交通新聞社 電子版

特集 JR東日本 「変わる中野駅」26年開業へ工事順調

2023.10.04
ひっきりなしに電車が行きかう中、着々と工事が進む現場。最大3基だった700㌧タワークレーンは現在、2基が稼働する

 東京建設PMOの取り組み

 ビル外装作業などの後、内装に着手

 大規模な再開発が進む中野駅周辺。JR東日本が東京都中野区、東京地下鉄(東京メトロ)と協力して推進している「中野駅西側南北通路・橋上駅舎等事業」では、駅西側線路上空に人工地盤を構築して、南北自由通路を整備するとともに、駅ビルを併設した新橋上駅舎を建設する。2026年の駅舎と南北自由通路の開業を目指し、建設作業が進む工事の様子を紹介する。(相川 夏子記者)

 

 南北自由通路を整備

 駅ビル併設の橋上駅舎に

 中野駅は1889年、現在の中野3丁目に開業、1928年に中野通りと周辺を掘り下げて踏切を解消し、現在の位置に移動した。66年に帝都高速度交通営団(現東京地下鉄)東西線中野―高田馬場間開通と、中央線中野―荻窪間の複々線完成に合わせ、中野通りの東側に位置する南口本屋の改築、北口本屋の新設を行った。2022年度の1日平均乗車人員は11万9846人を数える一大ターミナルだ。

 同駅周辺では現在、駅を中心に中野2丁目、3丁目、4丁目、5丁目の各地区で11もの再開発計画が進行している。このうち、「中野駅西側南北通路・橋上駅舎等事業」は14年6月に3者が基本協定を締結。ホーム上空に人工地盤を構築し、南北自由通路を整備するとともに、駅ビルを併設した新橋上駅舎を建設。駅前広場を整備する同区などと連携しながら利便性や回遊性を確保し、中野の玄関口の形成を目指す。26年の開業を目指して、18年9月に着工、20年3月に建物本体工事に着手した。総事業費は313億円。

 敷地面積は約7700平方㍍。建物は鉄骨造り・一部CFT造り(コンクリート充塡〈じゅうてん〉鋼管造り)5階建て・塔屋1階建て。延べ床面積は、新駅舎が約2700平方㍍、商業施設が約1万6900平方㍍。

 新駅舎の1階部分はホームに当たり、橋上改札階の2階が駅舎と店舗で、幅員19㍍の南北自由通路を駅と一体構造で整備する。3、4階は店舗、5階は後方施設となる。店舗のうち、駅ビル商業施設はJR東日本グループのアトレが、エキナカ商業施設はJR東日本クロスステーションデベロップメントカンパニーが運営する。

 2階は南北自由通路につながる改札口を新設。バリアフリー設備の拡充では各ホームと結ぶ15人乗りエレベーター4基や、バリアフリートイレを含む旅客トイレを設ける。各ホームにはホームドアを設置する。

 デザインコンセプトは「Nakano 〝Hub〟 Station Building ~街をつなぐ 街に広がる 街の結節点~」。シンプルな白を基調とした外観や壁面の分割により、圧迫感をなくして周辺景観との調和を図り、屋上緑化で環境に配慮した建物とする。

 

 設計施工に当たったのは東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)。工事は、地盤に杭(くい)を打ち込み、構造物を支える基礎の構築から始まった。

 掘削した穴に現場で組んだ円筒状の鉄筋かごを建て込み、コンクリートを流し込むことで杭を形成する場所打ち杭工事で、人工地盤杭打設が20年8月から今年5月まで行われ、3年弱の期間で48本を打設した。人工地盤の鉄骨は21年3月から、上部の鉄骨は昨年12月から架設を開始し、現在も継続中だ。

 工事のポイントは人工地盤杭打設

 工事のポイントだったという人工地盤杭打設。杭の直径は2・4㍍(一部2・0㍍)、杭の長さは19㍍(一部27㍍)が多い。鉄筋かごの重量は杭長19㍍で約9㌧、27㍍で約12㌧にもなる。

 大口径掘削が可能なTBH(Tone Boring Hole)工法が採用され、杭を打設するTBHマシンを仮囲い内や線路防護網内に設置できる場合は、昼夜掘削が可能なため、1本打設するのに掘削から鉄筋かご建て込み、コンクリート打設まで約1週間で施工できた。一方、狭あいでTBHマシンを毎日移動させる場合は、短い線路閉鎖間合いでマシンをセットし回送する必要があるため、1本の打設に約1カ月間かかった。

 また、杭工事では軌道変状の監視強化のため、目視点検監視に加え、変状の予兆をいち早く把握し、早期に対策を取れるよう、自動軌道計測器による24時間変状監視を行った。線路脇での杭打ちは列車運行に支障を来さないよう、細心の注意が払われた。

 工期短縮やコストダウンへロボットや3次元モデル活用

 工期短縮やコストダウンのためのさまざまな工夫も凝らした。杭の泥水・生コン用の配管ルートは当初、軌道直下で計画されていたが、配管架台を線路上空に構築する計画に変更し、工期短縮やコストダウンを実現。

 鉄筋かごは2分割で2晩に分けて建て込んでいたが、停電が取れる日が少ない期間が続き、工程遅延が予想されたので、ヤード内に掘削した鉄筋かご組み立て用深礎を活用し、夜間線閉前作業で上下鉄筋かごを接続し、一体となった鉄筋かごの一括建て込みを行った。停電作業減少により、1カ月程度の工期短縮効果があったという。

 このほか、施工を担当した鹿島建設が開発したコンクリート仕上げロボット「コテキング」や、柱の全周を自動溶接する現場溶接ロボットにより、作業員の安全性向上や省力化を図った。

 また、DⅩ(デジタルトランスフォーメーション)の面では、3次元モデル活用による「人工地盤の既存設備支障確認/スリーブ調整」「施工ステップ可視化/計画調整」「列車運転手目線での見通し確認省力化」などが挙げられる。

 このうち、スリーブ調整とは人工地盤鉄骨に設備配管を通すための「穴」の調整のことで、設備配管と人工地盤が交差する箇所ではスリーブが必要になる。設備ルートを3次元モデルで可視化することで、スリーブが必要な箇所の整理を迅速に行った。

 今後は、新駅舎の整備や駅ビル部分の外装工事の後、順次、内装工事に着手していく。開業に向けた駅前広場整備施工も始まる中での、プロジェクト全体最適を考えた施工管理が今後のポイントとなる。

 

 ◆工事全体を統括する丸山史人東京建設PMO新宿プロジェクトセンターマネージャー(工事総括) 「自由通路完成により、南北の活性化や一体化が図られ、エレベーターやエスカレーター整備で利用者の利便性も向上する。中野区の事業との相乗効果で中野のにぎわい創出に貢献したい」と事業の意義を語る。

 ◆現場を預かる深澤新平同センター開発Ⅱ副長 「26年開業へ予定通り進んでおり、折り返し地点を過ぎたところ。1年後には鉄骨の外観ができ上がり、これから目に見えて変わっていく。中野の空を見上げてみてください」とほほ笑んだ。

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