特集 JR東日本アイステイションズ 正確な列車運行情報を提供
鉄道事業者と利用者の「架け橋」
ジェイアール東日本企画(jeki)の100%出資子会社のJR東日本アイステイションズは全国で唯一、JR東日本から直接、運行情報を入手し、配信できる事業者だ。同社は1997年12月、時刻表情報サービスとして発足。2015年7月に現社名に変更した。現在では、全国の鉄道事業者70社局の運行情報を公式・公認情報として提供している。また、コンテンツプロバイダーや報道機関などにも運行情報を提供しており、活躍する領域は幅広い。JR東日本アイステイションズの歩みと取り組みを紹介する。(福原 潤記者)
■年間11万件、1日換算300件超
年間11万764件――サイネージなどのデジタルメディアを通じて行う情報提供と、それを提供するシステムを手掛ける同社が、2022年度に配信した情報件数の総数だ。1日平均に換算すると、300を超えていることが見て取れる。
配信件数は年々増加の一途をたどっているという。同社のまとめによると、19年度は年間6万551件。この3年間で182・9%と大きく伸長している。
スマートフォンの普及や、多様な場所へのデジタルサイネ―ジの設置など、利用シーンの拡大も相まって、増大し続けている情報配信への需要。これに対応できるのは、同社が四半世紀にわたって、鉄道に特化したシステム構築で培ってきた技術力にある。
各鉄道事業者のホームページをはじめ、車両内の液晶ディスプレー(LCD)、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)と、鉄道事業者が求める配信媒体は多岐にわたる。さまざまな媒体ごとに異なる技術的仕様を踏まえつつ、タイムリーかつ正確に発信することが求められる。このノウハウは、一朝一夕に培えるものではない。
ひとたび輸送障害が生じた時の、指令や駅現場の業務繁忙ぶりは想像に難くない。
■入手から配信まで 平均わずか2~3分 時勢踏まえ、分かりやすい用語で
同社が提供する「情報配信業務受託/システム開発ソリューション」は、運行情報や振替情報、遅延証明書といった各種情報データの入力や、運行情報配信に特化したものから多言語に対応したものまで、鉄道事業者のニーズに合わせたシステムを提供するサービスだ。
これにより、一刻も早い運転再開に向けた業務や、利用者から寄せられる問い合わせなど、鉄道事業者は各職域で、より優先すべき事柄に専念できる。同社が提供するシステムやサービスは、迅速な運転再開と鉄道利用者へのサービス向上の一翼を担っている。
運行情報の入手から配信まで平均してわずか2~3分。この速さを実現できているのは、各鉄道事業者によって異なる情報提供方法やニーズなどに対して、熟練のオペレーターたちが24時間365日、常に複数名の体制で配信できるオペレーションを持つ同社ならではだ。
運行情報で使用する用語の見直しにも余念がない。輸送障害を生じさせる「原因用語」のうち、時代の変遷とともに刻々と変化する事柄も存在する。鉄道事業者とともに、定期的に見直している。時勢を踏まえた用語をシステムに組み込むことで、より分かりやすい情報発信に努めている。
「JR東日本アイステイションズ」の社名のうち、アイはインフォメーションやアイティーの頭文字から取っており、ステイションズには「運行や映像など、さまざまな情報の発信基地」という意味が込められている。同社が展開する事業やそれらが果たす役割を鑑みると、同社名は、まさに「名は体を表す」の言葉通りといえよう。
■他社にはない高い技術力 事業者の課題解決に全力
田口雅章 営業部部長
――会社設立から四半世紀を迎えました。
田口 弊社はJR東日本グループのジェイアール東日本企画100%子会社ですが、設立当時はベンチャー企業として、鉄道に関係する情報をデジタル化して世の中の役に立てないか、そのような想いを持って設立されました。1999年からの鉄道運行情報のデータ配信、2002年からはデジタルサイネージへのコンテンツ配信を核に、事業を展開しています。関連する業務やシステムの提供など、年々事業領域を拡大しつつ、昨年の12月に設立25周年を迎えることができました。
――JR東日本アイステイションズの強みはどこにあるのでしょうか。
