交通新聞社 電子版

特集 JR東日本アイステイションズ 運行情報多言語変換システム導入効果は・・・ユーザーのJR西日本関係者に聞く

2024.01.31
座談会出席者の皆さん

 全国の鉄道事業者73社局の運行情報を公式・公認情報として提供しているJR東日本アイステイションズ(JIS)。全国で唯一、JR東日本から直接、運行情報を入手し、配信できる事業者として、JR東日本管内をはじめとする全国の鉄道事業者や、コンテンツプロバイダー、報道機関などにも運行情報を提供。同社は運行情報配信に特化したものから多言語に対応したものまで、鉄道事業者のニーズに合わせたシステムも多数手掛けている。幅広い領域で活躍する同社のサービス導入事例を紹介する。(福原 潤記者)

 

 ■ 座談会(敬称略、順不同)

 JR東日本アイステイションズ

  営業部交通情報グループリーダー    鈴木 智茂氏

 JR西日本

  理事・鉄道本部CS戦略部CS推進室長 髙須 優子氏

  鉄道本部CS戦略部CS推進室担当課長 渡壁なぎさ氏

  鉄道本部CS戦略部CS推進室     東田 沙弥氏

 

 同社は2020年、従来と比べてより詳細な多言語案内を実現する運行情報多言語変換システム「MATOS®(マトス)」を開発。JR西日本では、同年3月の多言語運行情報ホームページのリニューアルにおいて、同システムを活用し多言語による運行情報をより充実させた。「運行情報多言語変換システム」の開発を手掛けたJR東日本アイステイションズとJR西日本のCS(顧客満足)向上などに携わる担当者らに集まってもらい、導入前に抱えていた業務上の課題や「運行情報多言語変換システム」導入後の効果などを語ってもらった。

 

 髙須氏 横ぐし機能実感、お客さま視点で

 

――JR西日本の皆さんが担当されている業務の概要を教えてください。

 髙須 当社では、昨年4月に「鉄道カンパニー」が発足しました。世の中の動きなども踏まえて、今年1月からはCS推進と鉄道カンパニーにおける戦略機能を集約しました。お客さま起点でどのような施策をどのような優先順位を付けて着手し、展開していくべきかを考える部署の長を務めています。

 渡壁 列車の遅延や運転取り止めなどの異常時の情報提供と、 おからだの不自由なお客さまや訪日のお客さまに、快適にご利用いただくためのサービス向上を考える部署の管理職をしています。

 東田 異常時の情報提供の担当者として、システムの開発や運用をJISさんに日々協力いただきながら行っています。また、年に1度実施している「お客様満足度調査」の実施・分析などを行っております。

――鈴木さんは、JR西日本への自社サービス導入に際して、どのようなことを担われたのですか。

 鈴木 営業担当として、2014年からJR西日本さまの担当をさせていただいております。これまでに「多言語運行情報ホームページ」「列車運行情報アプリ」の開発・改修から、「WEBでの遅延証明書発行のサービス」のリニューアル開発などお手伝いをさせていただきました。スマートフォンの普及に伴い、アプリのプッシュ通知機能を用いて、駅に来駅される前に異常時の情報発信を行う仕組みやインバウンド向けの情報発信など、お客さまサービス関連のさまざまなお取り組みに携わらせて頂いております。

――CS推進室では、鉄道利用者へのサービスに直結する異常時の情報提供の充実化などのブラッシュアップを日々図っておられます。どのようなサービスが利用者さまから求められていますか。

 渡壁 当社の一番の商品はダイヤであり、お客さまに安心して列車をご利用していただくためには、運行情報をきちんと発信することは非常に重要な仕事であると考えています。列車が遅れている時に、きちんとご案内ができていなければ、お客さまにご迷惑をおかけすることになります。お客さまからは、駅に来られる前、例えばご自宅にいらっしゃる段階でスピーディーかつわかりやすく情報が取得できることをお求めいただいていると考えています。また、インバウンドのお客さまにも同様に、スピーディーにわかりやすくお伝えすることが求められています。それにお応えできるように日々、改善できることを確認しながら、サービスを提供しています。

――これらの課題の解決に向けて、どのようなことをJISに期待されましたか。

 渡壁 「運行情報多言語変換システム」は、当社が日本語で案内した内容を、多言語に自動で変えていただけるシステムです。日本語でご案内している詳細な内容を、各言語でも自動で「多言語運行情報ホームページ」でお伝えすることが可能となり、非常に助かっています。また、同システムでは、単純な機械翻訳だけではなく、鉄道運行情報に適した翻訳文章が生成されます。鉄道で使用している言葉をきちんと織り込んで、細かなニュアンスも加えた上で、複数の言語で最適なご案内を実現いただいています。

――スマートフォンやSNSの普及なども相まって、利用者が運行情報を取得する機会は列車内や駅構内に限らなくなっています。それはインバウンド向けの情報発信も同様だと思います。

 鈴木 お客さまご自身で運行情報が提供されていることに気づくことができ、かつ駅係員の業務負荷の軽減にもつながることなどを目的に、「列車運行情報アプリ」をご提案し、導入いただきました。また同時期に、インバウンドのさらなる誘致を目指し、多言語での情報提供の充実を図るべく、多言語サイトにつきましても、お手伝いをさせていただきました。

 

 渡壁氏 最適に案内、細かなニュアンスも

 東田氏 HPわかりやすく、閲覧数上昇

 鈴木氏 人手かけず効率化、コストも考慮

 

――20年には、訪日のお客さま向けにご案内する多言語運行情報ホームページをリニューアルされています。情報発信の強化による効果などは、どのようなものがございますか。

