交通新聞社 電子版

特集 京急「newcalプロジェクト」始動

2024.04.09
川崎コクーンの地域拠点「パークライン870」(京浜急行電鉄提供)

 エリアマネジメント構想深度化 起点となった「コクーン」

 沿線価値共創戦略に基づき名称など刷新

 新しいローカルのあり方を発見、発信

 京浜急行電鉄は3月、沿線エリアマネジメント構想「newcal(ニューカル)プロジェクト」を始動した。従来のエリアマネジメント活動「COCOON(コクーン)」を刷新、「新しい(new)ローカル(cal)のあり方」を地域と一緒に生み出す取り組みだ。移動と地域の魅力づくりの相互価値共創をビジネスモデルの中心に据え、沿線の各エリアに「移動+住む・働く・楽しむ・学ぶ」がそろう中核拠点が連なる「多極型まちづくり」を目指す。(鴻田 恭子記者)

 

 起点となったコクーンの取り組みは、2016年ごろに開始された。京急は同年秋、神奈川県三浦エリアの再生を掲げて本社に三浦半島事業開発部を設置。若手社員の勉強会、東京大学とのワークショップなどを重ねる中、18年に地域と連携して三浦半島での過ごし方を提案するイベントが開かれた。この企画名が「三浦Cocoon」だった。

 20年にはscheme verge(スキームヴァージ)社(東京都文京区)が京急のアクセラレータープログラムに参加。三浦半島の情報を集約した観光プラットフォームを作り、京急の担当者とブラッシュアップを行う中で、これを三浦コクーンと命名。地元観光事業者・自治体など60団体によるコミュニティー「Cocoon Family(コクーンファミリー)」を立ち上げ、コンテンツ集約・データ連携のプラットフォームと合わせ、事業者を緩やかに組織化する提案を行った。

 この仕組みは同年秋、京急の観光型MaaS(マース)「三浦Cocoon」としてサービス開始、翌年には予約決済機能も追加された。三浦コクーンの名称も単にMaaSを指すのではなく、エリアマネジメント組織による地域課題解決の取り組みそのものとなった。22年以降、コクーンの対象エリアはおおた(東京都大田区など)、横浜(横浜市中区、南区)、川崎(川崎市)、かなざわ(横浜市金沢区)に拡大している。

 京急では、2024年度からの中期経営計画を見据え、「沿線価値共創戦略」を策定。これは、移動サービスを提供する「移動プラットフォーム」と地域の魅力づくりを行う「まち創造プラットフォーム」の相互価値共創をビジネスモデルの中心とし、沿線各エリアに「移動+住む・働く・楽しむ・学ぶ」がそろう中核拠点が複数存在する「多極型まちづくり」を目指すものだ。

 ニューカルへの刷新は、この戦略に伴うもの。地区ごとの名称を「三浦newcal」などに、参画団体の総称も「newcal family」にそれぞれ変更した。三浦半島で育ったコクーン(繭〈まゆ〉)が沿線へと広がり、各地でnew culture(新しい文化)を生み出す思いを込めた。

 プロジェクトでは、地域の個別の活動をつなぎ、続ける仕組みを作ることを重視。エリアごとに生活圏の充実を目指すローカライズをリアルで、MaaSやモビリティー基盤、予約決済基盤など共通基盤整備をデジタルで進め、これらを融合したまちづくりを進めていく。

 担当する新しい価値共創室エリアマネジメント推進担当の佐々木忠弘課長は「弊社沿線はエリアごとに課題が全く違う。三浦半島なら人口減少と観光活性化、大田区ならものづくりと臨海部活性化、川崎ならこれからのハード開発と並行するコミュニティーづくりなどが課題で、他のエリアの取り組みがそのまま生かせるわけではないからこそ、ローカライズが必要になる。一方でデジタルやモビリティーに関しては他のエリアでも展開できる」と話す。実際、モビリティーについてはキックボードが三浦から、シェアサイクルが横浜からそれぞれ他地域に広がっている。

活動内容も整理

 活動内容も改めて整理、地域との連携を具体化する四つの共創活動を▽組織化▽地域拠点整備▽MaaS整備▽モビリティー整備――とした。組織化はニューカルファミリーによる地域課題解決や、23年5月に立ち上げた京急沿線子育て応援ネットワーク「Weavee(ウィービー)」のママクリエーターによる情報交換、地域ビジネス創出などの取り組みがある。

 ニューカルファミリーは3月時点で地域事業者、自治体・観光協会、大学・教育機関、サポート企業、さらに京急の「みさきまぐろきっぷ」「葉山女子旅きっぷ」加盟店など343団体。ウィービーは28団体で組織している。

 地域拠点整備は、地域に開かれた交流拠点をニューカルスポットとして整備するもの。22年夏に再開発までの期間限定(今月末まで)で設置した平和島駅前の拠点が地域の自然発生的なにぎわい創出、まちづくりの担い手の発掘・育成などにつながったことから、他エリアにも拡大。川崎では八丁畷駅前に「Park Line 870(パークラインはっちょう)」を設け、ビアフェスなどのイベントを共催した。京急では黄金町ロックカク(横浜)など、既存施設も改めて地域拠点として位置付けている。

 MaaSでは各エリアの地域情報サイトを展開。トップページから三浦、かなざわ、横浜、川崎、おおたの各ニューカルサイトをタブで回遊でき、おすすめスポットの紹介や予約・決済、デジタル企画きっぷの決済などもできるようにした。経路検索は鉄道、バスの乗り換えのほか、レンタカー・レンタサイクルなども対応。登録会員数は現在13万人、26年度に20万人が目標だ。

 モビリティーについては事業拠点を共同で開設。カーシェアやシェアサイクル、電動キックボードなど移動手段の貸し出し拠点のほか、荷物の預かり拠点や駐車場(シェア用地)なども場所確保のため共同で声掛けしている。現在の拠点は92カ所、26年度150拠点を目指す。24年度は新たに品川(東京都品川区など)、上大岡(横浜市港南区、磯子区など)のニューカルのスタートも予定する。

「EaaS」構築

 同社では将来像として、デジタル基盤を活用し、地域の移動やサービスを一元化して沿線全体を1つのサービスにする「EaaS(イアース、沿線 as a Service)」の構築を打ち出している。

 

 ■newcal PJ

 まちづくり情報配信サイト

 もたらした効果など紹介

 京急ではニューカル始動に当たり、まちづくり情報配信サイト「newcal PJ(ニューカルピージェイ)」を開設。こちらは、ニューカルプロジェクトについて、柔らかい筆致やイラストを交えて紹介。各エリアの拠点整備やエリアマネジメント活動のレポート、活動がもたらしたまちづくりへの効果、ニューカルファミリーやウィービーメンバーへのインタビューなどを発信している。

 サイトデザイン・ディレクションは沿線の横須賀市で老舗飲食店の事業を承継しつつブランドプロデュース業などを手掛けるストラテ(横浜市)代表の簗瀬大輔氏が担当。サイトの運用はウィービーメンバーのクリエーター、ライターらによる。

 「まちづくりの中で、一つ一つの活動にどういう意味があったかを、ウィービーで活動する方に書いてもらっている。同業者など街づくりに関わる関係者の方に見てほしい」(佐々木課長)

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