墨滴 2月2日付
今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の放映に合わせ、主人公・紫式部ゆかりの地である大津市が地域活性化に積極的に取り組んでいる。1月29日には同市の石山寺境内に大河ドラマ館がオープン。JR西日本のラッピング列車の運行も始まった▼同寺は奈良時代に聖武天皇の発願によって開かれ、平安時代には貴族らが盛んに「石山詣」を行った。中宮彰子から新たな物語の執筆を命じられた紫式部は、執筆祈願のために7日間、同寺にこもったという。本堂の「源氏の間」は式部が物語を起筆した部屋と伝わる▼市内の三井寺は、主人公と密接にかかわる藤原道長が厚く信仰した。1月末からは総本山三井寺所蔵「紫式部関係文書特別展」が始まり、寺門伝法灌頂血脈譜、源氏物語湖月抄など6点を初公開している▼交通の要所として栄えた「逢坂の関」は、源氏物語で光源氏と空蝉が偶然すれ違うシーンとして登場する。比叡山延暦寺の法華堂は4帖「夕顔」の舞台で、夕顔の死を悼んだ光源氏が四十九日の法要を行った。同寺の横川中堂・恵心堂は53帖「手習」、54帖「夢浮橋」の舞台だ▼すなわち、紫式部はこれらの現地を実際に訪れ、王朝文学の最高峰ともいわれる源氏物語の執筆に生かしたのであろう。千年以上も前と同じ舞台に、現代の人間が立てる不思議さ。改めて滋賀・大津の魅力をじっくりと味わいたい。
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