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特集 〝古き良き 鉄道の旅〟へ ~埼玉・秩父鉄道を訪ねて~

2024.08.01
三峰口駅構内「SL転車台公園」ではC58363号機の方向転換を行う。SL乗客の多くが見学に訪れる

 製造から80年 「C58 363号機」

 都心から一番近いSL

 ■東北エリアで活躍

 埼玉県の秩父鉄道「SLパレオエクスプレス」をけん引する蒸気機関車「C58 363号機」が今年2月に製造から80周年を迎えた。〝傘寿SL〟ではJR東日本「D51 498号機」、JR西日本「C57 1号機」などが有名だが、秩父のC58も負けず劣らず、土休日を中心に旅客輸送の任に当たり、観光客に〝古き良き鉄道の旅〟を提供している。秩父鉄道では「都心から一番近い蒸気機関車」としてアピールする。

 愛称は「シゴハチ サンロクサン」で、C58シリーズとして363番目に製造された。秩父鉄道によると、C58は1938年から47年にかけて427両が製造されたそうだ。

 363号機は44年2月に新製された後、旧国鉄の山田線盛岡―釜石間、仙山線仙台―山形間、石巻線小牛田―女川間、陸羽東線小牛田―新庄間、磐越西線郡山―新潟間、陸羽西線新庄―酒田間で活躍。72年10月の引退後は埼玉県の吹上町立吹上小学校(現・鴻巣市立吹上小学校)の校庭で静態保存された。走行キロは105万4826㌔におよんだ。

 転機が訪れたのは、88年3月19日から5月29日まで埼玉県熊谷市内で開催された「さいたま博覧会」だった。

 地元からの要請を受けたもので、博覧会の話題づくりと観客輸送を担うため87年に車籍を復活、88年3月に熊谷―三峰口間(56・8㌔)の「SLパレオエクスプレス」として運行を開始した。同年12月にはJR東日本のD51498号機が運転を再開しており、その後の東日本エリアにおけるSLブームの火付け役ともなった。

 列車名となった「パレオ」は、2000万年ほど前の秩父地方に生息していたとされる海獣「パレオパラドキシア」から。秩父鉄道ではオリジナルキャラクター「パレオくん&パレナちゃん」を製作し、記念グッズとして販売する。

 

 ■往復運行3000回超

 運転日は3~11月の土曜日・休日中心で、「SLパレオエクスプレス」35周年の2023年8月には熊谷―三峰口間の往復運行回数が3000回に達した。累計乗車人員は約187万人(23年7月末現在)。

 復活当時から1999年まで旧型客車をけん引していたが、2000年から12系客車(4両)に変更、同区間を片道約2時間40分で結ぶ。熊谷発10時15分、三峰口発14時5分。

 車内放送では、秩父市出身の人気落語家・林家たい平さんが沿線の見どころを軽妙な語り口で紹介する。

 今年4月にはJR東日本高崎支社の協力を得て旧型客車での運行を25年ぶりに復活させ、鉄道ファンから熱い視線を浴びた。

 

 ■多彩な装飾で魅力付け

 秩父鉄道では、鉄道開業、SL製造周年、平成から令和への改元時などに、特製ヘッドマークや黒、赤、青、緑、紫色のナンバープレート、門鉄デフ、後藤デフといった除煙板(デフレクター)を装着して、〝撮り鉄〟向けサービスを提供する。

 24年の運転初日には「SLファーストラン号」と銘打って日章旗を掲揚。地域イベント、各種キャンペーンなどに合わせた特製ヘッドマークも製作する。

 

 ■スタンプラリー

 C58363号機の製造80周年を記念した「SLスタンプラリー」を開催している。11月17日まで。

 熊谷、ふかや花園、寄居、長瀞、秩父、御花畑、三峰口の各駅とSL車内、指定イベント会場にスタンプを設置し、スタンプを三つ集めると全員に「SLオリジナルステッカー3枚セット」を進呈。全スタンプで「SLオリジナル折り畳み傘(晴雨兼用)」(抽選で58人)、W賞としてコンプリート応募者全員に「SL前面展望動画」視聴権をプレゼントする。

