特集 中部電力パワーグリッド 鉄道電力設備をコンサル 「トキ鉄」の事例から 新たな形が…
特別高圧受変電設備
更新の最適化提案
長年の「保守」知見生かす
中部電力パワーグリッド(名古屋市)は、特別高圧受変電設備を所有する法人向けに、設備の維持管理にまつわる負担軽減、システム構成や機器更新の最適化を提案する技術サポートを行っている。電車運行を担う鉄道事業者では、沿線の変電所などに同設備を備えており、輸送を支える生命線の一つとして、将来を見据えて計画的に保守していく必要がある。同社による設備コンサルティングや技術サポートを取り入れた新潟県の第三セクター鉄道・えちごトキめき鉄道(トキ鉄)での事例から、鉄道電力設備の新たなメンテナンスの形が見えてきた。(栗原 康弘記者)
中部電力パワーグリッドは2020年、持ち株会社となった中部電力が送配電事業を分社化して誕生。愛知、岐阜、三重、長野各県と静岡県富士川以西の地域(一部を除く)に、電力をくまなく安定的に供給している。特別高圧受変電設備を持つ法人を対象としたコンサルティングには、電力会社として長年培ってきた電力設備の保守に関する技術やノウハウを生かす形で、新事業として乗り出した。
一方、トキ鉄は北陸新幹線開業に伴い、JR東日本から信越線直江津―妙高高原間、JR西日本から北陸線直江津―市振間をそれぞれ継承。信越線区間を妙高はねうまライン(営業キロ37・7㌔)、北陸線区間を日本海ひすいライン(同59・3㌔)として15年に開業した。
その後、信越、北陸線の電化開業とともに運用されている変電所設備は、前回更新から25年以上が経過し、更新時期を迎えることになる。トキ鉄では、同設備の機能を維持しながら更新コストを極力抑えようとさまざまな検討を重ねる中で、電力のプロフェッショナルである中部電力パワーグリッドのコンサル事業に着目。全8カ所の変電所について、10年にわたる更新計画の策定や部分更新手法の検討を21年度に依頼した。
これを受け、中部電力パワーグリッドは設備の運転状況や機器の劣化具合を現地調査。それを基に、変圧器や整流器、断路器、配電盤など各構成機器の適切な更新周期を設定した。続いて、変電所個別の事情を考慮しながら各所のカルテを作成し、全箇所の更新計画としてまとめ上げた。
同計画に基づき、まず1カ所の変電所で部分更新手法を具体的に検討。撤去、新設する機器を洗い出し、き電停止に合わせた工程を編成して費用を積算した。費用は、設備の一括更新と部分更新の場合を項目ごとに比較。部分更新によるコスト圧縮の効果を数値で提示した。
トキ鉄ではこれをベースに、残る7カ所の変電所も同様にコンサルを依頼。中部電力パワーグリッドは箇所ごとの部分更新手法の検討と費用算定に順次取り掛かり、22年度の1年間でコンサルの実施内容を編成した。
これに加え、先行する1カ所の変電所での設備更新では、トキ鉄と工事会社が行う工事の保安管理、施工管理に関する技術サポートを中部電力パワーグリッドが実施している。管理手法や関連書類確認の留意点のほか、ウエアラブルカメラを用いた現場管理、立ち会いについて、豊富なノウハウでアドバイス。ほかにも、さまざまな変電設備の劣化診断では、変圧器や整流器の容量最適化を提案した。
中部電力パワーグリッドでは、自社の送配電供給エリアに限らず、特別高圧受変電設備のコンサル、技術サポートを全国で展開している。それぞれの鉄道事業者の実情や方針に即して、蓄積された多様な調査実績と技術力を背景に、インフラ事業者として共に課題解決を図っていく。
■ユーザーに聞く
えちごトキめき鉄道 鳥塚亮社長
〝セカンドオピニオン〟に期待
――中部電力パワーグリッドのコンサルに期待したのはどのような点でしょうか。
鳥塚 変電所の更新工事は多額の費用がかかります。整備新幹線計画の並行在来線区間でJR貨物の貨物列車が走行しますから、国の貨物調整金制度による支援はあります。しかし、工事費用は一度に支出する一方で、調整金は減価償却に応じて毎年分割して支払われるため、差額分の一時的な負担を出資者の地元自治体にお願いしなければなりません。
