交通新聞社 電子版

特集 東武「スペーシアX」15日デビュー

2023.07.11
6号車「コックピットスイート」。奥の運転席側もガラス張り

 フラッグシップ特急 より上質に

 旅の形に合わせて選べるシート6種

 東武鉄道が15日に営業運転を開始する特急「SPACIA Ⅹ(スペーシアエックス)」。1990年登場の「スペーシア」が築いてきた伝統やイメージを継承、旅のスタイルに合わせて選べる6種のシートのある、より上質なフラッグシップ特急となっている。「スペーシア」と比べ、二酸化炭素(CO2)排出量も約40%削減されるなど、脱炭素化に向けた取り組みも強化された。「スペーシアX」について、6月に就任した都筑豊社長のインタビューとともに紹介する。(鴻田 恭子記者)

 「スペーシアX」(N100系)は6両編成で212席。東武スカイツリーライン・日光線・鬼怒川線の浅草―東武日光間、鬼怒川温泉間を片道2時間前後で結ぶ。運行は日光、鬼怒川方面毎日各1往復、木―日曜日と休日は浅草―東武日光間をさらに2往復走る。特急券は乗車日1カ月前の9時発売、注目された1番列車は1分弱で完売した。

 外観は「スペーシア」のフォルムをよりスタイリッシュに進化。色合いは日光東照宮の陽明門などに塗られた「胡粉(ごふん)」の高貴な白を、窓枠は鹿沼組子のような伝統工芸品を思わせるものとした。江戸の粋を感じられる長く愛される車両として、一部の車内照明や装飾は日光エリアで使われているデザインをモチーフとし、色彩は江戸期に流行した「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」の茶や灰の色の種類にちなんだ。

 6種のシートの中でも特徴的なのは、乗務員室との間をガラス張りにして前面展望を楽しめる1、6号車だ。1号車「コックピットラウンジ」は、ホテルのラウンジのようなローテーブルとソファが並ぶ。2号車寄りカフェカウンターでは、日光の企業と開発したクラフトビールや軽食など、旅の期待を高め余韻を残す味を提供する。

 6号車の乗務員室寄りは定員7人の「コックピットスイート」。ホテルのスイートルームのような風情で、テーブルやソファを移動させることもできる。6号車には赤茶色の壁が特徴的な定員4人のコンパートメントも4室ある。

 3~5号車はグレーを基調とした4列のスタンダードシートで、各座席コンセントと大小のテーブルを用意。5号車の一部は向かい合う幅約80㌢の座席をパーテーションで囲った半個室仕様のボックスシートとした。

 2号車は金茶色の3列のプレミアムシート。後部座席を気にせずリクライニングできるバックシェル構造で、コンセントやテーブルのほか、電動リクライニングや可動式枕なども備えている。

 乗車には運賃と特急料金(浅草―東武日光間スタンダードシート1940円、プレミアムシート2520円)がかかる。コックピットスイートやコックピットラウンジ、コンパートメント、ボックスシートは運賃、スタンダードシート特急料金のほか、特別座席料金(コックピットスイート1室1万2180円、コックピットラウンジ1人用200円など)が必要。

 脱炭素化に向け取り組みを強化

 「スペーシアX」はCO2排出量削減に加え、列車運行に用いる電力相当分を、東京電力エナジーパートナーのFIT非化石証書などの活用でCO2排出量実質ゼロとなる電力に置き換える。さらに、既存の浅草―東武日光・鬼怒川温泉間の「スペーシア」など全特急、日光線下今市―東武日光間、鬼怒川線下今市―新藤原間の普通列車や同区間の駅についても、排出量実質ゼロの電力を用いている。一部はトラッキング付き証書により、東武グループ保有の太陽光発電由来の環境価値付き電力を充当している。

 日光エリアでは環境配慮型・観光MaaS「NIKKO MaaS(日光マース)」も展開。EV(電気自動車)などのカーシェアやシェアサイクル、EVバスなどで周遊できる。奥日光地域は4月に環境省の脱炭素先行地域にも採択された。

 同社は鉄道事業において、2030年度CO2排出量50%削減(13年度比)を掲げる。今後も実現に向け、積極的に取り組む方針だ。

 ■インタビュー

 東武鉄道 都筑豊社長

 乗り心地、インテリア、環境配慮・・・

 日光戦略の集大成

――コロナ禍がグループに与えた影響をどう見ていらっしゃいますか。

 都筑 連結子会社の多くが大打撃を受けました。事業構造改革の旗印の下、各社で効率化を進め、鉄道事業ではワンマン運転拡大、駅業務省人化、ご利用の少ない列車や両数の削減など、ランニングコストを抑えてきました。その結果、直近の2022年度決算の利益面はコロナ前に近づいています。

――コロナ後の鉄道について、どのようにお考えでしょうか。

 都筑 社会環境の変化が見通せない状況では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した省力化、ローコスト運営が重要です。一方でサービスの維持や拡充も重要で、二つを両輪にバランスをとることが必要です。私は鉄道輸送には「利便性」「速達性」「快適性」というキーワードがあると考えています。当社の総営業キロは約463㌔、2分ヘッドの線区がある一方、1時間1本の線区もあり、各特性に応じたサービスを提供しています。「速達性」なら、どの線区でもご乗車いただければ接続があり、待ち時間なく目的地に行ける、そんな努力を重ねたダイヤを提供したいと思っています。

――新型特急投入や自動運転の取り組みなども着実に進んでいます。

 都筑 日光・鬼怒川エリアは浅草・スカイツリーエリアと並ぶ重要な観光資源です。投入するフラッグシップ特急の「スペーシアX」は、乗り心地やインテリアにこだわり、車窓も存分に楽しめる、環境配慮も含めた当社の日光戦略の集大成の一つです。今後も同エリアの進化にご期待いただければと思います。一方、省力化において、自動運転は欠かせません。技術面だけでなく、運転上のルールや安全対策の構築に取り組み、将来の実用化を目指します。

――新規事業の芽も育ってきました。

 都筑 東武トップツアーズのソーシャルイノベーション事業が挙げられます。地域の課題解決など主に自治体のニーズを捉えた受託事業を展開しており、今後、ビジネスモデルをグループ全体で展開し、総力を挙げて深度化を図ります。もう一つはTOBU POINT(東武ポイント)。グループでのポイント付与に限らず、自治体との連携による定期券購入支援にも活用しており、当社と沿線地域を結ぶ重要なツールに成長しています。

――最後に、グループの今後のかじ取りについてお聞かせ下さい。

 都筑 東武グループは、鉄道を基幹として運輸、流通、レジャー、不動産など各事業でシナジーを発揮し、当社のみならず地域社会の持続的発展を目指す――というのが変わらないスタンスです。社是に「奉仕、進取、和親」を掲げており、進取の精神を尊重し新たなビジネスモデルに挑戦するなど着実に収益拡大を図ります。特に、池袋西口の再開発計画については、来年度に都市計画決定を目指しており、東武グループひいては地域社会にとってふさわしいターミナルに成長すべく、関係の方々と鋭意協力しながら進めていきます。

(K)

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