田口 戦後、日本が限られた資源の中でここまでの発展を遂げられた理由に「技術力」は欠かせなかったと思います。弊社の強みも「技術力」にあります。『動いていることが当たり前』とされる日本の鉄道インフラを支えるためには、鉄道ならではのセキュリティーポリシーや、正常性を維持するための盤石なシステムが求められます。オペレーションにおいても、迅速かつ正確に情報を届けるためには技術力は欠かせません。長年の実績に裏付けされた高い技術力が当社にとって最大の強みです。
――全国の鉄道事業者はもとより、コンテンツプロバイダーや報道機関など幅広い分野で貴社サービスが活躍しています。
田口 鉄道は生活においてなくてはならないものであり、そもそもの鉄道運行情報の価値自体が高いというのはあると思いますが、昨今の自然災害の頻発・激甚化により、その価値はますます高まってくるのではないでしょうか。鉄道を利用される方が、駅にお越しになる前に運行情報を発信されたいニーズも、一層増えています。弊社ではそのような重要な情報を、鉄道事業者さまの公式、公認を得て、迅速かつ正確に、お届けしています。
――本年度より組織の在り方を見直されているそうですね。その背景やお考えをお聞かせください。
田口 これまでは、 交通情報ソリューション事業部と、サイネージソリューション事業部という形でやってきましたが、双方の垣根を取り払って、全体視点でお客さまにご提案できる幅を広げることを目的に、組織の在り方を見直しました。直近ではシナジーを生かしてさらに拡大、深化していくことを目指していますが、中長期では新事業の創出が肝要と位置付けています。『未来の日常を創っていけるような存在』でありたいと考えており、鉄道事業者さまが抱える課題解決に向けて、さらなるチャレンジを続けていきたいですね。
■他社線区含めトータルで
鈴木智茂営業部交通情報グループリーダー
昨今、相互直通運転の拡大により、広域的な鉄道ネットワークが形成されている。そのネットワークは、今もなお拡大し続けている。鉄道利用者にとっては乗り換え解消による利便性などを享受できる一方で、輸送障害発生時の課題もある。
「自社の運行情報はもちろんですが、自社路線と接続する他の鉄道事業者の運行情報も、入手して配信しなければなりません。指令の業務をやりながら、他社線の状況を把握するのはとても煩雑な業務です。当社のダイヤ情報センターでは、他社線区の状況も含めて、トータルでご提供するソリューションを手掛けています」(鈴木グループリーダー)。
指令の現場は、平時の運行管理に加えて、輸送障害発生時には振替輸送の手配、ダイヤの回復を目的とした関係箇所との調整など、さまざまな対応に追われる。
輸送障害発生時や頻発・激甚化する自然災害発生時など、鉄道利用者が駅に来る前に運行情報を把握したいとする、鉄道利用者のニーズは高い。また、入場規制を行うような混雑ぶりが生じた際の安全確保の観点などから、事前に情報発信したいとする鉄道事業者のニーズも高まっている。「情報発信のニーズが高まっている一方で、その担い手の人手不足に苦慮されている鉄道事業者さまもいらっしゃると思います。当社が構築している体制をご活用いただくことで、課題解決につなげていければと考えています」と話している。
■受け手に思いを巡らし……
小田淑子営業部交通情報グループリーダー代理
運行情報をスマートフォンなどのメールでお知らせするサービスに携わっている小田淑子グループリーダー代理。「鉄道の運行情報の提供は、最高度の正確性と信頼性で社会インフラを支える、一つのミスも許されない世界です。日々そのことを意識し真摯(しんし)に向き合って取り組んでいます」
発信する情報の受け手に思いを巡らし、迅速かつ分かりやすく、確実に伝えることを心掛けている。「当たり前のように動いている鉄道が止まっている時は、いわば『マイナスの状態』です。私たちが日々行っている情報発信は、そのような状況下で発信する面があります」と話す。その上で「『私たちがミスをしてしまうと、困っている方がさらに困ってしまう』。いわば防災情報に近しい面があるのではないでしょうか。お役に立てているという使命感や、責任感を皆が持って、日々仕事をしています」。
JRグループの垣根をも越えて、さまざまな鉄道事業者や各企業の課題解決、橋渡し役となる重要な役割を担っている同社。「お困りごとがございましたら、ぜひお手伝いをさせていただきたいです」と言葉に力を込める。
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