JR東日本 鉄道事業本部安全企画部門・片方主幹 博士(社会工学)学位を取得
「4M」視点で事故防止
40年以上にわたって鉄道の安全対策の実務に携わってきたJR東日本鉄道事業本部安全企画部門の片方喜信主幹(73)が3月、「『安全の4M』の視点で捉えた信号冒進事故防止技術の変遷に関する研究」をテーマとした論文で博士(社会工学)の学位を取得した。「現在の技術がどのように発展してきたかをひも解くことは、将来の技術をどう進化させていくのかを考える指標になる。後輩の皆さんにも学ぶ喜びに挑戦してほしい」と後進にエールを送る。
片方主幹は1976年に国鉄入社。82年に運転局保安課に配属されて以降、一貫して安全部門を歩んできた。民営化翌年の88年、JR東日本安全対策部在籍時にまとめた「安全のマスタープラン」では、国鉄時代の「守る安全」から「チャレンジする安全」への転換を図り、89年度から5カ年の「安全設備重点整備計画」を策定。その後、ハード整備のみならず、ソフト面の拡充にも力点を置いた「グループ安全計画」として現在に続いている。
こうした経験を重ねるうち、「携わってきた実務が学術的にどう位置付けられるのか確かめてみたい」との思いを持つようになった。2008年の定年退職後は常勤嘱託社員となり、博士学位を取得した先輩の紹介で09年から、筑波大学大学院の社会工学学位プログラム博士後期課程の都市交通研究室に顔を出すように。70歳目前の21年4月、同課程に入学して3年間学んだ。
論文は、テーマにある「安全の4M」がポイント。4Mとは、米国空軍が複雑な事故要因を調査する視点として定義した「Man」「Machine」「Media」「Management」の4要素で、米国国家運輸安全委員会で提唱され、片方主幹がマスタープラン作成時に取り入れた考え方だ。
論文作成に当たり、Manを運転士、Machineを地上装置・車両装置、Mediaを運転取扱ルール・運転室作業環境、Managementはこれら3要素の連携をつかさどり、安全性向上を図る役割と定義した。
同社にデータが残る1958年度以降の信号冒進事故防止技術の歴史について、ManとMachineの視点から調査。車内警報装置からATS―S、トランスポンダ式ATS―Pへと技術の進化に伴い、事故防止効果が見られたことを確認した。また、Mediaの改善が運転士の負担を軽減し、一層のレベルアップが図られたとしている。
90年代以降は、これら三つの「M」(3M)を連携させるManagementが、事故防止の重要な要素となっていると指摘する。
「実務と学問の間に立ち、教授とディスカッションを繰り返した。『自分史』にならないよう外部や海外の文献にも当たって客観性を担保した」と苦労もあったが、「職場の専門家や社外の多くの方にアドバイスや励ましをいただいてありがたかった」と振り返る。
同社の鉄道運転事故件数は、会社発足時の約3分の1に減少した。一方、本質的な安全の仕組みに関する知識不足や自動化システムへの過信など、新たなタイプの事象は増加傾向にある。
片方主幹は「安全レベルの一層の向上には、ハード整備と社員への安全教育を進めながら、3MとManagementとの関係性をさらに追求していく必要がある」と提言する。
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