交通新聞社 電子版

特集 構想から30年を経て、歴史的な開業を迎える「芳賀・宇都宮LRT」

2023.08.24
8月26日に開業を迎える「芳賀・宇都宮LRT」(芳賀・宇都宮LRT 開業記念事業 実行委員会PR 事務局提供)

 宇都宮市は、100年先も発展し続けるまちの姿「NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)」を土台に、「地域共生社会」(社会)、「地域経済循環社会」(経済)、「脱炭素社会」(環境)の3つの社会が、「人」づくりの取り組みや「デジタル」技術の活用によって発展する「夢や希望がかなうまち」を目指して「スーパースマートシティ」の実現を目指しています。2023年8月26日(土)ついに開業する芳賀・宇都宮LRT。宇都宮市が掲げる「スーパースマートシティ」の実現へ向けて歴史的な日を迎えるにあたり、都市計画の専門家である早稲田大学社会環境工学科教授・森本章倫氏、運行を担当する宇都宮ライトレール株式会社の方々、そして地域住民の方々へお話を伺いました。(素材提供・芳賀・宇都宮LRT開業記念事業実行委員会PR事務局)

  

 ◆「芳賀・宇都宮LRT」開業により宇都宮市に起こりうる変化とは?

 早稲田大学社会環境工学科教授・日本都市計画学会会長 森本章倫氏

 宇都宮市独自の概念として進めてきた「スーパースマートシティ」は従来から議論してきたコンパクトシティとスマートシティを融合してできた概念であり、芳賀・宇都宮LRTはコンパクトシティの背骨として機能する交通になります。

 宇都宮市は、中心市街地の衰退や郊外への市街地の展開、人口密度が低下し、歯抜けのような街が出来上がってしまうことを懸念していました。解決策の一つとして、持続可能な街を作るために魅力ある拠点を作り、その拠点同士を結ぶ交通として、LRTを含めた公共交通ネットワークを充実させることが重要です。現状は、公共交通ネットワークがようやく理想の形に向けて一歩目を踏み出した段階です。地域全体の公共交通ネットワークを作るときの背骨として、LRTが機能し始め、それによって、今までバス交通しかなかった宇都宮に初めて軌道系で背骨となるLRTが誕生し、背骨(LRTや幹線バス)と小骨(支線バス)のネットワークが出来上がることに期待が持てます。加えて、その街の土地に大きな影響を与えます。人の住む場所や働く場所が、長い時間をかけて変わり始めることに期待ができ、事実として既にLRT沿線にマンションが出来上がってきています。すると、ネットワーク型コンパクトシティが徐々に形成され始め、それらを支える機能としてLRTが存在するということになります。

 また、日本は戦後からモータリゼーション化が著しく進み、車がないと生活できないような街が多くなってしまいました。車自体は大変便利な乗り物ですが、子供や高齢者にはハードルがあり、環境面でも問題があります。宇都宮市でも車社会が形成されたことにより、自動車依存度が非常に高く、渋滞が大きな問題となっています。そういった意味では、LRTのような公共交通は都市の核となり起爆剤にもなり、日本全体で人口減少という問題を抱えている中で、宇都宮という街が将来に向けて生き残っていくために、車だけしか使えない街ではなく、車や公共交通、自転車も、最終的には歩いて楽しい街というところを目指すべきで、それが街の風格と持続性を担保すると思います。

 LRTは目的ではなく移動手段です。移動した先で何をするか、街中を活性化させて魅力的な市街地を作ることを達成できるかが大きな鍵となってきます。30年前の宇都宮駅周辺はオリオン通りが賑やかで、歩いている人が多く自転車が入れませんでした。ところが現在は閑散としていて空き家やシャッターが目立っています。そこにLRTが開業することで、車以外の移動手段が機能し、大きな渦が出来上がり、街中が、人が動き始めて滞留します。当然人が来て観光収入にもなりますし、インバウンドも捉えることができます。その千載一遇のチャンスを逃してはいけないと思います。

 ◇森本章倫(もりもと・あきのり)氏略歴 1964年(昭和39年)4月、山口県出身。89年早稲田大学大学院卒業。早稲田大学助手、マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員、宇都宮大学助手、助教授、教授などを経て、現在は早稲田大学教授。日本都市計画学会会長、日本交通政策研究会常務理事。博士(工学)。技術士(建設部門)。「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」委員長、「MOVE NEXT UTSUNOMIYA事業推進有識者会議」座長。

 

 ◆事業者としての想い

 「路面電車の神様」が秘めた願い   

 宇都宮ライトレール株式会社常務取締役・安全統括管理者

 中尾正俊さん

 広島電鉄株式会社で43年間の経験を経て、宇都宮ライトレール株式会社にて安全統括管理者として、設計段階から開業準備に携わってきました。昨年の11月17日、試運転を初めて行ったところ、夜中で寒い時期だったにも関わらず、多くのギャラリーの方が来られて拍手で迎え入れてもらいました。そのような方々からの期待も受け、素晴らしい社員に囲まれて、無事に開業を迎えられて感無量です。

