東京メトロ・ヤマハ 「みえるアナウンス」試験導入 7駅で利用状況など検証
進む「UD」化
ユニバーサルデザイン(UD)という言葉の広まりとともに、国籍や障がい、年齢などに関わらず「誰もが使いやすいサービス」が浸透してきている。点状ブロックやホームドア、エレベーターなどの設置や段差の解消などに加え、近年は訪日外国人観光客の増加に対応し、言語の壁を意識したツールが登場。東京地下鉄(東京メトロ)とヤマハでは10日から、専用アプリを使わずに駅構内で流れるアナウンスを個人のスマートフォン上で文字化できる多言語の「みえるアナウンス」を試験導入した。(鴻田 恭子記者)
ヤマハは音に関する事業を展開する会社として、増加する訪日客や、音声の聞き取りがしにくい高齢者、聴覚障がい者の人たちに向け、「SoundUD(音のユニバーサルデザイン)」化を展開している。現在、鉄道会社で使われている主な機能は、専用アプリの入ったタブレット端末などと駅構内などの放送用の機器を接続し、外国語で放送ができる事業者向けの「おもてなしガイド for Biz」や、個人のスマホ上で放送内容を見ることができる「おもてなしガイド」、スマートフォンをかざすだけで係員とつながる「スマホでインターホン」などがある。
「おもてなしガイド for Biz」では、登録済みの文章をベースに、時間や路線名、駅名、番線名などを組み合わせて多言語放送をすることができる。このため、駅係員の放送の手間の軽減、訪日客からの問い合わせ対応の軽減などにつながる。「おもてなしガイド」は、「おもてなしガイド for Biz」などで放送されたアナウンスを、専用アプリを立ち上げたスマホに〝聞かせる〟ことで、言語の制限はあるものの日本語、英語など自分が使う文字で表示できるものだ。
「スマホでインターホン」は、「おもてなしガイド」のインターホンサービス。トリガーボードと呼ばれる貼り付け式の小さなボードにかざしたり、ボードに併記されたQRコードを読み取ったりして画面上で操作することで、係員と自動翻訳機能なども用いてやり取りができる。
アナウンス機能に関しては東急電鉄や西武鉄道、相模鉄道などで、インターホン機能に関してはJR西日本やJR東海、京浜急行電鉄、小田急電鉄などでも使用。京急では、アナウンス機能からインターホン機能へと移行。駅ホームなどにトリガーボードを設置し、ホームなどから駅事務室の係員に対し、問い合わせができるようにしているという。インターホン機能は、JR東海が昨年11月に開始したグリーン車の利用客が困りごとなどの際に乗務員を呼び出して尋ねられる「東海道新幹線サポートコールサービス」などにも使われている。
今回、東京メトロで試験導入したのは「おもてなしガイド for Biz」と組み合わせて使える「みえるアナウンス」だ。これは、トリガーとなる音声信号を埋め込んだ日本語の放送を流すことで、必要な情報をスマートフォンなどに文字で表示できるサービス。「おもてなしガイド」での表示には専用アプリなどが必要だったが、今回の東京メトロの実証では、「スマホでインターホン」同様に設置したトリガーボードを用い、日本語のアナウンス内容をアプリなしで日本語、英語、中国語、韓国語で文字表示できるようにした。
「おもてなしガイド」での情報取得は、アナウンスが流れている時に当該アナウンスの内容のみを取得するが、「みえるアナウンス」では、ある程度の情報を一括で取得できる点もメリットとなっている。
駅は上野、浅草、銀座、新大塚、綾瀬、東池袋、江戸川橋の7駅計46カ所。あわせて、「おもてなしガイド for Biz」での放送を全駅(他社管理委託駅を除く171駅)で開始している。ヤマハではアプリ不要の今回のシステムを、交通機関だけでなく商業施設や宿泊施設など、さまざまな施設に拡大していきたいとしている。
訪日客向けの案内という点に関しては、昨年11月から西武鉄道がTOPPANグループ開発の翻訳対応透明ディスプレー「VoiceBizUCDisplay」を本格導入している。こちらは西武新宿駅特急券売り場横の「外国のお客さまご案内窓口」に設置。利用客に使用言語を選択してボタンをタップしてもらった上でディスプレー越しに会話をすると、話した内容が利用客側には選択した外国語、駅係員側には日本語で表示される。
現在の利用は1日に20件ほど。ディスプレーが透明で相手の表情を確認しながら対話でき、操作方法も分かりやすいこと、詳細な説明もしやすいことなどが駅係員からも好評だ。窓口開設は7~20時、言語は日本語のほか、英語、韓国語、中国語、インドネシア語、タイ語、スペイン語、フランス語など日本語を含め12言語に対応している。
利用状況、課題を総合的に判断
◇北川敬幸東京メトロ鉄道本部営業部旅客課統括事務係の話
東京メトロでは地下鉄を分かりやすく快適にご利用いただくため、新たな情報提供の方法を考えていた。多言語での放送のシステムを入れ替えるにあたり、今回のシステムが駅構内アナウンスを音声情報だけでなく文字情報でも提供できる画期的なものであることから、導入を決めた。特に訪日外国人のお客さまや聴覚障がいのあるお客さまに役に立つと思う。
異常時の情報提供に関しては現状、電光掲示板のテロップや急告板で出してはいるが、情報が伝わるまでのスピードの面では、やはり駅構内アナウンスでの情報提供になる。そのため、訪日外国人の方や聴覚障がいのある方への情報提供は遅れてしまっていた。試験導入という形で一定期間、お客さまの声や利用状況、駅係員のオペレーション上の課題などを総合的に判断し、検討していきたい。
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