では学生3人にベッド1台を使用(東京都の基準は4人に1台)。まばたきや異常心音などの各種シナリオを設定できる学習用の人形「多職種連携ハイブリッドシミュレータ〝SCENARIO〟」を2体配備するなど、充実した設備が自慢だ。
1学年定員30人の少人数制によるきめ細やかな指導を行っており、看護師国家試験合格率は過去6年連続100%を誇る。移転リニューアルにより、さらなる教育体制の充実が図られる。
佐々木陽子教頭は「看護教育に必要な設備が整い、看護師の資質向上につながる環境になった。全体的に広くなり、これまで手狭だった共用スペースが拡充されたことから、コロナ禍で縮小を余儀なくされた3学年の交流拡大に期待している。将来のチーム医療のスキルが上がるのでは」と期待を寄せる。
■A棟、中庭
建設工事が進むA棟は、救急外来を移設・拡充。病室は快適性、セキュリティーを強化し、半個室化してプライバシーを高めた4床室を新設する。陰圧室を増やし、感染症対策を強化する。
総合受付、相談窓口などは1フロアに集約して利便性を向上。現在、躯体(くたい)は立ち上がり、内装工事に入っている。来年1月に引き渡しを受ける予定。
現病棟の解体後は人工地盤を建設して、憩いの空間となる中庭を設置。その下は災害時にトリアージなどが可能な駐車場とし、土地の有効活用を図る。27年秋の完成を予定しており、全面オープンを迎える。
■インタビュー
JR東京総合病院長・高等看護学園長 宮入 剛氏
愛され選ばれる病院に
――e棟の印象はいかがですか。
宮入 新宿の高層ビル群に囲まれた中で、近代的な外観を保ちつつ、内部は多摩産材などを使用して非常に安らぎを感じられる空間になったと思います。安心して人間ドックを受診していただける環境が整いました。
――新たな人間ドックセンターに期待することは。
宮入 全体としては高品質で適正な価格の人間ドックだと思います。総合病院で行うので、今後はアフターケアにも力を入れていきたいと考えています。JR社員の方に多数受診いただいていますが、一般の利用もお待ちしています。「大人の休日俱楽部」会員は割引価格で受けられます。
――e棟には高等看護学園も入ります。学園長としての思いは。
宮入 当学園の看護師国家試験合格率は過去6年連続100%を誇ります。100%を保つ秘訣(ひけつ)は学生の優秀さに加え、学園の雰囲気が良いからではないでしょうか。教員のきめ細かいサポートも大きいですね。素晴らしい環境と設備の下、気持ちも新たにのびのびと学んでいただきたい。実習を通じて、当病院に対する愛着を深めていただくのも重要だと思います。
――来春開業予定のA棟について教えてください。
宮入 4月11日に上棟式を行いましたが、現病棟と比べると各フロアが臓器別に近くなり、より効率的で質の高い医療を目指せます。患者さまが快適に過ごせて満足度が高まるよう、インテリアは木材を多用し、メインエントランスに多摩産材のルーバーや什器(じゅうき)を使用するなど、e棟との統一感を持たせたデザインとします。
――全面開業時の病院の将来像はどのように描いていますか。
宮入 目標は、安全で質の高い医療で患者さまに愛され選ばれる病院です。日本一のマンモスターミナルに至近であるというロケーションを生かし、機動性と先進性を兼ね備えた特色と魅力ある病院をつくりたいと考えています。JR東日本が展開しているエキナカクリニック「スマート健康ステーション」との連携を深めていきます。また、医療でもDXは急速に進んでおり、技術を活用していければと思います。(A)
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