江ノ島電鉄 「令和6年度 江ノ電鎌倉駅西口改札における沿線住民等優先入場の社会実験」に協力
江ノ島電鉄は5月3日から5日まで、神奈川県鎌倉市の「令和6年度 江ノ電鎌倉駅西口改札における沿線住民等優先入場の社会実験」に協力する。急増する訪日外国人客の影響を受ける鎌倉市内の対象地域に在住・在勤・在学する利用者の移動円滑化につなげるのが目的。始発の鎌倉駅で実施する。
オーバーツーリズム対策
コロナ禍を経て、再び増加に転じている訪日外国人客。自然、文化、歴史、味覚など諸外国にはない日本独自の魅力を求め、訪れた2023年の外国人客(推計)は2506万6100人。コロナ禍前の19年比との比較では21・4%減だが、24年に入ると1~2月累計で547万6100人、19年比3・4%増まで回復し、年間3000万人の復活も視野に入っている。
着実に戻りつつある訪日客によって観光立国・日本の完全復活の日も近い一方で、再燃し始めているのが「オーバーツーリズム」(観光公害)問題。有名観光地では大挙して押しかける訪日客に頭を悩ます自治体・観光関係者。さらにはモラル、マナーに苦言を呈する自治体、入場規制などに乗り出す観光地も出始めている。
オーバーツーリズムによって直接的な〝被害〟を受けているのが観光地エリアの居住者。日常生活に不可欠な鉄道、バスなどの公共交通機関が訪日客の急増によって、スムーズに乗車・利用できないといった問題が顕著になっている。このうち、国内外から年間約2000万人の観光客が訪れる鎌倉市は、江ノ電・JR東日本鎌倉駅を中心とした狭いエリアが人気を集めていることもあり、駅周辺の混雑や道路渋滞が発生している。
乗車まで1時間超観光客、踏切で撮影
鎌倉駅と藤沢駅を結ぶ江ノ電は、ゴールデンウイーク期間中には鎌倉駅の外まで乗車目的の観光客の列が発生。乗車するまでに1時間以上待つこともあり、地域住民や通勤通学客の利便性が損なわれる事態になっている。また、人気アニメ「スラムダンク」のオープニングで登場する鎌倉高校前駅近くの踏切では、東アジアを中心とする訪日客が写真撮影目的で押し寄せるシーンは相変わらずで、踏切近くの車道に滞留、道路にごみを捨てたりするなどの社会問題にまで発展している。訪れたこの日も現場では警備員が安全確保のため、来訪者を歩道などに誘導していた。
江ノ電が参加するこの社会実験は、鎌倉―腰越間に在住・在勤・在学する利用者の日常生活に影響が生じる状況を考慮し、緊急を要する場合を想定して実施する。
17年に初めて行われ、18~19年、コロナ禍の中断を経て23年から再開した。その名の通り、江ノ電利用について、対象となる地元利用者が鎌倉駅構内や鎌倉市役所で発行される証明書を提示すれば、観光客より早く鎌倉駅に入場できるようにする。入り込みピークとなる各日12~16時を設定し、駅構外に乗車待ちの列が発生しない場合は行わない。
鉄道利用を敬遠?昨年GW46人利用
鎌倉市がまとめた23年5月4~6日の実績によると、江ノ電鎌倉駅の入場規制がかかった4日13時~16時30分に証明書を利用して乗車した人は46人だった。
同市役所などでは4月24~29日の6日間、2332枚の証明書を発行したが、結果は当日の鉄道利用を控えた可能性は否めず、観光客が沿線住民の地域の足の利用に何らかの影響を及ぼしている実態が浮き彫りとなった。証明書発行の年代別では40代約16%、50代約24%、60代約15%、70代以上約17%など。
証明書申請時のアンケート調査では、休日における江ノ電の現状について「とても混雑している」約66%、「混雑している」約32%と、約98%が〝不快〟に感じており、(鉄道の)「利用を控えている」「控えることがある」と回答した人の合計も約83%に上った。代替手段としてはバス約11%、自家用車約28%、自転車・徒歩などが約57%だった。
共存共栄へ模索協議会立ち上げ
鎌倉市では昨年11月、国、藤沢市とともにオーバーツーリズム問題の解消に向けた協議会を発足。地域住民の安心、安全はもとより、駅頭で長蛇の列をつくる観光客の満足度向上への課題解決に取り組んでいる。
江ノ島電鉄の12~16時台の列車ダイヤは1時間当たり4本(14時台5本)。
「列車を増発すれば……」との声もあるが、全線単線区間のため運行本数を増やすことは難しい。地域住民と観光客の共存共栄のための公共交通機関の模索は続く。
■観光庁が先駆モデルに
観光庁は、オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けて、住民を含めた地域の関係者による協議の場の設置、協議に基づく計画策定や取り組みに対する包括的な支援を行う「先駆モデル地域型選定地域」に鎌倉市が申請した「鎌倉市・藤沢市エリアにおけるオーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」を選んだ。
「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」に基づき、今年1月の1次公募について、有識者による審査を経て「先駆モデル地域型」20地域と「一般型」51件を選定した。
選定地域では今後、地域の関係者による協議の場を立ち上げ(「鎌倉市・藤沢市」は設置済み)、現状課題分析に基づいた具体策に係る計画を策定して効果的な取り組みを実施する。
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