特集 JR東日本コンサルタンツ 情報サービス今年35周年 インフラの計画・設計・メンテナンス 技術サービスを展開
先端技術を駆使 近年、情報サービスにも注力
自社システムを次々開発
1989年4月に発足し、今年で35周年を迎えるJR東日本コンサルタンツ(JRC)。鉄道を基軸とした総合技術コンサルタンツとして、さまざまなインフラの計画、設計やメンテナンスを中心とした「技術サービス」を展開するとともに、近年は「情報サービス」としてICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの先端技術を駆使した事業にも力を入れている。最近のトピックスの中から、画像AIを活用した自社開発システムの「駅モニ」「Gunsyu(グンシュー)」、東京駅案内アプリ「東京ステーションナビ」、デジタルツインソフトウエア「TRANCITY(トランシティ)」を紹介する。 (相川 夏子記者)
■駅業務の効率化とサービス向上 駅モニ
JRCのAI技術開発は、2019年ごろから画像AI分野をはじめとし、音声AI、異音・特殊な音を検知する音響AIなどの幅広い分野で進められてきた。その開発上の特徴は、検出技術とそれを利用した解析技術の2段構成となっており、検出技術には随時最先端のオープンソースを利用。教師データ作成体制とAI学習・解析体制を自社で内製化していることから、さまざまな要望に短期間で対応でき、コストも抑えられる。
このうち、画像AIでは、20年から実用化しているソーラーパネル付きこ線橋の監視カメラ設置時にAI機能を搭載したことをきっかけに、駅業務の効率化や駅社員の負担軽減を目的にした「駅モニ」が開発された。22年春から東京都内の民鉄会社の駅で導入されている。
駅モニは既存設備を最大限活用することをコンセプトに開発され、イニシャルコストを抑えつつ、白杖(はくじょう)や車いすの利用者を検知すると駅事務室と改札に知らせる仕組み。生産性向上や利用者サービス向上に資するさまざまなDX関連施策を積極的に進めてきているJR東日本大宮駅の協力の下、JRCでは24年度導入を目標に現在試行を進めている。
また、ホームの混雑状況や、エスカレーターの危険な状態を検知してアラートするといった独自の最新技術の導入や、駅社員が携帯するタブレットにJRCで保有する駅構内図などを活用した位置情報と共に配信することも計画している。
「各駅で異なる特徴を鉄道コンサルとして理解し、丁寧に微調整を繰り返し、各現場に合ったAI検知システムを育てていく工程が非常に重要」(槇浩幸執行役員・イノベーション事業推進室長)という。
■超過密人流の自動計測に特化 Gunsyu
同じ画像AI分野でも超過密人流の自動計測に特化して開発したシステムが「Gunsyu」である。品川駅で22年に実施した人流調査では、自由通路を行き交うピーク時間2万人超の人数と流れを約95%の精度で計測した。
人物検知の基本的なベースの技術はディープラーニング(深層学習)による物体検知モデル。企業秘密に関わる部分もあるが、超過密な人流でも人体のごく一部で人と検知できるようさまざまな工夫をしている。ディープラーニングでは学習さえすれば男女別の判定もできる。
品川駅のほか、切り替え工事の前・工事中・後の渋谷駅、さらに赤羽駅での流動調査などに実用化。「流れの特徴を見ながら、微妙な調整、カメラ設置手法など、これまで蓄積した経験・実績・技術力を駆使し、98%まで精度を上げてきた」(槇室長)。駅以外でも街なかの雑踏やイベント会場などでの安全対策などに活用が期待される。
■利用者への情報案内高度化 東京ステーションナビ
大きく複雑に広がる東京駅を分かりやすく便利な場所にしようと、鉄道会館(当時、現・JR東日本クロスステーションデベロップメントカンパニー)と開発・導入したのが、東京駅案内アプリ「東京ステーションナビ」(ステナビ)。20年8月に一般公開され、今年2月時点で32万ダウンロード以上に。JRCは保守・運用を手掛けている。
東京駅とその周辺をカバーし、エキナカ・エキソトの現在地から目的地までをルート検索すると、最短ルートや段差解消ルートを表示。駅構内図だけでなく、店舗情報やトイレ、ロッカーの空き状況も見ることができる。
建物内はGPSの位置情報取得ができないが、駅構内や地下空間であっても各所に設置されたWi―Fiとビーコンによって自己位置を高精度に把握できる。アプリ開発に当たっては、1週間以上かけて駅構内の電波をくまなく測定、電波が弱い地点ではビーコンを追加設置するなど、屋内でも高精度に測位できる環境を適宜アップデートしている。
一般向けに開発したアプリだが、駅社員やインフォメーションセンター、店員が案内のために利用するという想定外の使われ方も。店舗情報はステナビを導入している各事業者やJRCによって日々更新しており、プッシュ通知などを活用したPRや、案内の効率化につながっている。
最近のトピックスとしては、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」の23年度ユースケース開発として、3Dナビゲーション機能とAR(拡張現実)を使った目的地案内機能を公開した(AR機能はiPhoneのみ)。これにより、東京駅と大丸有エリアの建物、地下道をシームレスにつなぎ、目的地までの経路を3D地図上で案内することが可能となった。
さらに、東京駅だけでなく、「品川・高輪ゲートウェイ」エリアでも昨年12月からステナビのサービス提供を開始している。一つのアプリで複数駅の情報が得られれば非常に利便性が高い。
「多くの鉄道会社が乗り入れる駅で移動する利用者にとっては、鉄道事業者の区別なく情報が得られることが重要だと思う。ぜひステナビに参加してくださいとほかの鉄道会社や、まちづくり事業者にも呼び掛けている。ワンストップで情報を提供できるようにしていくのが私たちの目標」(深見じゅんICT事業本部デジタルツイン事業部門マーケティングサービスユニット長)
デジタルの測位環境が整ったインフラとしての地図、プラットフォーム化を目指して今後も進化を続けていく。
■建設工事現場やメンテ業務で省力化 TRANCITY
建設工事現場や既存インフラの維持管理などの場面で威力を発揮するのが、「TRANCITY」(トランシティ)。現実空間で収集したデータを基に仮想空間上に3次元データを再現するデジタルツインソフトウエアで、JRCとJR東日本、小型ドローンなどによる映像取得事業なども手掛ける「CalTa」(カルタ、東京都港区)が開発した。
小型ドローンやスマートフォンなどで撮影した動画をアップロードすると、スピーディーに点群を自動生成・可視化、ワンストップで3次元データを生成する。タブレット端末やスマホでも操作・閲覧が可能だ。
鉄道設備の改良・新設ではこれまで、社員が現地に赴き計測、結果を記録していたが、3次元データを取得しデジタル空間上での計測が可能になったことから、工事写真・検測記録のデジタル化や、現場作業の効率化(遠隔地の現場管理、近寄れない現場の計測)など、大幅な省力化が図られる。タイムラインや「3Dウォーク」などの機能も搭載しており、利用者や運転士目線での確認、関係者の合意形成への活用に役立ちそうだ。
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