特集 首都圏民鉄の非接触・非対面サービス コロナ禍を経て誕生 ロッカー活用の駅配送 無人店舗
2020年から続いた新型コロナウイルス感染拡大による経済停滞、その回復の途上で、人口減少と高齢化に伴う労働力不足などの問題も明瞭になってきた。こうした昨今の情勢の中で誕生し、社会経済活動が戻ってきた現在、定着し始めたサービスもある。首都圏大手民鉄で、駅ロッカーへの配送サービスを行う西武ホールディングス(HD)と京王電鉄、無人店舗の展開を見据える相鉄グループ、東京地下鉄(東京メトロ)の取り組みを紹介する。(鴻田 恭子記者)
■ロッカー活用の駅配送
西武HD
物流ハブとしても再構築
会員8000人、リピーター増加中
ロッカーを活用した駅配送サービスについては、西武HDが21年2月から、スマートロッカーの製造・運営を手掛けるSPACER(スペースアール、東京都中央区)との協業でスタート。オンライン注文商品を西武鉄道駅構内のスマートロッカーで受け取るサービス「BOPISTA(ボピスタ)」として実証実験を行っている。SPACERは今年、阪急電鉄やJR西日本とも同種のサービスを開始した。
西武HDの背景にあったのは、コロナ禍による鉄道利用、運輸収入の減少だ。売り上げ確保のため、社内のチームで検討する中で出てきたのが、人流のハブである駅を物流のハブとしても再構築するという発想だった。
SPACERと組んだのは、同社が「物流革命」を掲げ、その手段としてロッカー事業を展開していたため。西武側も物流における環境負荷軽減の模索や再配達削減による配送負荷低減を掲げており、目指す方向性がマッチしていた。
最短3時間
利用は専用サイトで商品選定、受け取り駅、日時を指定。商品が届くとLINEに通知が届き、専用アプリで鍵を開ける。受け取りは最短で約3時間、商品はニーズ調査のため適宜入れ替えており、現在は会員制大規模スーパー「コストコ」の食品や日用品などが中心。コストコの会員登録なしに商品を購入できる。
18駅2施設に
ロッカーは18駅と都内2施設に設置。会員約8000人でリピーターも増えている。実証の一環で、バレンタイン商品や花見のオードブル、プロ野球・埼玉西武ライオンズ応援グッズなども期間限定で販売した。今月からは、靴・かばん修理のユニオンワークス(東京都渋谷区)とも連携、出勤時にロッカーに品物を預け、修理後に受け取るサービスも予定する。
京王
「鉄道を使った輸送」推進
付加価値の高い商品を提供
京王は22年8月にLINE上に専用ECモールを立ち上げ、販売商品を駅ロッカーに配送する「トレくる by KEIO」の実証を開始。同社は21年7月から、グループの高速バスで特産品を都内に運んで販売する貨客混載を始め、一部区間の鉄道利用も行ってきた。11月からは駅に設置したボックスでレンタル商品・EC商品の返却・返品を受け、鉄道を活用して集荷するサービスも始めるなど、自社グループで「鉄道を使った輸送」を推進してきた背景があった。
当日配送も可
トレくるは、当日配送と付加価値の高い商品提供、非対面受け取りの3点を踏まえ、ECモールの商品を鉄道で配送することで、非対面で自由な時間に受け取れるものとした。京王百貨店や京王プラザホテルなどグループの店舗、商品に加え、富澤商店、京王電鉄沿線の飲食店などが出店。ロッカーは6駅にあり、10時までの注文で最短当日16時ごろまでに配送される。
大学と連携
現在、商品数拡大と認知度向上に向け、同社と昭和女子大学による「〝女子大生が恋する!〟井の頭線プロジェクト」の一環で、 東京・下北沢の人気カレー店の商品を販売中。車内で放映するPR動画なども学生が主体となって制作している。こうした活動もあり、 スイーツなどのほか、カレーなど当日食べられる商品の注文も増えている。
2社ともLINE活用