工事会社は競争入札で、妥当性のある見積書を提示するものの、地元議会の納得を得るという意味では、この地域の電力会社ではない第三者の立場で、専門のコンサルから意見をいただける点が大きいと思います。見積書の整合性やコストの比較などをロジカルな見解で示していただき、透明性を確保する上でもいわゆるセカンドオピニオンのような存在です。
――コンサルを依頼して、これまでをどのように捉えていますか。
鳥塚 結果として、地域が納得して支援が得られ、全ての変電所の更新計画が成立したのは非常に大きな効果です。できるだけ税金を使わないように、まだ使える設備と予防的措置で変えた方がよい設備について、的確なアドバイスをいただきました。
また、当初の目的とは別に派生したのですが、若手社員の育成の一環として、中部電力パワーグリッドのプロフェッショナルな社員の方々に設備の健全性の判断や根拠などについて指導していただき、経験を積んで技術を身につけてもらう取り組みは大きな収穫でした。
――コンサルを活用して、電力設備の今後の維持管理はどのような方針で取り組んでいくお考えですか。
鳥塚 次は架線柱や隧道(ずいどう)内のブラケットなどの取り替えです。一斉更新を順次実施するか、必要な部分だけを行うかは効率性の課題が残っています。積雪の影響で冬期に工事ができず、施工会社の作業員の高齢化が進んでいるなど、別の課題もあります。変電所以外の設備更新でも、行政支出を伴うことを考えると、今後もいろいろとコンサル企業を活用していく必要があると感じています。
他方で、昨日までやってきた通りに明日も続けていくのかということも考えていかなければなりません。平坦な他の地域では蓄電池駆動電車などの新たな方式も登場しています。豪雪地帯、勾配線区という当社の事情を踏まえると、10年ほどは様子見するしかないでしょうが、広い視野で捉えていくことが大切です。
■中部電力パワーグリッド
取締役・副社長執行役員エンジニアリングセンター所長 太田啓雅
お客さまにマッチした保全方法、コスト低減へ
――コンサル事業の強みや重視している点は。
太田 長年にわたり送電線や変電所などの運用、保守を行う中で、一律で定期的に実施してきた保全から、変圧器や遮断器などの機器の使われ方や劣化状況に応じてメンテナンスを最適化する状態監視保全へ舵を切りました。劣化状況を見極める診断方法や、延命化技術を継続的に開発。最近では電力供給を停止せず、リアルタイムで状態を監視するIoT診断を開発・導入し、設備故障の未然防止を図っています。培ってきた技や知見に基づく劣化診断と機能回復などの実践知が当社の強みです。
設備の使用状況はもとより、今後に向けたお考えなど、実態をつかむことに重点を置き、お客さまにマッチした保全方法やコスト低減につながるご提案をしています。
――トキ鉄でのコンサル実績の手応えは。
太田 変電所などの現場で意見交換をすると、日頃の当社の取り組みが有用であることに気づかされます。また、受変電設備に関する診断方法や延命化方策などの保全に関する幅広いご質問もいただきます。それが新たな方策へつながる気づきとなり、研究や開発に拍車が掛かるため、大変ありがたく感じています。
――コンサルの活用を検討する鉄道事業者にメッセージをお願いします。
太田 インフラ事業者として絶え間なく使命を果たす意味では共通する部分が多く、当社の知見やノウハウを最大限活用できると考えています。保全に対する省力化や更新工期の短縮、延命化など、投資削減や設備の信頼性向上に貢献します。送電、変電、配電設備の更新の最適化に向けて、さまざまな課題解決に協力させていただきたく、まずはお困りごとなどをお問い合わせください。
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