 運転士には、お客様を笑顔で迎えて、安全第一で運行に努めるように指導しております。お客様との心の通いを大事にし、皆さんの支援と期待に応えるために優しい心を持って接してほしいと考えております。まちのシンボル、財産となり、住民の皆様が誇りに思う路線になってほしいと願っております。

 

 運転士の育成 トレーナーとして

 宇都宮ライトレール株式会社運輸企画部運輸施設課運輸企画係

 武井宏祐さん

 愛媛県の鉄道会社で車掌や路面電車の運転士として約10年間勤務した後に、千葉県の某テーマパークでの人材育成のプログラム担当を経て、宇都宮ライトレール株式会社へ入社しました。前職の2社での経験を活かし運転士の育成に力を注いでいます。6月の上旬から運転士の訓練を行っていますが、宇都宮市が発展する起爆剤にもなる公共交通機関に携わる責任と、安全を最優先に行動しなければいけない使命感を、日に日に感じております。

 運転士の育成においては、運転の技術に加えて、マニュアルに囚われ過ぎない、お客様のニーズに合わせた接客と、緊急時にはお客様の安全を第一に、自ら考え、行動できるよう指導を心がけております。皆様には是非一度乗車していただき便利で快適な乗り心地と大きな窓だからこそ見える、街の景色を楽しんでいただきたいです。

 

 鉄道好き社員に聞くマニア向け情報  

 宇都宮ライトレール株式会社運輸企画部施設保全課

 岡田貴旨さん

 車両の整備を担う私たちはお客様の命を預かってますので、基本に忠実に見落としがないよう、故障を絶対に起こさないことを意識して3人1チームで整備しております。自分たちで改善を重ねながらマニュアルを作成し、しっかりと電車を送り出せるように心掛けております。

 車内は静かで快適な乗り心地ですが、モーター音が良く聞こえる車両のポイントは、優先席付近のボックスシートです。オススメの撮影ポイントは、宇都宮駅東口と東宿郷の間にある道路と軌道が合流するポイントです。ここからLRTを望遠レンズで抜く街中がボケて良い写真が撮れます。(https://goo.gl/maps/sRFVFQMqYrgUQCNb8)また、有名なポイントですが清陵高校付近からも良い写真が撮れるのでこちらもオススメです。(https://goo.gl/maps/GZSCPv4tn27vQtEC9)

 

 〇芳賀・宇都宮LRTの線路の上を歩くことができる、開業前ならではのプレミアムイベント「ライトラインレールウォーク」が7月29日(土)に開催され、芳賀・宇都宮LRTの開業を間近に控えた市民の方々の声を伺ってみました。

 

 子どもたちが成長した時に交通の選択肢が増えるのは、とても良いことだと思います。(写真右上、成井千尋さん、40代)

 高校生になったらLRTに乗って通学したいです。(写真右下、成井ゆずはちゃん、9歳)

 LRTに乗って映画を見に行くのが楽しみです。(写真左下、成井かんたろうくん、6歳)

 交通の利便性が向上して、住民にとって良い乗り物になってほしいなと思います。(写真左、増渕綸音さん、10代)

 初めて線路の上を歩いて、貴重な体験ができて嬉しいです。LRTの開業によって少しでも渋滞が解消されることを期待しています。(写真右、増渕結さん、20代)

 

 ◆メモ◆

 ◇芳賀・宇都宮LRT

 県都の玄関口・JR宇都宮駅東口から市東部の清原工業団地を経て、隣接する芳賀町の芳賀・高根沢工業団地までの約14.6キロ(軌道=自動車併用約9.4キロ、LRV専用区間約5.1キロ)を結ぶ新線。

 当初は2022年3月開業を計画していたが、用地買収、工事の遅れなどで23年3月からさらに延期していた。公設型上下分離方式。整備主体の市と町が施設を整備・保有。事業運営は官民出資の「宇都宮ライトレール」。愛称は「ライトライン」。

 低床式車両17編成を導入し、運賃収受にはICカードシステム(JR東日本の「地域連携ICカード」)を採用。車両は新潟トランシス製、1編成3連節の低床形で定員は国内最多の160人乗車を可能とした。黄色と黒のツートンカラーが特徴。

 ピーク時間帯は6分間隔、その他の時間帯は10分間隔で運行し、宇都宮駅東口停留場―芳賀・高根沢工業団地停留場間を約44分で結ぶ。運賃は対キロ区間制として、初乗りは150円(6歳以上12歳未満の子どもは80円)。宇都宮駅東口停留場―芳賀・高根沢工業団地停留場間は400円(子ども200円)。

 同市によると、路面電車としては国内で75年ぶりの開業で、路面電車がなかった街にLRTを新設開業するのは国内初めてという。