特集 JR西日本 特急「やくも」24年春から新型車両
安全性、快適性に新機軸
デザイン 沿線を最大限に意識
「セミコンパートメント」も特徴
JR西日本が、岡山―出雲市間(伯備線経由)の特急「やくも」に2024年春以降、順次投入する新型車両「273系特急形直流電車」(4両編成)。デザイン面では、山陰エリアへ向かう列車であることを表現するとともに、沿線の自然に映える車体とするため「やくもブロンズ」の塗装を施す。サービスレベルは、カーブの多い伯備線に適した「車上型制御付き自然振り子」の採用、グループ向け座席「セミコンパートメント」の設置などで向上させる。新型「やくも」の概要を紹介する。(秋元 尚浩記者)
■製造から40年経過
「やくも」は、1972年3月の山陽新幹線岡山開業時に運転開始した特急。現在使用されている車両は、82年7月の伯備線全線と山陰線伯耆大山―知井宮(現西出雲)間の電化に合わせて登場した381系だが、製造から約40年が経過している。
そこで「山陰エリア、伯備線のシンボルとなるように」(同社)との思いも込めて、新型の273系特急形電車を来年春以降、順次投入し、国鉄時代から活躍する381系を置き換えていく。
■色は社員らによる検討から
273系には、最新車両に導入されている設備、構造を踏襲し、車体の衝突安全対策、車両異常挙動検知装置などを導入することで、安全性の向上が図られている。
外観は、「山陰・伯備線の風景に響き、自然に映える車体」をコンセプトに、「やくもブロンズ」の塗装が施される。
この色は、同社社員らによるデザイン検討の中で出てきた、大山をバックに昇る朝日や宍道湖に沈む夕日の「うこん色」、たたら製鉄の炎の「こがね色」、大山のたいまつ行列の炎の「銅(あかがね)色」、山陰の原風景といえる赤瓦の町並みの「赤銅(しゃくどう)色」といったイメージを、イチバンセン代表取締役・デザイナーの川西康之氏がまとめることで生み出されたという。
車内では、グリーン席、普通席のモケットの柄に、地域の要素を取り込んだ。具体的には、グリーン席(モケットのベース色・黄色)は、沿線に亀にまつわる伝説、地名があることを踏まえ、亀の甲羅をイメージした「積石亀甲(つみいしきっこう)」模様をあしらった。
普通席(緑色と青色)は、「神の国・出雲」へ向かう特急であることから、古来から神事に用いられ、魔よけの意味がある「麻の葉柄」模様を配した。
■データで位置補正、車体を傾斜
乗り心地は、同社、鉄道総研、川崎車両が新たに共同開発した「車上型制御付き自然振り子方式」の導入により向上する。
この方式では、従来型の制御付き自然振り子方式のように地上子ごとに走行位置を補正するのではなく、車上側の走行データとマップデータを連続して照合し、その位置を補正するため、カーブ進入時により適切なタイミングで車体を傾斜させることができる。
自然振り子式の381系と比較した場合には、制御付きの自然振り子、細やかな車体制御、応答性の良い振り子アクチュエーター、精度の高い現在位置の検出により、乗り物酔い評価指標が最大23%改善するとみている。
また、座席の間隔も新幹線並みに広く取られており、快適性がアップ。座席自体も、リクライニングの際に座面が動くチルト機構を備えるほか、構造も座っている人を支えられるように、背面、座面にくぼみが付けられているバケット構造となっている。
子ども連れのファミリーを含めた、さまざまな利用者のニーズに応える観点から、グリーン車(1両)の半室にグループ向け座席「セミコンパートメント」(2人用・4人用、各2室)を配置したのも大きな特徴。
同座席では、緩やかな仕切りで適度なプライベート空間を確保。大型テーブルがあり、向かい合わせのシートの座面は、引き出してフラットにすることも可能だ。料金は、普通車指定席料金と同額で設定。ただし2人用は2人、4人用は3~4人のグループ利用の場合に限り発売する。
■設備面も利便性向上
このほか、設備面では車内フリーWiFi、全席へのコンセント導入、大型荷物スペース、フリースペースの設置、車いすスペースの拡大などで、利用者の利便性を高める。フリースペースについては「お子さまが騒いだり、泣いたりした時に機嫌が直るまでの間お過ごしいただくなど、自由に使っていただきたい」と同社担当者。
273系について、デザイン監修に当たった川西氏は「新しい『やくも』は、やくもブロンズという、今までにないボディーの色をまとっている。伯備線、山陰線の新しいアイデンティティーになってほしい」と話していた。
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