交通ニュース・アイ 日中技術シンポ、高校生交流会…… 今夏の交通・鉄道界の動き追う
記録破りの猛暑に乱高下する株価、そして南海トラフ地震臨時情報と不安定要因が日本列島を駆けめぐった2024年夏。
鉄道の世界では、JRグループ旅客6社のお盆期間主要区間の輸送概況が前年比7%増となるなど、まずは順調な夏だったようです。「夏の総決算」と題して4件の話題をお届けします。
■日中の研究者が最新の成果報告 初の「鉄道技術シンポ」
日本の鉄道にとって「国際市場で最大のライバルは」と質問すれば、多くの方が「中国」と答えるでしょう。しかし、それはあくまで技術輸出の話。研究者レベルでは、国際交流が進みます。日中の鉄道研究者が一堂に会して、8月8、9日に東京都内で開かれた初めての「日中鉄道技術シンポジウム」。20件を超す発表がありました。
中国の電気鉄道は11万㌔のネット網
中心になったのは日本側が日本大学生産工学部鉄道工学リサーチ・センター、中国側が北京交通大学。北京交通大は学生数約2万8800人(大学院生含む)、教授陣約1000人の陣容です。
北京交通大電気工程学院の呉命利教授は、基調講演で「中国の電気鉄道は全土で約11万㌔のネットワーク。最近、研究が盛んなのが次世代技術のインテリジェント電源やグリーン電力。変電所の自動監視システムは広く普及し、減速時の車両ブレーキで発電した回生エネルギーの貯蔵技術や利用も進んでいる」と近況を報告しました。
話題豊富なのが鉄道の自動運転。東京大学大学院工学系研究科の古関隆章教授は、「日本が自動運転で最重視するのは安全の確保で、基本は安全性を現状より落とさないこと。列車の安全は地上設備と車上の双方で確保し、外部阻害に対しては、防護柵やホーム柵といった物理的な保護で対応している」と基本姿勢を説明しました。
■もはや小さな本物 ! 原鉄道模型博物館が開館12周年
精巧な模型を通じて鉄道の魅力を発信する、横浜駅近くの「原鉄道模型博物館」が2012年の開館から12周年を迎え7月21日、記念式典が開かれました。鉄道界トップを含む約250人が出席したセレモニーでは、「展示物は鉄道模型の域を超えた小さな本物」の賛辞が相次ぎました。
JR九州の「或る列車」原点
博物館に収蔵・展示される、約1000両の模型を製作したのは故原信太郎さん。14年に95歳で亡くなりました。企業人としては、大手事務機メーカー・コクヨの常務や専務を務めました。そして、今も名を残すのは鉄道模型の製作者・コレクターとして。
エピソードは尽きませんが、ここでは「或る列車」をめぐるストーリーを取り上げます。
或る列車は、JR九州が15年に登場させた観光列車ですが先代があり、九州鉄道が1900年代初頭、米国に発注した豪華列車です。
ところが日本への到着時、九州鉄道は国有化され車両は各地に分散。東京では田町の操車場に配備され、少年時代の原さんがスケッチして模型化。それに触発されて、JR九州が現代によみがえらせました。
開館12周年を迎えた原鉄道 模型博物館、近く香港にレストランスタイルの分館を開業するなど、ストーリーは続きます。
(本コラムは親しみを込め「さん付け」表記させていただきました)
■真夏の伊賀鉄に中高生集う
13回目の「地鉄交流会」開催
甲子園球場で行われた今夏の全国高等学校野球選手権大会は京都国際高校の初優勝で幕を降ろしましたが、鉄道研究会(鉄研)にとっての〝甲子園〟が「全国高校生地方鉄道交流会(地鉄交流会)」。13回目の今夏は8月16~18日に三重県伊賀市の伊賀鉄道で開かれ、利用促進のアイデアを競いました。
特典付き周遊券や忍者ラッピング列車
初回は2012年。夏休みに撮り鉄・乗り鉄しても、活動はそこまでの鉄研に成果発表の機会をつくろうと、一部校が交流会を発想。今回はリモート参加を含めて、12校が伊賀路に集いました。
伊賀鉄道は旧近畿日本鉄道伊賀線で、路線は伊賀上野―伊賀神戸16・6㌔の伊賀線。共通テーマは「選ばれる観光地〝伊賀〟~近鉄・JRと連携した誘客~」で、最優秀賞の伊賀鉄道社長賞は大阪市住吉区の浪速高等学校・浪速中学校鉄道研究部が受賞しました。
同校の提案は、「2日間有効の特典付き周遊券」「飲食店や宿泊施設のトイレ改修」「NARUTO(ナルト)ラッピング列車」など。
特典付き周遊券は、駅から宿泊施設までの手荷物搬送やレンタサイクルで手ぶら観光を可能にします。ナルトは少年コミック誌に長く連載された忍者漫画で、海外にも多くのファンがいます。
■公共交通のマーケティングプログラム提供 コンサル2社がコラボ
〝経営の教科書〟に「顧客の要求を満たすため、企業が取り組むあらゆる行動」と書かれたりする「マーケティング」。モノが売れない時代に重みを増す企業活動で、それは交通・鉄道の世界でも変わりません。
マーケティングの有効性、定着なるか
「日本鉄道マーケティング」「高速バスマーケティング研究所」という、いずれもマーケティングを名乗る交通コンサルタント2社が手を組んで、8月22日から提供を始めた「公共交通マーケティング推進プログラム」。「沿線(路線)外に市場を開拓するマインド」がいささか希薄なこの世界に、マーケティングの有効性を定着できるかが成否を分けるポイントといえるでしょう。
鉄道界で知名度を持つのは、日本鉄道マーケティング(合同会社)の山田和昭代表社員。2014~17年に鳥取県の第三セクター・若桜鉄道で公募社長、その後は津エアポートライン(両備グループ)や近江鉄道で利用促進の旗を振りました。
日本鉄道マーケティングは13年の起業。これまでに山形鉄道、由利高原鉄道(秋田県)、熊本電気鉄道などでツアー企画・誘客、SNSによる情報発信、鉄道グッズのネット販売などを手掛けてきました。
もう1社の高速バスマーケティング研究所(株式会社)は、楽天バスサービス出身の成定竜一社長が11年に設立。海外情報発信や外国人旅行者誘致を得意分野とします。
写真説明
両国の研究者が顔をそろえた「日中鉄道技術シンポ」(画像・日本大学生産工学部)
日本の鉄道自動運転の現状を報告する古関東大大学院教授
写真左から、記念撮影に応じる原健人副館長、加藤好文京阪ホールディングス会長、原丈人館長、青柳俊彦JR九州会長、原田一之京浜急行電鉄会長(画像・原鉄道模型博物館)
公共交通再生を誓う山田日本鉄道マーケティング代表社員(右)と成定高速バスマーケティング研究所社長
山田社長時代の15年4月の若桜鉄道SL「鳥取県発地方創生号」走行社会実験では沿線に約1万4000人を集めました(画像・日本鉄道マーケティング)
全校の発表後には、JR西日本近畿統括本部阪奈支社の福山和紀地域共生室長が講演。来年の交流会は東北、陸羽東、石巻のJR3線が走る宮城県美里町で開催します。
㊤スクリーンのリモート参加校も含め全員で記念撮影㊧㊦上野市駅と伊賀上野城の遠望。三角屋根の駅名板は「忍者市駅」。上野城は戦国時代の築城で、江戸時代は藤堂氏が居城としました
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