特集 JR東日本 高崎支社「SL活用し楽しく学ぶ」 安中エリアの観光学習
地元の良さを知るきっかけに
地域活性化、鉄道需要創出へ
JR東日本高崎支社は、安中市観光機構(群馬県安中市)と連携して、同市内の小学生に向けて、SLを活用した信越線高崎―横川間の沿線観光資源や鉄道遺産を楽しく学ぶ「安中エリアの観光学習」を開始した。同市在住の小学生をSLに招待。地元の良さを知るきっかけとして、SLを通じて地域の歴史や文化を学び、その魅力を多くの人に伝えてもらうことで、安中市の活性化と鉄道需要の創出につなげることを目指す。(福原 潤記者)
同学習の第1弾は9月13日、2025年度に統合予定の安中市立松井田小学校120人、安中市立細野小学校34人の児童計154人を対象に実施された。同学習が両校児童のコミュニケーションの場となり、思い出に残る共通体験を創出してもらおうと企画された。
安中駅を10時12分に出発し、10時49分に横川駅へ到着する試運転列車を活用。安中駅出発後の車内では同線沿線の歴史などの観光学習が、横川駅到着ホームではSLが動く仕組みや構造についての学習を計画した。
10時すぎ、同線安中駅3番線ホームに電気機関車(EL)がけん引するC6120号機が入線した。児童らは期待に胸を膨らませながら、順序よく乗車した。学習の始まりは互いの学校の紹介から。車掌室の放送装置を用いて、両校の紹介を実施。続けて、両校の代表児童が「歴史ある文化を守っていくために、大人になったら多くの人たちに安中市の魅力を発信していきたいです」「SLでの思い出をたくさんつくってください」などとそれぞれ呼び掛けた。
両校の校歌斉唱が行われた後、いよいよ車内での同線沿線の観光学習へと移った。「教材」として用いたパンフレットは「デゴじいと行く SL学びたび 信越本線編」。同学習の開始に伴い、同支社社員が製作した冊子だ。同線沿線の歴史やSLの仕組みなどを図解とともに分かりやすくまとめられている。
同支社高崎営業統括センターの社員や安中市観光機構の職員が、同線沿線の歴史や、妙義山などの観光資源について説明。SLに関するクイズなども出題され、車内はにぎわいを見せた。
横川駅では、同支社ぐんま車両センターでSLのメンテナンスに携わる社員が、蒸気機関で動くSLの仕組みをレクチャーした。児童らは大音量の汽笛吹鳴も近くで体感。見た目の迫力に音、匂い、肌に感じる熱など、五感でSLの魅力を感じながら、地域への理解を深めていた。参加した児童からは「迫力があってかっこ良かった。景色もすごくきれいで、この経験は忘れないと思う」や「みんなと楽しくSLに乗れてよかった。みんなに広めたいと思いました」などと振り返っていた。
樋口達夫執行役員・高崎支社長・同支社鉄道事業部長は「地域の歴史や文化、鉄道を学んでもらい、その魅力を多くの人に伝えてもらうことによって、ゆくゆくは観光流動効果、安中市の活性化と、鉄道需要の創出につなげていければ」と話す。
同学習の取り組みがユニークな点にSLの試運転を活用して、実施されたことが挙げられる。試運転は平日に実施されており、営業されていない。試運転は通常、メンテナンス後の動作確認や乗務員の訓練運転のために、実施されている。
同支社と同機構担当者が交流する中で、同機構の「市内の小学生に安中市の文化や歴史、めがね橋などの鉄道遺産について学ぶきっかけをつくりたい」という思いと同支社の「将来の鉄道ファンをつくりたい」という思いが重なった。文化や歴史といった地域資源を振り返る過程で「SL」に着目し、地域の文化遺産に含まれると定義。同学習の展開に至った。
「デゴじいと行く SL学びたび 信越本線編」は群馬県立図書館へ寄贈されているほか、安中市内の小学校、中学校の図書室などへの寄贈を予定。同支社によると、同学習は主に小学校4~6年生の児童を対象に「総合的な学習の時間」で活用してもらうことを想定している。
■今後も地域と連携
◇福島俊明高崎営業統括センター副所長・安中駅長の話
地元の良さを知っていただくことと、統合予定の2校の児童にとって、楽しい共通体験をしていただきたいと思い、企画しました。また、その両校の児童を『つなぐ』役目をSLが担わせていただきました。本日の観光学習は大成功だったのではないでしょうか。子どもたちの笑顔がそれを物語っていると感じています。
SLを体験する機会は少ない面もあると思います。本日は迫力ある汽笛の音も間近でご体感いただきました。教育の観点からも、まずは乗って、体験していただけて、本当に良かったと思います。
地元の皆さまに愛される路線をこれからも目指し、地域とともに連携した取り組みを行ってまいります。
■急勾配「碓氷峠」への玄関口
★横川駅周辺の地域資源
今回の参加児童らが降車した横川駅は、「急勾配の峠『碓氷峠』への玄関口の駅」として、1997年に関東の駅百選に選定された駅だ。同駅改札を出て、まず目に入るのが体験型鉄道テーマパークの「碓氷峠鉄道文化むら」。鉄道史料の展示をはじめ、30車両以上の実車が並ぶ。97年に廃線となった碓氷線の歴史を後世に語り継ぐ唯一無二の〝資料館〟だ。
同駅から5分ほど歩いた場所に佇(たたず)むのが、中山道の碓氷関所跡。群馬の歴史や地理、名物などをよんだ「上毛かるた」にも登場する同地は、関東出入国の関門として、17世紀前半に江戸幕府によって設置された「碓氷関所」の跡地。東海道の箱根関所、中山道の福島関所(長野県木曽町)とともに重要な関所とされていた。現在、碓氷関所跡は群馬県指定文化財に指定されている。
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