特集 JR西日本イノベーションズ 気仙沼の銀鮭 JR貨物のコンテナで大阪・吹田まで輸送
貨物鉄道 トラック 組み合わせた物流を実証実験
納品先まで1日
トラックドライバーの労働時間に上限が設定される「2024年問題」による輸送日数の増大や物流コストの上昇、二酸化炭素(CO2)排出量削減などの社会的課題の解決を図ろうと、JR西日本イノベーションズは5月9~11日、東北線仙台貨物ターミナル~東海道線吹田貨物ターミナル間で、JR貨物などの協力の下、JR貨物の貨物列車とトラックを組み合わせて水産物を多量輸送するトライアルを実施した。同社が持つ陸上養殖事業を通じて得た水産物の知見を生かし、水産物の大量輸送にかかる諸問題の解決に貢献していく。(福原 潤記者)
「2024年問題」など 社会的課題解決の一助に
JR西日本グループは、2017年から鳥取県で陸上養殖事業を開始。現在では、「お嬢サバ」(サバ)や「白雪ひらめ」(ヒラメ)などの水産物を生産し、スーパーマーケットや百貨店、飲食店などで販売している。
今回実施したトライアルは、これまで出荷元から納品先までトラックのみで輸送していた区間において、貨物鉄道とトラックを組み合わせ、CO2排出量削減や輸送時間短縮などを図る試み。貨物鉄道とトラックを使った水産物の輸送、販売の取り組みは鉄道事業者で初めて。
トライアル実施の背景には、今年4月から、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」の適用が関係している。同規制の影響により、陸上養殖事業を手掛けるJR西日本イノベーションズの取引先である量販店や飲食店などの販売先では、人手不足やトラック間の荷物積み替え作業の手間、燃料コストなどの負担がのしかかっている。これにより、同社の取引先の中には、輸送にかかる費用は規制前よりも1割程度増大している事例もあるという。
今回のトライアルは、宮城県気仙沼市から大阪府寝屋川市までの約850㌔の区間で検証。同社によると、現在の同区間をトラックのみで輸送すると、約2日程度の時間を要してしまう。これに対して、出荷元から最寄りの貨物駅まではトラックで運び、貨物駅から消費地側の貨物駅までJR貨物の貨物列車で輸送し、消費地側の貨物駅から納品先までは再びトラックで運ぶことで、1日で輸送できるかを検証した。
9日13時30分ごろから、気仙沼市内の水産加工場で、冷凍銀鮭の切り身約8㌧(1箱約5㌔×1600箱)の積み込みを行ったのち、14時30分ごろに仙台貨タに向けて、10㌧トラックで輸送。その後、同日17時30分ごろに仙台貨タに到着し、東北線陸前山王―吹田貨タ間を走行する「2059列車」に積み替えた。同日23時58分、仙台貨タを出発した。
約15時間後の10日15時14分、吹田貨タに定刻通り入線した。その後、関西圏で約160店舗のスーパーマーケットを展開する「万代」の冷凍水産物など向けの物流施設「寝屋川フローズンセンター」(大阪府寝屋川市)に向けて、トラックで移送。翌11日9時ごろに同センターに運ばれた冷凍銀鮭は、同センター内で荷さばきが行われた。同日以降各店舗に向けて出荷され、店頭に並べられ、消費者に届けられた。
販売価格 抑制を
水産物の輸送は長らく、トラック輸送が大半を占めている。それは古くから続く「市場流通」といった商習慣に起因する。漁港で水揚げされた水産物は生産地側の市場で競りにかけられる。そして消費地側の市場にトラックで輸送され、同様に競りにかけられて、量販店や飲食店などへと再びトラックで運ばれる。この市場同士をつなぐ物流網は、現在もトラック輸送が主流だ。
輸送方法を見直す契機の一つとなっているのが「2024年問題」だ。大量輸送や定時性に優れた貨物列車の利点を生かすことで、人手不足や輸送時間の拡大によるコストを低減し、販売価格の抑制へとつながることが期待される。
陸上養殖を全国展開へ
サプライチェーン構築
◇2017年の陸上養殖事業立ち上げ時から同事業に携わるJR西日本イノベーションズ石川裕章プロデューサーの話
地域活性化、地域共生への貢献や将来にわたり安定かつ持続可能な食糧を確保することなどを目的に、17年から陸上養殖事業を展開しています。今後、陸上養殖を日本全国に展開し、陸上養殖水産物のサプライチェーンを構築していくことをめざしています。その実現に向けて、有効な物流手段が必要になってきます。
今回のトライアルはその選択肢の一つとして、貨物鉄道とトラックを組み合わせた物流の実証を行いました。これを今後実用化することで、さまざまな地域で陸上養殖事業を展開した場合や、大量かつ大きな魚種の輸送といった課題解決、地域活性化にもつながるとみています。
貨物鉄道とトラックの両方を使うため、トラックからの荷降ろしや、再度荷積みを実施するなど、トラック単独と比べて作業の工程自体も増えています。これにより、商品の品質の劣化や鮮度の低下が見受けられないかどうかを検証しました。今回のトライアルでは、箱の擦れや荷崩れも生じておらず、冷凍品が溶けてしまうなどの品質低下も見受けられませんでした。
貨物鉄道とトラック輸送の組み合わせは、相応の量を積み込み、輸送することで、いわゆる「規模の経済」を働かせて運賃のコストを下げていくことも狙っています。
本年度内に魚種などを変えて、複数回同様のトライアルの実施を予定しています。(中小事業者など)まとまった数量で仕入れて輸送することが難しく、輸送コスト面で同じようなお悩みを抱えている複数の事業者さまの荷物をまとめて運ぶ共同配送の仕組みにより積載効率を高め、運賃のコスト低減につなげていくことや、生食も可能な陸上養殖魚の特性を最大限に発揮できる鮮魚の輸送も目指していきます。
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