 また、秩父鉄道とJR東日本高崎支社による埼玉県深谷市出身の実業家・渋沢栄一の肖像画があしらわれた新1万円札の発行を記念した「渋い鉄道スタンプラリー」も8月31日まで開催中。

 

 ■絶景! 長瀞の岩畳

 隆起した結晶片岩が畳を敷き詰めたかのように広がる〝地球の神秘〟を感じる絶景ポイント。荒川上流部分にあたり、親鼻橋から高砂橋までの両岸が国指定の名勝・天然記念物に指定されている。秩父鉄道直営の川下り「長瀞ラインくだり」は観光客に人気だ。

 渋沢栄一は「長瀞は天下の勝地・寳登山(ほどさん)は千古の霊場」とたたえたという。長瀞駅下車。

 

 ■あやかりたい…パワースポット

 ❖寳登山神社

 火災除・盗難除・諸難除の守護神。江戸時代末期から明治初頭に造り替えられた本殿、幣殿、拝殿から成る権現(ごんげん)造りの社殿が特徴。欄間には「二十四孝」をはじめとする多くの彫刻が刻まれている。長瀞駅下車。

 ❖秩父神社

 現在の社殿は1592年に徳川家康が寄進したもので、江戸時代初期の建築様式を今に伝える。埼玉県の有形文化財に指定。京都の祇園祭、飛騨の高山祭と共に「日本三大曳山祭(ひきやままつり)」として知られる「秩父夜祭」は毎年12月2、3日に行われ、多くの人でにぎわう。秩父駅下車。

 ❖三峯神社

 秩父多摩甲斐国立公園内の標高約1100㍍の山中にあり、霊験あらたか。三峰山大縁起によると、日本武尊(やまとたけるのみこと)が伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉册尊(いざなみのみこと)を祀(まつ)ったのが始まりという。三峰口駅下車。

 

 ■特徴ある 沿線各駅

 ・波久礼

 秩父鉄道の創設に尽力した渋沢栄一が支援した駅。周辺の地形が崩れやすく、岩盤が荒川直下の断崖絶壁だったことによる「破崩」(はぐれ)が駅名の由来とか。木造平屋建てのレトロ感ある駅舎、待合室は撮影スポットになっている。

 ・長瀞

 駅正面から延びる参道を進むと、寳登山神社がある。駅前には送迎バス、タクシーの停車場を整備。近くの広場では花見シーズンともなれば歌謡ショーなどのにぎわいイベントが開催される。観光案内所も隣接し、訪日外国人の姿も目立つ。

 ・和銅黒谷

 付近で日本最古の貨幣といわれる「和同開珎(わどうかいちん)」の原料銅が発掘。朝廷に献上された「和銅奉献」から1300年を記念して2008年に駅名を「黒谷」から改称した。ホームには和同開珎のモニュメント、駅近くには「銭神様」と呼ばれる「聖(ひじり)神社」がある。

 ・秩父

 秩父観光の玄関口で、駅・駅ビル機能が一体化した沿線随一の大駅。1階には秩父市地場産業センターが運営し、秩父の地域文化を発信するアンテナショップ「じばさん商店」、2階に「秩父 茶房レストラン 春夏秋冬」などが入る。

 ・御花畑

 西武鉄道西武秩父駅との乗り換え駅。駅構内には直通運転用ルートが構成されており、西武秩父駅からの列車が臨時ホームに入線し、折り返す形で三峰口駅方面に向かう。駅舎は今年、大正ロマン風デザインにリニューアルされた。

 ・三峰口

 下りSLパレオエクスプレスの終着駅で「関東の駅百選」に選定。木造駅舎は、1930年開業当時の面影を残す。駅構内にはC58 363号機の方向転換を行う転車台設備があり、運行日は「SL転車台公園」から見学できる。

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