特集 JR九州 九州新幹線開業20周年
広域交流を促進 20周年迎える「つばめ」
鹿児島に大きな経済効果
古宮洋二社長に聞く
九州新幹線(新八代―鹿児島中央間)があす13日に開業20周年を迎える。運行主体のJR九州ではこの間、安全安定輸送をベースに利用促進や需要の創出、地域活性化の取り組みを推進。博多延伸後は山陽新幹線との相互直通運転が始まり、九州内にとどまらず関西方面との広域交流促進にも力を注いできた。これまでの利用状況を紹介するとともに、同社の古宮洋二社長に九州新幹線が果たしてきた役割や今後の展望を聞いた。(松尾 恭明記者)
時短 開業後、利用倍増
――「つばめ」が二十歳を迎えますが、大人になったと感じますか。
古宮 大人になったというよりも、大人にしてもらったというのが正しいでしょうね。これまで大変多くの皆さまに利用していただいて、ようやく一人前の新幹線になれたのではないかと感じています。
――02年7月から新幹線開業準備室長を務められました。当時の思い出は。
古宮 私を含めて準備室メンバーのほぼ全員が在来線の経験しかなかったため、新幹線を学ぶことから始めました。会社全体がそういう状況だったため、いろいろ立ち止まったり、うまく進まなかったことがたくさんありました。それでも本当に部下に恵まれ、みんなよく頑張ったと思います。3月13日の開業を迎えた時は心から感激しました。
――この20年間を振り返って。
古宮 04年3月に開業して、1年目からご利用が想定の1・5倍を大きく上回る2・3倍になりましたが、当初はそこまで増えるとは考えていませんでした。最初の開業効果も大きかったですが、やはり博多につながることで新幹線の効果がさらに上の段階にステップアップしたと思います。
のりかえ 利便図りスムーズに
――高水準の利用をキープできた理由をどのようにとらえていますか。
古宮 大幅な時間短縮効果はもちろんですが、当時心配していた新八代駅での新在乗り換えを対面で行ったことは、負のイメージの払しょくになりました。慣れてみると、そんなに違和感ないねと、逆にプラスアルファになったのではないでしょうか。
このほかにも、新在2列車を1本の列車に見立てて、行き先表示の終点を統一したり、きっぷの1枚化や号車と座席番号を合わせてホームを平行移動できるようにしたり、乗り換え抵抗を極力抑えたことも効いたと思います。この手法や経験は22年9月に開業した西九州新幹線にも生かされました。
――新幹線効果を最も感じる点は。
古宮 飛行機を含めた交流人口が全体的に増え、全線開通するとさらに大阪、名古屋まで人の移動範囲が広がり、地元が潤ったことが一番です。また、部分開業するまでは夜遅くなると、当時の西鹿児島駅(現鹿児島中央駅)周辺はファミレスしか営業していなかったのが、いまやたくさんの飲食店が遅くまで営業し、多くのホテルも進出しました。これは新幹線の大きな力だと思います。
生活 出水ー鹿児島「通勤圏」
開業間もないころの話ですが、鹿児島県出水市の小学生が鹿児島市の塾に新幹線で通っていると聞きました。それまで出水の人は鹿児島に転勤になると、引っ越しや単身赴任が必要だったが、新幹線で約25分で通えるようになりました。私はいろんなところで、九州新幹線は鹿児島県民の生活を変えたと話しています。
――全線開通後は関西・中国方面との交流拡大にも寄与しました。
古宮 部分開業時は九州内だけの宣伝・販促を考えていたが、全通に合わせてJR西日本と一緒になって大阪までをターゲットにした営業戦略にシフトしました。熊本、鹿児島両県ともタイアップして大阪市内でイベントを開催するなど連携を深めたことで、人の動きもより太くなっていったと思います。
経営 収入に大きなインパクト
――会社の経営面ではいかがですか。
古宮 部分開業区間の新幹線の収入は年間100億円と言われたが、それまで最も時間がかかっていた部分、競争面で弱い部分が強化され、博多から鹿児島までの縦の柱がしっかりしたということは、経営的に非常に大きかったです。長い距離に乗車されるお客さまが増えることは一番収入に貢献することからも、ものすごくインパクトがあったと思います。
――20年間で積み上げてきた新幹線のレガシーを感じる部分は。
古宮 新幹線の独立した組織の必要性について、当初から社内で大きな議論がありました。当社のような小さな規模では不要という意見もありましたが、新幹線と在来線が一緒に仕事をすると、発生するトラブルの9割以上を在来線が占めるため、どうしても在来線に精力が傾いてしまいます。それでは新幹線の安全が危ぶまれるため、いくら小さい組織でも「新幹線部」は持つべきだと突き通してきました。これは20年間でできた経験の形だと思います。
新幹線軸に人流活発化
――800系の車両更新計画は。
古宮 新幹線車両の寿命はおおむね20年だが、その理由はボディーの寿命と言われています。トンネルに入ると、気圧でボディーがわずかに縮み、この回数で寿命が決まるそうです。ベースの700系は山陽新幹線で最高時速285㌔で走るのに対し、九州新幹線は260㌔と車体への負荷が軽く、距離もそれほど長くないため、その分余裕があります。とはいえ、高速車両なので更新時期は今後計画していく必要があります。
――最後に、九州新幹線に対する今後の抱負をお願いします。
古宮 人の動きは時間短縮効果などによって、大きく変わっていきます。東海道・山陽新幹線につながる動脈のような役割を担う上で、博多、本州方面からの人の動きを活発にしていくことがJR九州の使命であり、これからも新幹線を軸に取り組んでいきたいと思います。
(M)
■九州新幹線開業からこれまで
九州新幹線の概要を紹介すると、2004年3月13日に新八代―鹿児島中央間(126.8㌔)が部分開業し、800系「つばめ」が最高時速260㌔で運行。同区間は約1時間30分短縮され、博多―鹿児島中央間は新八代乗り換えで最速2時間12分で結んだ。
11年3月の博多延伸後は同1時間16分に。山陽新幹線との相互乗り入れにより、直通列車「みずほ」「さくら」が新大阪―鹿児島中央間を同3時間41分で運行。鹿児島中央からは、かつて特急で博多まで要していた時間で新大阪まで行けるようになった。
新八代―鹿児島中央間の利用状況の推移をみると、開業前の特急利用1日約3800人に対し、開業後は約2.3倍の同8800人と整備新幹線では全国でも例のない高い水準をキープ。博多延伸後の11年度以降、同区間を含む熊本―鹿児島中央間は約3.5倍で推移し、コロナ禍前の18年度乗車人員は1日1万4300人(博多―熊本間は、同2万9300人)に上った。
一方、同区間の新幹線定期券「エクセルパス」利用者数は、04年度の通勤通学計1日約500人に対し、10年度は同約1400人。直近の23年度は出水、川内と鹿児島中央の間でそれぞれ約500人が利用し、新幹線が生活路線として定着したことが分かる。
新幹線開業を機に鉄道運輸収入も激変し、04年度は前年度比107%の1204億円に。その後の博多延伸、山陽新幹線直通効果もあり、18年度は1514億(23年度予想1428億円)まで増加し、経営に大きく寄与している。
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