交通新聞社 電子版

特集 脱炭素へ取り組み加速 首都圏の民鉄各社

2022.05.12
東急は19年に世田谷線で再エネ100%電力での運行を開始。今春全線に拡大

 2050年カーボンニュートラル実現へ

 2050年までに温室効果ガスの排出量を全体でゼロにする「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、鉄道各社でもさまざまな取り組みが始まっている。従来から進めてきた車両や駅、業務施設の省エネルギー化などに加え、再生エネルギーによる電力(グリーン電力)を活用して運行時の二酸化炭素(CO₂)排出量を実質ゼロにするといった動きも盛んになってきた。首都圏大手民鉄を中心に、CO₂排出量削減に関するものを紹介する。(鴻田 恭子記者)

 環境負荷が低い輸送手段

 環境負荷が低い輸送手段といわれる鉄道。国土交通省の「鉄道分野のカーボンニュートラル加速化検討会」資料によれば、輸送量当たりの排出量が、旅客で自家用乗用車の8分の1、貨物で営業用貨物車の13分の1とされる。国内CO₂排出量(19年度)約11億800万㌧中、鉄道分野は993万㌧(0・9%)、その90%弱が電力由来だ。

 負荷低減追求進化する技術

 さらなる負荷低減に向け、車両に関しては車体の軽量化やVVVFインバーター・回生ブレーキの導入などが進んだ。蓄電池電車やディーゼルハイブリッド車両が営業運転を開始し、水素燃料電池車両の試験車両も登場。バイオディーゼル燃料の試験も行われている。施設関係では照明施設のLED化や自然光活用、緑化などに加え、建物や社有地を活用した再エネ発電、駅での回生電力活用などを行っている社もある。

 また、4月の東京証券取引所の市場再編で新区分のプライム市場上場会社には、企業統治に関する東証のガイドラインであるコーポレートガバナンス・コードで「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言相当の情報開示が求められるようになった。

 これを踏まえ、昨年来TCFD提言への賛同を表明し、議論体制や考え得るリスク、取り組みを公表する社も増えている。上場企業以外でも、東京地下鉄(東京メトロ)のように企業姿勢として賛同表明した社もある。

 ■東急 

 鉄軌道全路線を再エネ100%電力で運行へ

 首都圏民鉄各社では、東急がこの3月に「環境ビジョン2030」を発表。「なにげない日々が、未来をうごかす」をコンセプトに、沿線エリアの脱炭素・循環型社会実現を目指す。その一環として4月から東急電鉄全路線で、トラッキング付き非化石証書活用による実質再エネ100%電力での運行を開始した。ビジョンでは自社事業活動でのCO₂排出量を30年に19年度比46・2%削減(再エネ比率50%)の目標を掲げ、まちづくりとも連動して環境負荷を低減するサービス提供、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した行動をする人の割合増などにも取り組む。

 ■小田急 

 ゼロカーボンロマンスカー今春から全編成に拡大

 小田急電鉄は昨年9月に「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を策定し、グループのCO₂排出量を50年に実質ゼロ、30年に13年比46%削減すると掲げた。その一環で、同10月から5カ月間、ロマンスカー・VSE(50000形)2編成の運行に必要な電力相当分を再エネ由来電力に置き換えた「ゼロカーボン ロマンスカー」を運行。今春からロマンスカー全26編成に拡大した。

 ■東武 

 日光でエシカルトラベル環境マースや省エネ車両

 東武鉄道は昨年秋、鉄道事業における30年度のCO₂排出量を、従来の取り組みに加えて車両更新や車両数適正化、変圧器更新などを進めることで、13年度比約50%削減できるとの見込みを公表。

 栃木県の日光・鬼怒川エリアで、鉄道での訪問やシェアサイクル・EVカーシェアリング利用などを促す環境配慮型・観光MaaS「NIKKO MaaS」を開始した。この4月から同エリアにアクセスする特急やエリア内を走る列車・駅などの使用電力相当を実質再エネ由来の電力に置き換え、「エシカルトラベル」をPRしている。

 ■西武

 本社ビルを自社G運営太陽光発電で100%賄う

 西武ホールディングスは20年5月にCO₂排出量 原単位(営業収益当たりのCO₂排出量)を30年度までに18年度比25%削減する目標を掲げた。

 昨年4月から西武鉄道山口線で使用する電気を、この4月から本社ビル「ダイヤゲート池袋」で使う電気を、全て西武鉄道運営の太陽光発電所「西武武山ソーラーパワーステーション」の発電で賄っている。

 ■東京メトロ

 CO₂、30年度30%減 (13年度比) 

 東京地下鉄(東京メトロ)は昨年3月に「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」を設定。全事業でのCO₂排出量を30年度に13年度比マイナス30%、50年度実質ゼロを目指すとした。

 ■相鉄

 〝地産地消〟再エネ電力活用

 相鉄グループは、長期ビジョン「Vision2030」などで、鉄道事業の使用電力によるCO₂排出量を30年度までに13年度比46%削減すると掲げた。また、相鉄本社ビルなどで使用する電気に神奈川県内水力発電所の発電電力「アクアdeパワーかながわ」、相模鉄道の相鉄線、相鉄ホテルの横浜ベイシェラトンホテル&タワーズで使用する電気の一部に、横浜市バイオマス発電や市内家庭の太陽光発電由来の「はまっこ電気」を充当、地産地消の再エネ電力を活用中だ。

 ■京王

 高尾など森林保全にも力点

 京王電鉄は中期環境目標で、30年度の運転原単位(1車両が1㌔進むのに使う電力量)の13年度比26%削減を掲げた。森林保全にも力を入れ、02年から「高尾の森づくりの会」への苗木提供や育樹活動支援、08年から親子森林体験スクールなどを行っている。昨年9月に東京都水道局と連携、水源地保全のための多摩川上流域での活動にも参画している。

 ■京成

 グループ挙げキャンペーン

 京成電鉄、京浜急行電鉄は30年度までの削減目標こそ掲げていないが、運輸事業者は省エネ法で、エネルギー消費原単位または電気需要平準化評価原単位を中長期的に見て年平均1%以上低減するよう求められている。京成電鉄はこれに沿って、「エネルギー消費原単位の年平均1%以上低減」の継続的な達成を掲げ、環境経営を推進。毎夏「京成グループ省エネキャンペーン月間」を定め、グループ全体で啓蒙(けいもう)活動も行っている。

 ■京急

 空港線と19駅再エネ電力に

 京急も35年度までのコーポレートサステナブル戦略の中で、温室効果ガスについてのKPI(重要業績評価指標)としてグループ総排出量の前年度比1%削減を掲げる。昨年8月からは空港線の鉄道運転用電力を再エネ由来に置き換え、同12月からは横浜市内の変電所から配電する京急線19駅の業務用電力を「はまっこ電気」に、京急グループ本社ビル(横浜市)の電力を「アクアdeパワーかながわ」に置き換えている。また、環境月間に合わせたキャンペーンも19年度から展開している。

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