交通新聞社 電子版

特集 JR四国 四之宮和幸 新社長にインタビュー

2024.07.03
四之宮和幸社長

 四国の未来をつくる  グループ一丸で貢献

 「運命共同体である四国の未来をつくることにグループ一丸となって貢献したい」――。JR四国の7代目の代表取締役社長に6月25日に就任した四之宮和幸氏の思いは、5月の社長交代会見でも述べられたこの言葉に凝縮されている。安全の確保を根幹に、四国外からの誘客による鉄道の利用促進、M&Aやファンドの活用などで成長を図り、地域から期待される企業グループとして、「真の経営自立」を目指していく。(鈴木 宏治記者)

 

――昨年9月に西牧世博前社長(現会長)から交代を打診された時の心境をお聞かせください。

 四之宮 その段階では西牧前社長がまだ続けられると思っていたので、驚きました。迷いながらも何度か話をしていく中で、(2026年度以降の)新たな中期経営計画を新たな体制で議論していく方が良いのではと、徐々に意思を固めました。会社発足後、6人の社長が引き継いできたバトンを受け取り、改めて責任の重さを痛感しているところです。

――JR四国では国鉄時代の経験のない初の社長となりました。

 

 創業期入社ともに歩む

 四之宮 時間の経過とともに、いずれJR採用の誰かがバトンを引き継ぐことになります。それが私であったということですが、初ということに特別な感情はないです。ただ、発足3年目、会社創業期の入社なので、JR四国が歩んできた歴史とともに自分の人生があるということには、感じるものがありますね。

――「運命共同体」の言葉に込めた思いをお聞かせください。

 四之宮 「四国に根差した会社として自立、発展を期するとともに、広く四国の経済・文化の向上に寄与することに努めます」という経営理念を踏まえ、安全の確保を根幹に、安心して信頼されるさまざまな事業、サービス提供型ビジネスを通じて、運命共同体である四国の未来をつくることにグループ一丸となって貢献したい、という思いを込めました。

 

 四国発展へ「運命共同体」

 特に基幹的事業である鉄道事業は人流に大きく依存しており、四国内外に関わる人流の活性化なくして当社だけが発展するということはありません。定住人口の減少という地域課題に対してわれわれができることは何かと言えば、地方に残る文化、自然、暮らしの魅力の再発見による国内外からの交流人口の拡大や、そのためにも重要な「公共交通ネットワークの四国モデル」の構築、さらにはコンパクトシティーの観点から駅周辺の歩いて暮らせるまちづくりの実現に向け、オール四国での取り組みに貢献することですし、一層期待される企業グループを目指したい、ということです。

 

 四国へ流動増やす 鉄道運輸収入236億円目標

――鉄道事業について、コロナ禍の影響が残る輸送人員の回復、増加への考えをお聞かせください。

 四之宮 輸送人員は、暦年の19年比で定期は約9割まで戻っていますが、定期外は8割なので、これを9割まで戻したいという思いがあります。どうやって戻すかは課題で、四国内や四国から本州へという流動は、人口減少やマイカーへの転移もあってハードルが高いです。

 

 注目集める情報を発信

 ですから、私は海外を含む四国外から四国への流動を増やすことに力を入れたい。具体的には、四国の魅力の情報発信に力を入れたいと考えています。例えば、今年は観光列車「伊予灘ものがたり」(予讃線松山―伊予大洲・八幡浜間)が登場10周年ですし、来年は(3年ごとに開催の)瀬戸内国際芸術祭や大阪・関西万博、(高知県出身のやなせたかし氏と妻がモデルのNHK朝の連続テレビ小説)「あんぱん」の放映もあり、これらに合わせた情報発信による観光需要増加が期待できます。

 数値目標としては、コロナ禍の影響を加味せずに設定した「中期経営計画2025」の収支計画で、25年度の鉄道運輸収入236億円を掲げていますが、これを達成できたら本当にコロナ禍を克服したことになるし、ぜひ実現したいと思っています。

 

 ものがたり列車10周年 地域と共に作る

――「ものがたり列車」は観光客誘致をはじめ、大きな役割を果たしていますね。

 四之宮 ものがたり列車は、この10年間に2回開催された四国デスティネーションキャンペーンの目玉コンテンツになりましたが、結果として、沿線観光地の入り込み増による地域経済への波及効果や、お手振りされている皆さんと深いつながりができるなど、四国の魅力発信や地域活性化、当社と地域の関係強化に大きな貢献を果たしてきたと思います。この先も愛される列車として走り続けられるよう、〝ものがたり〟を地域の皆さんと一緒に作っていきたいと思います。

――一方、利用者数の少ない線区について、自治体との「入り口の議論」になかなか入れない課題があります。

 

 利用促進や利便性向上

 四之宮 (西牧前社長時代の定例記者会見で繰り返しあった)記者さんからの質問は「協議体がいつ、どんな形でできるか」ということと理解していますが、われわれは(「入り口の議論」と利用促進を)同時並行的に(進めたい)と言っています。

