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特集 伯備線沿線の〝撮り鉄〟歓迎の取り組み実践

2024.04.23
感謝状を贈呈した青木部長(前列中央)、国富靖二備中高梁駅長(同左端)と「チームひとよせ」メンバーら=川面地域市民センター=(チームひとよせ提供)

 岡山県高梁市・川面地区 JR西日本から感謝状

 写真撮影を好む鉄道ファンを指して「撮り鉄」という言葉があるが、マナーに問題のある一部の人の行為がクローズアップされ、良い印象で語られないことが多い。そのような中、特急「やくも」をはじめ、ファンに人気の列車が走るJR伯備線備中川面駅付近の川面地区(岡山県高梁市)では、トラブルを未然に防ぐとともに、気持ちよく撮影してもらおうと、地域住民がファンを歓迎する取り組みを実践し、JR西日本から感謝状が贈呈された。井倉駅観光案内所の取り組みなどと併せて紹介する。(鈴木 宏治記者)

 

 川面地区は穏やかに開けた山里を水量豊かな高梁川が流れ、伯備線の橋りょうが複数あるなど撮影好適地が点在。同線にはファンに人気の高い国鉄形の特急「やくも」(381系)、普通電車(115系)、貨物列車(EF64形けん引)などが走り、これらを撮影するファンに、同地区はよく知られていた。

 地区では以前からほぼ毎日、ファンの姿が見られたが、「やくも」への新型車両・273系の投入発表(2022年2月)や、コロナ禍の沈静化により、訪れる人が急増。これに伴い、生活道路や私有地への無断駐車、屋外での用足しなど一部の人による問題行為が発生していた。この状況は、381系の引退時期(今年6月15日で定期運用終了)が迫るにつれ、さらに悪化することが懸念されていた。

 これを受け、地域住民7人で組織する「TEAM(チーム)ひとよせ」(鳴川浩文代表)が発足。チームでは、桜の開花時期で特に来訪者が多くなる昨年3月と今年4月の各1週間、「町外、県外の人たちに川面の良さを実感し、いい気分で過ごしてもらう」ことを目指すとともに、迷惑行為を未然に防止する活動を展開した。

 具体的には、活動拠点となる高梁市川面地域市民センター(公民館)や近隣の神社の協力を得て駐車場を確保し、メンバーが見守り・誘導。活動期間中、同センターの軒下に「鉄道ファンのみなさま ようこそ川面へ」と書いた横断幕やのぼりを掲出し、ブースを構えてコーヒーや弁当(今年)を販売した。

 トイレについては、同センターのものを使用可能とし、トイレのなかった備中川面駅前への設置を市に要望。昨年は期間限定で簡易型が設置され、駅利用者や地元住民らにも好評だったことから、今年は常設型となった。

 センターのブースでは募金箱を設置。活動への応援として500円以上の募金をした人に、メンバーや地域の高齢者が手縫いした「やくもストラップ」(JR西日本許諾済み)を進呈したところ、ファンの間で「お守りとして持っていると良い写真が撮れる」と評判となり〝ハッピーやくも〟の呼び名が定着。募金者が増え、作り手のやりがいにもつながっている。

 昨年度の活動で行った来訪者アンケートで、付近に飲食店がないことから要望の多かった食事については、本年度は地元事業者に弁当製造を依頼し、ブースで販売。鉄道カメラマン・坪内政美さんが手掛けた掛け紙と昔懐かしいプラスチック容器入りのお茶付きで、SNSで紹介されるなど人気を博した。

 また、高梁川上流方の高梁市高倉地域市民センターでも駐車場とトイレを利用可能に。ファンが周辺で撮影した写真を送ってもらい、館内に展示している。

 こうした取り組みに対し今年3月24日、JR西日本の青木豊太中国統括本部駅業務部長、国富靖二備中高梁駅長らが現地を訪れ、チームひとよせと川面、高倉の両地域市民センターなど4団体・箇所に感謝状を贈呈した。

 このほか、撮影好適地の踏切脇に敷地を所有する運送会社が休憩用ベンチと飲料自販機を設置したり、花桃と列車の写真を撮影できる「花桃の里」(高梁市)では地主の厚意で駐車場が開設されるなど、ファンを歓迎する取り組みが行われている。

 

