特集 大正レトロでお出迎え ~上田電鉄別所線を訪ねて~
歴史、文化満喫〝信州の鎌倉〟へ
長野県の東信エリア、上田市内に鉄道路線を有する上田電鉄。上田駅から別所温泉駅までの別所線(11・6㌔)を運行管理する。平安時代末期から江戸時代にかけて幾度の歴史舞台となった塩田平の自然風景の中を走る。厳しい経営状況に置かれながらも地域住民の通勤通学、〝信州の鎌倉〟といわれる別所温泉への観光客輸送には欠かせない線区である。
上田駅から乗車すること、わずか30分ほどで別所温泉駅に着いた。全15駅。かつて東急電鉄で活躍した鉄道車両が旅客を運んだ。
別所温泉駅はレトロな世界に包まれていた。駅は1921年6月、この地が「別所村」と呼ばれていたことから「別所」の駅名で開業したが、24年11月に「信濃別所」、30年1月から現駅名となった。
木造構造、半切妻屋根の平屋建て。50年に建て替えられ、2008年には〝大正レトロ〟をコンセプトに改装された。レモン色の壁と淡いブルーの窓枠、板壁が特徴だ。駅名標は看板1枚に〝連文字〟で表記するのではなく、「別」「所」「温」「泉」「駅」と1文字ずつホーム屋根上に設置されていた。ホームは頭端式1面1線、かつては2面2線で、使用されなくなったホームは花壇として活用されていた。
ユニークなのは、観光駅長「袴(はかま)駅長」の存在。06年から別所温泉観光協会の職員2人が「おもてなし」の一環として始めた。19年の台風19号災害、新型コロナウイルス感染拡大による減収などを理由に22年3月で終了したが、4月から上田女子短期大学生らが土曜日・休日(9~15時)に〝勤務〟する。ホーム上で列車出発時のお見送りなどに当たり、乗車した観光客を笑顔にさせていた。
駅舎内には、別所温泉観光協会の施設を併設し、訪れた観光客への案内、地場産品などを販売する。同観光協会では上田電鉄との協業による「駅ナカサービス」を23年12月に開始し、駅のにぎわいづくりにも努めている。
■観光客に人気 個性豊かな車両
上田電鉄ホームページ内の「車両運用」によると、「赤帯」をはじめ、「れいんどりーむ号」「自然と友だち号」「まるまどりーむ号(Mimaki号)」「さなだどりーむ号」が紹介されている。
色も鮮やか。多彩なラッピング電車は人気のようで、別所温泉駅ホームでは降車した観光客らの写真撮影するシーンが見られた。
同社では「四季折々の風景の中を走る個性豊かなラッピング電車、ぜひ撮影にお越しください」とPRする。
■かつては57・2㌔
上田―別所温泉間を結ぶ別所線のほかに、上田駅を中心に鉄路が敷かれ、北は真田町(現上田市)、南は丸子町(同)、西は青木村まで総延長は57・2㌔に及んだ。
1916年の丸子鉄道、20年の上田温泉軌道の設立から歴史が始まる。別所線(当時は川西線)は21年開業。大正時代中期から昭和時代初めにかけて丸子線、青木線、西丸子線(依田窪線)、北東線(真田傍陽線)が開業・全通したが、戦後のモータリゼーション進展などに伴い72年までに順次廃線の運命をたどる。
別所線も73年に廃止方針が示されたが、地元を中心とした存続運動で〝難〟を免れ、今日に至っている。
■神様のいやしの湯 別所温泉で一息
別所温泉は日本武尊の東征の際に発見されたともいわれ、その歴史は1400年余。「信州最古の温泉」と呼ばれている。
一方で別所温泉が「信州の鎌倉」とも称されるのは、平安時代末期の武将・木曽義仲(源義仲)が信州を平定するために派遣した軍勢によって焼き討ちされた多くの寺院を、鎌倉幕府を開いた源頼朝や塩田北条氏らによって再建されたことに由来する。
別所温泉には「北向観音」はじめ、「常楽寺」「安楽寺」など、歴史的にも価値のある建造物が多く、別所温泉旅館組合では「神様のいやしの湯」としてPR。共同浴場の「石湯」は真田幸村、「大師湯」は円仁慈覚大師、「大湯」は木曽義仲、北条義政が愛したそうだ。温泉旅館は13施設あり、趣あるたたずまいが観光客を迎える。
■利用促進へあの手この手
上田市がまとめた2022年度「別所線安全対策事業等の実績報告」によると、1995年度に約171万2000人だった利用者数は97万1000人まで減少している。
少子化や過疎化などの進展が理由。コロナ禍の影響を受けた20年度の63万7000人からは回復しているが、経常損失は5773万円。
上田電鉄ではアニメキャラクターとコラボレーションしたデジタルスタンプラリーの開催、上田市消費喚起応援事業に呼応し「チケットQR」を活用した専用アプリによる回数券販売、期間限定の全線運賃無料キャンペーンなどを実施する。6月30日までJR東日本、JR東海、しなの鉄道、長野電鉄、アルピコ交通などとともに「集え!駅酒(えきしゅ)パート!第4弾 信州 鉄道×酒スタンプラリー」(日本酒、甘酒)を開催し、集客に努めている。
■沿線で展示中別所線のシンボル 丸窓電車
別所線沿線では「丸窓電車」と呼ばれる「モハ5250形」が展示されている。地元では「上田電鉄別所線のシンボル」と称し、鉄道ファンにも人気の車両である。
モハ5250形は1927年に日本車輌製造で製造され、28年5月から86年9月まで運用された。戸袋窓が楕円(だえん)形だったこともあって「丸窓電車」の愛称が付けられた。
上田電鉄が所有していた丸窓電車は3両で、「モハ5251号」は2011年4月にさくら国際高等学校(上田市手塚)に無償譲渡。「モハ5253号」は04年9月に長野計器電子機器工場(同市御岳堂)へ移設され、「長野計器丸窓電車資料館」として一般公開されている。別所温泉駅の「モハ5252号」は11年10月にリニューアルされ、こちらも公開している。
モハ5252号の車内に入ると、木製の床面が出迎えてくれた。木製床は国鉄時代などに活躍した旧型客車の一部で見られるだけ。白色のつり革とのコントラストがレトロな世界を演出する。ロングシートの一部では資料が展示され、運転台も見学できる。
■沿線のココ気になる !!
神社をイメージ 下之郷駅
別所線のほぼ中間に位置する下之郷駅。車両基地・留置線があり、鉄道イベント「丸窓まつり」がこの4月に開催された。
別所温泉駅のような駅舎施設はなく、ホーム上の待合室が兼ねる。外観は近くの生島足島神社の社殿をイメージ、鉄道利用で〝ご利益〟が受けられるかもしれない。
■台風で被災 赤い鉄橋
別所線の名を知らしめたのは 、2019年10月の台風19号の大雨による〝赤い鉄橋〟「千曲川橋梁(きょうりょう)」(約224㍍、幅員約4.3㍍)の一部の落橋だった。
上田―城下間にある 同橋梁は 、1924年10月に架設された「5径間単線単純鋼下路プラットトラス橋」(径間約44.8㍍)。堤防崩壊に伴い落橋したのは城下駅側「G5桁」。
復旧作業に当たっては、100年前の設計図を手かがりに、落橋した橋梁を再利用。工事は東急建設が担当し、3Dレーザースキャナーなどの最新技術を駆使、21年3月28日に全線運転再開した。
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