 東田 リニューアル以前は「影響路線・区間、運転状況、原因、運転再開見込み時間」をテキスト情報でお伝えしていました。リニューアル後は、地図の色やピクトグラムが運行状況に合わせて変化し、当社管内全体の運行情報を視覚的にわかりやすく確認できるトップページに変更を行いました。また各エリアのページにおいて今後の運行計画などの詳細な情報を各言語で翻訳して表示する機能を追加しました。駅では係員がタブレットなどで翻訳してご案内する体制も構築していますが、ウェブ上で詳細な情報が発信できるようになったことは、旅先での異常時においてもお客さまに安心してご利用いただけるようになったと考えております。現在の多言語運行情報ホームページの閲覧数は、リニューアル前の19年比で約2・5倍のお客さまに閲覧いただいています。(多言語翻訳の大元の文章にもなる)日本語の文章についても、情報量を充実させつつ、分かりやすい文章とするために、日々磨きをかけています。

 鈴木 20年の多言語運行情報ホームページのリニューアルでは、これまでのテキストのみのページから、路線図やピクトグラムを使ったデザインに刷新しました。また、日本語のホームページでご案内している運行情報を機械翻訳することで、より詳細な運行情報を多言語文章としてご案内する機能を追加し、多言語での運行情報の充実化を図りました。

――新型コロナウイルス感染症が5類に移行するなど、コロナ禍が落ち着きを見せ、インバウンドをはじめ観光の復活も本格化しています。インバウンド向けの情報発信を強化するためには、やはり人手や開発コストなども要するのではないですか。

 鈴木 「運行情報多言語変換システム」は極力、人手による運用を介さずに、機械翻訳の活用やシステム化により効率的に実現するとともに、コストも含めてトータルバランスを考慮し、ご提案いたしました。機械翻訳を使った多言語文章化には、当社が開発した「運行情報多言語変換システム」(MATOS®)をご利用いただいています。その特長は、日本語ホームページで掲載された情報を読み込んで、多言語化することです。そのため、鉄道事業者さまはこれまで通りの日本語ホームページに情報を掲載するフローから変更することなく、多言語文章でのご案内が可能です。

 また、翻訳精度はより精度の高い翻訳結果となるよう、機械翻訳にかける前処理として、句読点の追加や文法、言い回しの調整などの日本語の微調整や路線名・駅名などの個別辞書登録を行うことで、翻訳精度向上を図っております。 

――JR西日本にとって、本件と関連したCSの向上におけるめざす姿を教えてください。

 渡壁 コロナでお客さまの行動様式は変わりました。今後もいつ何時変わるか分かりません。システムと人間の役割を分担した上で、それぞれの役割のなかで、お客さまが鉄道をご利用いただくときの「一連の行動」に思いを馳せて、サービスをご提供していくことが、お客さまにさらに愛着を感じてご利用いただくことにつながると思います。JISさまにはシステムで担いたいと考えていたことを担っていただいています。多様化するお客さま一人一人のご期待にお応えする努力を重ねていき、常にお客さまを意識した事業活動を行うことを企業文化として定着させることで、お客さまから愛着を感じていただき、信頼を寄せていただくことを目指していきます。

 髙須 CSを推進する部署として、横ぐし機能が大切だと考えています。列車の運行状況をお知らせする異常時の情報提供に取り組む中、まさにその横ぐし機能を育ててきた実感を持っています。サービスを導入する際はもちろんのこと運用場面で、関係者がお客さま視点で考えることを続けていきます。

 関西MaaS協議会(運営=JR西日本、大阪市高速電気軌道〈大阪メトロ〉、近鉄グループホールディングス、京阪ホールディングス、南海電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道)は昨年9月、国内初の鉄道事業者連携による広域型MaaS(マース)アプリ「KANSAI MaaS」をリリースしました。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催が控える中、インバウンドのお客さまが日本国内、特に関西圏を快適にご移動いただけるよう、当社は取り組みを進めています。ぜひともお力添えをいただき、JISさまに引き続きサポートしていただきたいです。

 

 伊藤氏

 重要なインフラ情報を提供 担う自覚と責任

 ◇JR東日本アイステイションズシステム部交通情報グループリーダー・伊藤祐一氏

 当社は、JR西日本さまの「多言語運行情報ホームページ」「WEBでの遅延証明書発行のサービス」に加えて、「列車運行情報アプリ」の開発、保守・運用業務を担わせていただいています。日常の生活を送る上で、欠かせない鉄道という重要なインフラの情報提供の一端を担っていることの自覚と責任を持って、業務に取り組んでいます。

 社名に「JR東日本」とあります通り、当社はJR東日本のグループ会社です。JR東日本をはじめ、複数の鉄道事業者さまより配信業務を受託し、輸送指令から入手した運行情報を、駅や車両、ホームページ、SNSといったさまざまな媒体に提供するためのシステムの開発・運用を行っています。

 昨今のインバウンドの増加傾向の流れも受けた多言語情報の提供においても、鉄道事業者さまからのご要望を形にしてきました。

 また、旅客一斉放送を文字化し、駅現場の社員の方のタブレット向けに情報を提供するための業務支援ツールの開発にも携わるなど、運行情報の提供においても多角的にサービスを展開しています。今後も、鉄道事業者さまのお役に立てる企業として日々活動をして参りたいと考えています。

 

 ■JR西日本のCS戦略部CS推進室が担う役割とは

 JR西日本グループは昨年4月に公表した「JR西日本グループ中期経営計画2025」の中で「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」を、「未来社会を見据えた同社グループの存在意義」「めざす姿」として位置付けている。CS推進室では一つひとつの顧客接点はもちろんのこと、利用者が同社サービスの利用を検討する時から利用を終えるまでのあらゆる体験を、一連の顧客体験として捉え、利用者に提供する価値を日々磨いている。

 

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