特集 JR貨物 被災地復興を支える「被災自治体への救援物資無償輸送の取り組み」
元日に発生した「令和6年能登半島地震」を受け、JR貨物と全国通運連盟は、被災自治体に対する企業などからの救援物資(救助用寄贈品)について無償で輸送を実施している。2月20日までに全国各地から発送された10件、12㌳コンテナ12個の無償輸送を取り扱い、被災者の支援や被災地の復興に貢献している。歴史をさかのぼると救援物資の輸送は1891年の濃尾地震で実施した例があり、JR貨物発足後も阪神淡路大震災や東日本大震災など大災害の発生に合わせて行ってきた。貨物鉄道輸送で全国から寄せられた善意と被災者をつなぎ、被災地復興の役割を果たしてきた取り組みを紹介する。(岡崎 慎也記者)
■能登半島地震で全通連と
指定公共機関として社会貢献
JR貨物は、業務の公共性や公益性などから災害対策基本法で内閣総理大臣が指定する「指定公共機関」の一員。同法で、指定公共機関の責務として「業務を通じて防災に寄与しなければならない」と規定されている。災害応急対策の実施のため、緊急時は国から物資輸送の要請を受けることも定められている。
今回の能登半島地震では、地震発生後に同社は全国通運連盟と連携し、1月4日に被災した自治体などに対する企業などからの救援物資について当面の間、無償で輸送を行うと発表した。
対象は、被災自治体に対する救援物資で、12㌳コンテナ1個単位(5㌧以内)。全国のコンテナ貨物取扱駅から被災地最寄りの取扱駅まで貨物列車で輸送する。荷送り人の指定場所から最寄り駅までと、被災地の最寄り駅から荷受人までの間は利用運送事業者がトラックで輸送する。
荷送り人は各自治体の災害対策本部などへ救援物資の輸送について事前に連絡の上で受け入れを承認された企業など。荷受人は救援物資の受け入れを表明している被災自治体としている。
飲料水、食料品など輸送
無償輸送の受け入れを発表後、6日に岡山県内の医薬品小売業の企業からJR貨物関西支社岡山支店へ救援物資の無償輸送の依頼があった。石川県志賀町向けの飲料水やカップ麺など12㌳コンテナ1個分を10日に発送し、山陽線岡山貨物ターミナル発18時20分、新湊線高岡貨物着11日17時25分のダイヤで、1056~4091~6080~6081列車で輸送。同駅到着後、12日朝にトラックで同町へ送られた。
11日以降も、北海道、神奈川、埼玉、東京、静岡の各都県の企業や団体などから依頼のあった救援物資の無償輸送を順次行っている。業種は資源リサイクル業、精密測定機器メーカー、管工事業団体、塗料メーカー、農業団体、学校法人、宿泊業などと幅広く、品目は飲料水を中心に食料品や簡易トイレ、毛布、衛生用品など。それぞれ自社製品をはじめ、備蓄品や購入した物資をコンテナ1~3個分提供した。
通常の貨物と同様、コンテナ列車で発送。高岡貨物、あいの風とやま鉄道富山貨物、IRいしかわ鉄道金沢貨物ターミナルのいずれかの駅へ輸送している。これまでの受け入れ自治体は志賀町のほか、同県輪島、七尾、珠洲の各市となっている。
物資提供側の企業などの過半数は過去にJR貨物の貨物鉄道輸送を利用したことがあった。その他はニュースなどを通して無償輸送を知って利用したという。救援物資の輸送手段を探していた際、貨物鉄道輸送を利用した経験からホームページで詳細を調べたものや、被災地で飲料水が不足していることを知って地元の銘水の提供を思いついたケースなどがあった。
■明治期から災害時に無償輸送
救援物資輸送の歴史
貨物鉄道による災害救援物資の無償輸送の歴史は、1891年10月28日に発生して愛知、岐阜両県に大きな被害をもたらした濃尾地震の際に行われた記録に始まる。鉄道は東海道線浜松―米原間などで多数の陥没、橋梁(きょうりょう)の崩壊、建物の倒壊など甚大な被害を受けた。当時の鉄道庁は復旧作業と並行し、被災者救助のため救援物資の無賃輸送や運賃割引を行ったことが「日本国有鉄道百年史」に記されている。
また、「國有鐵道震災誌」によると、1923年9月1日の関東大震災では、発生から2日後の3日に鉄道大臣が各鉄道局長に宛て、行政や公共団体向けの食料、救護品、復旧材料について無賃輸送の取り扱いを行うよう手配している。
87年4月のJR貨物発足後は、91年の雲仙普賢岳噴火災害から2018年の北海道胆振東部地震まで計10回の無償輸送を実施してきた。いずれも企業などが寄贈したスナック菓子やレトルト食品、寝具、根菜類などを被災地に届けている。
主な実績を見ると、雲仙普賢岳噴火災害では91年7~8月に長崎県へ112㌧、北海道南西沖地震では93年7~8月に北海道桧山支庁(当時)へ75㌧、阪神淡路大震災では95年1~2月に神戸市、兵庫県川西市、伊丹市へ545㌧、新潟県中越地震では04年11~12月に同県小千谷市、長岡市などへ65㌧など。
東日本大震災では11年3~4月に東北地方の各自治体へ1560㌧を輸送。列車の走行中に地震に遭遇して運行を継続できなくなり、荷主の意向により途中で貨物を取り下ろして救援物資として近隣住民に提供した例もある。いずれのケースも輸送期間は1カ月程度としていたが、16年4月の熊本地震以降は需要に応じるため終了日を設けずに対応している。
善意を確実に届ける役割
その他の災害復興支援の取り組みとして、熊本地震や19年10月の台風19号では、木くずや可燃ごみ、稲わらなどの災害廃棄物の処理を受け入れた関東地方の自治体や企業などへ、被災地から専用無蓋コンテナによる輸送を行った。能登半島地震でも、今後、国や県から広域の受け入れ要請があれば引き受ける方針で準備を進めている。
同社の林田仁鉄道ロジスティクス本部マーケティング戦略室長は「大量輸送が可能な鉄道の強みを生かし、『救援物資を被災地へ届けたい』という皆さまの善意を確実に届ける役割を担っている。日頃から地域の皆さまに支えられてさまざまな事業を継続しているので、災害発生時にはしっかりと物品を届けていきたい」と話している。
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