南海トラフ地震臨時情報 宿泊キャンセル多発 観光に影響、運用に課題 「書き入れ時戻ってこない」
南海トラフ地震臨時情報が初めて発表され、夏休み、お盆休みの真っただ中の観光産業に大きな影響を及ぼした。広範な地域で旅館・ホテルの宿泊キャンセル、イベントの中止・延期などが発生した。発表から1週間後の15日に注意の呼び掛けは終了したが、書き入れ時の損失は戻ってこない。臨時情報の発表に際して、観光・旅行をはじめ、社会経済活動への影響をいかに抑制するか、損失をいかに補うのか、防災対応の重要性の一方で、今後の制度運用には課題が残った。
8日午後4時43分、宮崎県日向灘を震源とするマグニチュード7・1、最大震度6弱の地震が発生。気象庁は8日午後7時15分、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっているとして、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した。
政府は臨時情報の発表に伴い、国民や自治体に地震への備えの再確認などを求めた。他方で、社会経済活動の継続も要請。岸田文雄首相は9日の記者会見で、「夏休みに伴う旅行、帰省なども含めて、日常の生活における社会経済活動を継続しつつも、地震への備えを再確認し、地震が万が一発生した場合には、直ちに避難できるような体制をお願いしたい」と述べた。
南海トラフ地震臨時情報が発表された場合の自治体や企業などの対応は、ガイドラインなどに手順が示されているが、実際の運用は初めて。南海トラフ地震防災対策推進地域は29都道府県707市町村という広範囲に及んでおり、観光や帰省を計画していた一部の旅行者の間には戸惑いや不安が広がったとみられる。
宮崎県では、地震の発生に加えて臨時情報が発表されたことで、旅館・ホテルの宿泊キャンセルが拡大した。地震による施設への被害は限定的だが、宮崎県旅館ホテル生活衛生同業組合の調査では、15日までの集計分だけで、約130施設の宿泊キャンセルが延べ1万9千人に上った。
宿泊キャンセルについて、宮崎市の青島グランドホテルの冨森信作社長は「キャンセルはすさまじい勢いで入ってきた。地震の発生、臨時情報の発表で2段階で拡大した。初めてのケースで臨時情報がどういうものか、十分に浸透しておらず、不安にかられた方も多かったのではないか」と指摘。「通常通り営業していること、防災対策に万全を期していることを発信しているが、影響が長引くことを心配している。国などには、クーポン発行や金融対策などの支援を検討してもらいたい」と語った。
臨時情報の影響は、四国や近畿にも広がった。高知県旅館ホテル生活衛生同業組合の調査では、13日時点、70施設の回答分だけで宿泊キャンセルが9456人、損失額は1億4346万円と推計。愛媛県松山市の道後温泉旅館協同組合の調査では、15日時点、加盟33軒のうち約半数の回答だけで宿泊キャンセルが765人、最終的には千人を超える見通しだ。和歌山県内では一時、特急列車の運休や海水浴場の閉鎖などがあり、宿泊キャンセルが発生した。
観光への影響、臨時情報の発表について、和歌山市の大阪屋ひいなの湯の利光伸彦社長は「『南海』と言うと、紀伊半島をイメージする人が多いようだ。当館は小規模施設だが、団体を含めてキャンセルがあり、影響は大きい。海に近い立地で夏休みは書き入れ時だが、例年になく、空室も出ている。損失は補填(ほてん)されず、お盆は帰ってこない。人命には代えられないが、冷静さを求める情報の発信も必要ではないか」と指摘した。
南海トラフ地震臨時情報の発表に際して政府は、旅行などを含め、社会経済活動の継続を呼び掛けたが、各地で旅行控えが見られた。臨時情報は今後も発表される可能性がある。政府、自治体には制度運用の向上、メディアには情報発信の工夫を期待したい。制度運用では、防災対応の充実とともに、観光産業の経済的な損失を補う仕組みなども検討してほしい。
【記事提供・観光経済新聞kankokeizai.com】
本社テーマは「観光立国の実現は地方(地域)から」
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