2社のサービスはいずれもLINEを活用。BOPISTAはロッカーの鍵を開けるための専用アプリのダウンロードも必要だ。また、商品やロッカーごとに300円前後の手数料もかかる。
現在、西武は実証実験第4弾を12月中旬まで実施中で、来年の本格展開を目指している。同社は「ロッカーを一つの店舗のように使いたい。預かりや受け取りなど、回転率を上げて使えるようになれば」としている。
京王では商品の拡充とともに、サービスやロッカーでの受け取りの認知度向上を図っている。沿線飲食店との連携により、沿線価値向上にもつなげていく。
■無人店舗
相鉄
開業3カ月、堅調に推移
アイテム数追加、一般立地も検討
休憩室に設置
無人店舗については今年6月、相鉄ステーションリテールとファミリーマートが「ファミリーマートニュウマン横浜/S店」をオープンした。JR東日本グループのルミネが運営する「ニュウマン横浜」の従業員休憩室にあるため、ニュウマン横浜、シァル横浜の従業員以外は利用できない。相鉄ステーションリテール運営なのは、同社店舗のサテライト店という位置付けのためだ。
読み取り不要
システムは「TOUCH TO GO」(東京都港区)のものを使用。天井に設置したカメラと商品近くに設置したセンサーで入店者が手に取った商品をチェックする。商品は出口付近のディスプレーに表示されるため、入店者は内容を確認して決済端末で購入。バーコード読み取り不要でレジの滞留が少ないのが強みだ。補充は通常の店舗同様スタッフが対応する。
開業から3カ月が過ぎ、女性従業員によるカップスープやチルド飲料の購入などを中心に定着し、売り上げも堅調とのこと。
ただ、店内が約22平方㍍とコンパクトでアイテム数が限られることから、今月以降センサーを小サイズに変更、アイテム数約450種に約50種類を追加して、よりニーズに合う品ぞろえとし、さらなる売り上げ増を図る方針。ファミリーマート本部との交渉を通じ、一般の人が利用できる立地での展開も目指していく。
東京メトロ
持続可能な書店モデル検証
エリアニーズに合った店舗展開
日販が申し入れ
東京メトロも先月、メトロプロパティーズ、日本出版販売とともに、完全無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」を実証開業した。場所は銀座線・南北線溜池山王駅改札外。メトロの各駅の駅名を冠した駅構内小規模商業施設「メトロピア」の中の1店舗という位置付けだ。
メトロピア運営のメトロプロパティーズはもともと、「溜池山王エリアはビジネス街で書籍の需要が見込めるが、書店が少ない」として、書店誘致を検討。書店への声掛けを行う中で、書籍流通を担う日販のアプローチを受けた。日販は町の書店が出版不況と人件費高騰、後継者問題などで姿を消す中、持続可能な新たな書店モデルをつくり、広げていくことを計画。小型で人通りの多い駅構内立地に着目した。
店舗は約50平方㍍の小型店舗とし賃料を抑制、書籍の補充や入れ替えは平日朝7時の開店前に日販が行う。立地に合わせた売れ筋や新刊など雑誌・書籍約300種と文具の扱いとし、ライトユーザーが本との出合いを楽しめる品ぞろえとした。
遠隔接客で対応
LINE活用の会員証で入退店を管理。決済は書籍バーコード読み取りのレジでのキャッシュレス対応とした。問い合わせは日販社員による遠隔接客で、セキュリティー面は入退店の管理や遠隔対応のほか、低めの棚で見通しを良くし、複数台の監視カメラと警備会社連絡用の警備システムを設置した。現在は1店舗だが、遠隔接客により店舗が増えても少人数で管理できる格好だ。
東京メトロではエリアのニーズに合った店舗展開を進めており、今回の無人書店はその一環。今回の出店に関し「普段なかなか書店に行けない方を含め、ぜひ利用を」としている。
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