特集 JR九州グループ JR九州の新D&S列車「かんぱち・いちろく」 JR九州エンジニアリングの取り組み
ゆふ高原線の風土をあじわう
博多-別府間の新D&S列車 かんぱち・いちろく
洗練された車両
随所にアート
「ゆふ高原線の風土をあじわう列車」をキャッチコピーに、JR九州が久大線経由の博多―別府間で運行する新D&S(観光)列車「かんぱち・いちろく」。洗練された車両デザインや車内随所を彩るアート作品はもとより、沿線や旬の食材を使った食事、地元の歓迎などが乗客を楽しませている。新たに加わった列車の魅力を紹介する。(松尾 恭明記者)
列車は気動車3両編成で、1、3号車が客室、2号車はビュッフェも兼ねるラウンジ。車両デザインは鹿児島市のデザイン会社IFOOが初めて担当し、艶のある黒の車体にはゴールドで久大線の路線図があしらわれ、車内は従来のD&S列車とは趣の異なるナチュラルな印象の空間が広がる。
くつろぎ
1号車は3人まで並んで座れるソファ席が中心で、3号車は仕切りの高い半個室タイプのボックス席(2人掛け、4人掛け)。各号車には靴を脱いで利用する畳敷き個室(定員6人)が1室ずつあり、ぜいたくにくつろげる。
号車ごとにテーマ性を持たせ、1号車のシートは「別府・大分」をイメージした「赤茶」、3号車は「福岡・久留米」の「青緑」をベースカラーに採用。座席テーブルにそれぞれ大分産、福岡産の杉を使うこだわりようだ。
車内販売
2号車「ラウンジ杉」は、樹齢約250年の杉を使った長さ約8㍍の一枚板カウンターが圧倒的な存在感を放つ。天井には大分県日田の底霧を表現した細やかな装飾も。ここでは沿線の食べ物、地酒やジュース、オリジナルグッズを取りそろえ買い物が楽しめる。
列車は1日片道運行で、月・水・土曜日の博多発が「かんぱち」号、火・金・日曜日の別府発が「いちろく」号として、同区間を約5時間かけてゆっくり走る。それぞれ博多を12時19分、別府を11時に出発し、乗客はランチを味わうことから旅が始まる。
あじわう
おしゃれな日田杉製の二段重に入って提供される食事は、福岡市と大分市の飲食6店舗が日替わりで担当する。地元食材をふんだんに使った和食、フレンチ、イタリアンがあり、メニュー目当てに曜日を変えたリピーターも増えそうだ。
もてなし
約5時間の旅の途中には二つの〝おもてなし駅〟があり、イベントが開催される。博多発は久大線田主丸、恵良、別府発は天ケ瀬、うきはの各駅で地元の人々が出迎え、特産品販売などで楽しませてくれる。
全席を旅行商品として発売し、ボックス席・ソファ席が2人以上利用・食事付きで大人1万8000円(子ども1万5000円)、畳個室は4人以上利用で2万3000円(1万9000円)。ボックス席1人利用は1万円追加となる。
■JR九州エンジニアリングが改造工事
短期間の工期で完遂 効率的な作業体制やDX化 奏功
気動車3両編成の改造工事は、JR九州エンジニアリングと協力会社の社員が中心となって実施。同社が取り組む効率的な作業体制やDX(デジタルトランスフォーメーション)化の成果により、約6カ月の限られた工期で完遂させた。
今回の工事には「上廻り」「電気」「下廻り」「鉄工」の4グループ計32人が参加。初めに鉄工グループが車両内部を解体した後、窓幅を拡張する一方、一部の乗降口をふさいだり、車体補強などを施してベースを形成した。
続いて、他の3グループが内装工事に入ったが、同社は作業員を号車単位で明確に分けず、〝ワンチーム〟として管理した。作業の進ちょくや優先度、部材の納入時期などを見ながら各車両に要員を割り当て、無駄なく効率的に作業を進めた。
情報共有し密に意見交換
さらに、材料や計画表、製作工程などを全員が端末で把握できるようにし、毎日の作業後にはオンライン会議で翌日以降の作業内容を確認。さまざまな視点から意見交換することで、より細やかなスケジューリングにつながった。
また、今回は主に建物のリノベーションなどを手掛けるIFOOが車両デザインを担当したこともあり、1、3号車の内装の天井や側面には、初めて建築材のスパンドレルが採用された。これに伴い、同社は天井のスパンドレルを取り付けるために必要な部材の内製化にチャレンジした。
部材の製造は、昨年11月に福岡県古賀市に開設した福岡製作所で実施。使われた長さ4㍍のスパンドレルは2両計175本に及び、取り付ける部材も全部で580点に上った。同製作所では初めて経験する規模の作業となったが、計画通りに成し遂げることができた。
杉の一枚板全員で搬入
改造工事が最終段階に入り、2号車へ杉カウンター搬入という大仕事が残った。約8㍍の一枚板は重さ230㌔。樹齢約250年という希少性から傷つけることは許されない。そのため、クレーンでつり上げることはできず、約20人の作業員全員で持ち上げて慎重に運び入れた。ここでもワンチームの力が発揮された。
同社は「前回のD&S列車『ふたつ星』改造工事からワンチームの体制を取り入れたが、その経験を踏まえ今回はさらに効率的に進められた。福岡製作所も経験とノウハウを蓄積することができ、今後の業務に生かされると期待している」と話す。
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