 既に「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」「同Ⅱ」で情報を全部提供していて、利用促進や利便性向上にはずっと取り組んできています。(「入り口の議論」に向けた)組織の立ち上げは、いろいろな自治体のご意見もあり、なかなかお示しできるところまで行っていませんが、利用促進や利便性向上は他のエリアにも負けないような形で、粛々とやっていきたいと考えています。

 

 非鉄道事業 最大限の収益拡大

――非鉄道事業についての考えをお聞かせください。

 四之宮 中計も「長期経営ビジョン2030」も「非鉄道事業における最大限の収益拡大」を掲げて各セグメントでいろいろな施策を展開しています。これまでのところ、おおむね計画を着実に進め、ホテルの本州進出や首都圏での収益物件取得などは計画を上回る形でできたのではないかと思います。ただ、計画策定時と比べて物価や労務賃金の上昇など社会環境が大きく変化しているので、常にPDCAを回しながら方策の見直しを図る必要があると思っています。

――近年、M&Aによる東京セフティ(高松市)の子会社化や、日本プライベートエクイティ(JPE、東京都千代田区)と共同で地域活性化ファンド「JR四国・リレーションシップ1号投資事業有限責任組合」(四国・リレーションシップファンド)の設立、その第1号となるピーステックラボ(同渋谷区)への出資といった新たな動きがありますね。

 四之宮 JR四国グループは今、「第2の創業期」という位置付けです。(会社発足時のように)また30年かけて成長を目指すのであれば、ゆっくりと自前で、トライアンドエラーでやっていくこともできると思いますが、時間との闘いの中で、M&Aやファンドによる出資で迅速に成長を目指すのが得策であるということは、以前から考えていました。M&Aやファンドで対象となる業種は絞っていないので、さまざまな企業がグループ入りする可能性があります。

 

 明るく楽しく前向きに

――社内の雰囲気づくりで取り組みたいことは。

 

 西牧前社長の「ATM」を継続

 四之宮 西牧前社長が言ってきた「ATM」、すなわち「明るく(A)、楽しく(T)、前向きに(M)」を継 続したいと思っています。その具体策として、経 営陣とさまざまな部 署、特に若いスタッフとリアルに意見 交換できる場を増やしたいと考えています。

 今年の2~3月に西牧前社長と若手従業員のランチ会があり、5月からは私と若手従業員の会を開催しました。その中では、同じビルにいても会話を交わしたことがない人同士が結構盛り上がり、部署間の垣根を越えていろいろな意見が出ました。このような機会を増やしていけば、四国の未来をつくるための新しい風が吹くのではないかという期待感があります。

 

 真の経営自立へ道筋 31年以降実現へ

――改めて抱負をお願いします。

 四之宮 まずは現行中計の数値目標の達成がこの2年間での必須事項です。その上で、長期ビジョンに掲げている「持続可能な経営体質の構築」、これをより具体化するための次期中計の策定に全力を注ぎます。さらには、長期ビジョンの「将来のありたい姿」をより具体化して、「真の経営自立」に向けた道筋を明らかにしたいと考えています。それは国の支援に頼らずに経営できるという状態ですが、31年度以降(を対象期間とする経営計画)で実現できるよう目指したいと思っています。

 この思いは歴代社長から引き継いでいるので、何としてもやりたいですが、われわれだけではできない課題です。特に鉄道に関することは、地域や国と共に進める必要があります。

――国に求めたいことは。

 四之宮 事業者としての支援措置はいただいているので、地方で長期的に大きな課題となっている人口減少や、事業運営の根幹に関わる人材確保、こうしたことの対策を進めていただきたいところです。また、地方では中心都市でも公共交通の持続性が課題となっているので、自治体の関連施策への財政措置や人材育成などの後押しをお願いできればと思います。

 

 座右の銘「不易流行」

――仕事以外に力を注いでいることはありますか。

 

 ビッグネームとのテニスも

 四之宮 テニスです。JR四国のテニス部長を長らく務めていて、JRグループのテニス大会にずっと参加しています。JR東海の柘植康英相談役、JR九州の青柳俊彦会長、JR北海道の島田修会長といったビッグネームの方々とも一緒にさせていただいていますが、これが楽しくて。

――テニスのどんなところが魅力ですか。

 四之宮 動いている球を何 回も打つこと自体が楽しいですし、試 合の勝ち負けに関係なく、良かったショットだけを覚えて帰ったら満 足感しかありません。本当にストレス発散になります。

――座右の銘をお聞かせください。

 

 時代に応じ柔軟に対応

 四之宮 「不易流行」です。受け継ぐものは残し、伝え、変えるべきものは変えていく。JR四国では安全の確保だけは絶対に変えず、守らなければいけません。その上で、時代に応じて変えるべきところは柔軟に対応していきたいと思います。

 ◇四之宮 和幸(しのみや・かずゆき)氏略歴 1989年4月JR四国入社。鉄道事業本部営業部長、取締役・財務部長、同・総務部長、常務・総合企画本部長、代表取締役専務・総合企画本部長などを経て6月25日から現職。愛媛県西条市出身、59歳。

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