特集 JR九州 西九州新幹線 あす開業1周年
累計利用221万人超観光誘客けん引
九州観光の選択肢広げる
沿線の支援が〝快走〟サポート
あす23日に開業1周年を迎える西九州新幹線武雄温泉―長崎間(営業キロ69.6㌔)。運行主体のJR九州が観光誘客や日常利用の促進に力を注ぐ一方、沿線自治体による後押しも奏功し、堅調な利用を見せている。この1年の主な取り組みや沿線の動きを紹介する。(松尾 恭明記者)
博多-長崎間30分の短縮に
西九州新幹線は、同区間に武雄温泉、嬉野温泉、新大村、諫早、長崎の5駅があり、N700S「かもめ」(6両編成)が同区間を最速23分で結ぶ。博多―長崎間の所要時間は、武雄温泉駅で在来線特急「リレーかもめ」を乗り継ぎ最速1時間20分と、開業前と比べ30分短縮された。1日の運転本数は武雄温泉・新大村―長崎間上下計47本。
利用状況を見ると、昨年9月23日の開業から8月22日までの11カ月間、「かもめ」の累計利用者数は221万6000人、1日平均約6600人。開業前の長崎線諫早―長 崎間の特急利用との比較では、2018年度比102%(前 年度比189%)で推移する。
定期券利用者開業直後の2倍
定期券「新幹線エクセルパス」の利用者数は、7月末時点で439人(昨年9月末221人)と開業直後の約2倍に。区間別では、諫早―長崎間148人(94人)が最も多く、次いで武雄温泉―長崎間83人(48人)、新大村―長崎間68人(17人)、武雄温泉―嬉野温泉間48人(18人)など。
利用堅調 新幹線の速さ「実感」
沿線自治体補助 後押し
定期利用増の背景には諫早・新大村―長崎間の在来線定期券と合わせて使えるお得な新幹線特急料金回数券(4枚つづり、2000円)を期間限定で発売するなど、新幹線のスピードを実感してもらう戦略の効果もある。
在来線定期利用新幹線移行進む
諫早―長崎間は現在、在来線の所要時間が30分弱に対し、新幹線は最速8分で結ぶ。開業前の在来線特急定期券は144人が利用しており、数字上ほぼ全てが新幹線に移行したとみられる。
沿線自治体による定期券代補助も後押しする。佐賀県嬉野市では昨年9月から新幹線定期券利用者らに毎月2万円を上限に補助。同県武雄市も同11月から同様の補助を上限3万円で設定し、新幹線の利用促進に寄与する。これまで嬉野市38人(申請件数延べ127件)、武雄市112人(同196件)が利用し、いずれも佐賀・博多方面への通学利用が多くを占めている。
嬉野温泉の知名度アップ
観光誘客面では、武雄温泉、嬉野温泉の駅名が一躍全国に広まり、武雄市と嬉野市が恩恵を受けた。いずれの温泉街も活況を取り戻し、コロナ禍前のにぎわいを見せつつある。
ただ、両市の観光協会によると、宿泊施設の従業員不足や改装休業などで全体の受け皿が減少しているという。予約率は高いものの、団 体客が受け入れられず、来訪者数はコロナ禍前の武 雄温泉年間約170万人、嬉野温泉同約200万人には届いていない状況だ。
開業1周年に当たり、嬉野市では8月末に交通費1人最大3万円キャッシュバックするキャンペーンを実施したところ、あっという間に予 算上限いっぱいに。武雄市では12月から、武雄温泉駅からの2次交通に利用できる5000円クーポンの発行も予定している。
にぎわう長崎「底上げ」した感
西九州新幹線の終着駅・長崎駅では、連日利用客への対応に追われた。萱嶋創駅長は「1年を通じて底上げした状態が続き、大変多くのお客さまが来られました。ピーク期の状況がつかめたので2年目から態勢を強化してお迎えしたい」と語る。
グルメ、おもてなし、景色…
平均乗車率90%誇るD&S列車
西九州新幹線と同時に運行開始したD&S(観光)列車「ふたつ星4047」(全車指定席、定員87席)は、平均乗車率約90%と絶好調。1カ月前の発売開始からすぐに席が埋まる人気ぶりで、常にほぼ満席の状態が続く。
列車は週末を中心に武雄温泉―長崎間を往路(午前便)、復路(午後便)でルートを変えて1日1往復する。地元グルメや有明海と大村湾の美しい景色、停車駅で地域の人々によるおもてなしを楽しめるのが、この列車の大きな魅力だ。
車内販売する特製弁当やスイーツも好評で、とりわけ午後便の数量限定「長崎スフレ」は事前予約で毎回完売。女性に人気の「アイスソルベ」も季節ごとに商品が入れ替わり、乗るたびに異なるメニューが味わえる。
午前便で途中17分停車する肥前浜駅では、駅ホーム直結の「HAMA BAR」が提供する日本酒飲み比べセットが大人気。その他の停車駅でも特産品のプレゼントや臨時販売が行われ、産品のPRにもつながっている。
同社担当者は好調の理由を「食、景色、おもてなしの全てがそろい、乗るだけで半日観光できるとイメージしやすいのでは」と分析。「地域の皆さまと関係を維持しながら新たな提案をいただくなど、よい循環が生まれています」と話す。
■インタビユー
取締役・常務執行役員・鉄道事業本部長 福永 嘉之氏
乗車もっと増やす
新たなアプローチ図る
――1年目の総括を。
福永 大きな輸送トラブルなく、順調な1年だったと思います。コロナ禍からの回復期でもあり、コンスタントに利用していただきました。九州新幹線の利用がコロナ禍前の1割ほど減少しているのに対し、西九州新幹線が同等以上であることは、開業効果の表れだと考えています。
――在来線とのリレー形式における安定輸送や運転支障について。
福永 開業直後の踏切支障や大雨の影響を受け、社内で検討し対策を講じてきました。踏切では要注意の16カ所を抽出し、警察や道路管理者と協議して進入規制の強化、注意喚起などを図ったことで、一定の効果が表れています。
大雨についても、運転再開前の社員による在来線区間の「要注意箇所巡回」に時間を要していたため、4月から一部にリモート監視を取り入れました。切り取り箇所の状況や橋りょう部の水量計測をカメラ映像で確認できるようにし、再開までの時間短縮につながるようにしました。
――武雄温泉駅での乗り換えはスムーズでしょうか。
福永 同一ホーム対面乗り換えは九州新幹線で実績がありましたが、西九州新幹線の場合はいろんな列車がリレー号となり、案内に工夫を要しました。それでも、わかりにくいというご意見もあり、ホームのサインや放送の充実、強化に取り組みました。
社員の多能工化
――社員の多能工化による業務運営に関して。
福永 短い新幹線を効率よく運営するために、運転士が車掌や一部の仕業検査を担うマルチスキルを取り入れました。運転士と車両職のコミュニケーションが深まるとともに、社員の成長や知見の共有にもつながり、うまくいっていると感じています。運転士はその自覚とモチベーション向上のために、持っている資格の数だけ星印が入ったプレートを着用しています。
――2年目の抱負をお願いします。
福永 今後も安全とサービスに努めながら、いろんな仕掛けを行い、お客さまをもっと増やしていきたいですね。まだ利用したことのない方へのアプローチも大切です。社員の皆さんには現場も含めて、いろんなアイデアを出し合い、実行につなげてもらうことを期待しています。(M)
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