 ●歓迎がマナー向上に

 チームひとよせでは昨年の桜開花時期、駐車場利用者にアンケート調査を行い、約200人から回答を得た。

 それによると、来訪者の居住地は近畿(69人)、中四国(55人)、関東(51人)の順に多く、北海道や宮崎県からの人もいた。来訪回数は「3回以上」が118人(58・4%)と最多で、リピーターの多さが裏付けられた。

 自由回答では「気持ちよく撮影できました」(初訪問)、「あたたかく出迎えていただきありがとうございます」(3回以上)、「感謝感激です」(同)などの謝意が大半を占め、「地元の皆さまにご迷惑をお掛けしないように心掛けます」(同)との意思表明も。

 今月12日、「花桃の里」で撮影していたファンからは、「地元の人がここまでしてくれるのは本当にありがたい。われわれもマナーをしっかり守らなければ」(北九州市在住)、「昨年から歓迎ムードが感じられる。一人一人がマナーを守れば、トラブルは防げる」(岡山市在住)といった声が聞かれた。

井倉付近で381系「やくも」を撮影する鉄道ファン(坪内政美さん提供)

 

 ●地元自治体が後押し

 川面地区のある高梁市では、交流・関係人口拡大の観点から鉄道ファンの来訪を歓迎し、チームひとよせをはじめ地域住民の自発的な取り組みをバックアップ。備中川面駅前のトイレ設置のほか、近藤隆則市長も複数回にわたり、同チームの激励に訪れている。

 

 クイズで学べる

 また、隣接する岡山県総社市と共同の取り組みとして、今月初めごろからホームページで「こんにちは新型やくも&さようならリバイバルやくも 撮り鉄クイズ」を実施中。撮影マナーと両市の撮影地情報を楽しみながら学べる内容で、全問正解者には来訪を条件に坪内さん監修の記念品を進呈。公開開始から数日間で300件以上の回答が寄せられている。

 両市では今後、坪内さんとJR関係者によるマナー講座(撮影会付きトークイベント)を計画している。

 

 ●ファンや地元の注目集める井倉駅

 伯備線井倉駅(岡山県新見市)の井倉駅観光案内所(井倉駅運営委員会)では22年4月、坪内さんから駅スタンプを寄贈されたことをきっかけに、ファンや地元の人たちに注目してもらい、利用促進を図る取り組みを強化。待合室に坪内さん撮影の写真を多数掲出しているほか、駅スタンプ缶バッジやきっぷを模した観光記念証、「やくもカレンダー」(いずれもJR西日本許諾済み)を販売している。

 また、昨年12月から3号にわたって「井倉驛新聞」を発行。同駅での配布のほか、近隣の郵便局、駐在所、商店などに掲出され、グッズや381系「やくも」各色編成の引退時期情報などを発信。これを読んだ地元住民がグッズを買いに来るなど、駅や鉄道への関心を高めるのに一役買っている。

 地元商店も独自の取り組み

 井倉駅上り方の撮影好適地にほど近い大月醤油醸造場(新見市)では、新旧「やくも」をあしらったオリジナルラベル(JR西日本許諾済み)のしょうゆを販売するとともに、ファンの情報を基に製作した作例付き「やくも撮影+観光地スポットマップ」を配布中。大月勝功代表は「各地から撮影に来る方に喜んでいただき、交流を持てるのはありがたい」と話している。

 地域に喜び、充実感

 ◇「チームひとよせ」事務局を務める青野学而さんの話

 活動を通じて、地域の人にとっては(ファンの高い評価に接して)自分の街を見直した面があると思います。チームのメンバーにとっては、地域の人口が減り閉塞感がある中で、日々のモチベーション向上や、(感謝されることによる)喜び、充実感があります。今年は地域の人たちから「ご苦労さん」という声をたくさんいただきました。取り組みが正しく理解され、認められたことがうれしいです。

 

 まちおこしの契機に

 ◇各関係者に助言、協力している鉄道カメラマン・坪内政美さんの話

 川面地区、井倉駅をはじめ、伯備線沿線の歓迎の取り組みは大変ありがたいものです。「撮り鉄」は煙たがられることが多いですが、鉄道が通っているだけで全国から来てくれ、食事や買い物で地元にお金を落とし、まちおこしのきっかけになる存在です。そこに気付いていただいたことに感謝しています。特に川面地区の取り組みは全国的に見て突出しており、他地域の模範になると思います。

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