交通新聞社 電子版

墨滴 3月22日付

2024.03.22

 九州に数ある駅弁の中で好きなものの一つが、肥薩線人吉駅の「栗めし」だ。素朴ながら確かな味とぜいたくに盛られた大粒の栗が食欲をそそり、栗をモチーフにした茶色の容器もかわいい▼今月結果発表されたJR九州主催の第14回「九州駅弁グランプリ」では、全45種類の中から特別審査員賞に選ばれた。表彰式で製造する人吉駅弁やまぐち(熊本県人吉市)代表の富田泰弘さん(35)が喜びを語った▼富田さんは、なんと東京の企業に勤めるサラリーマンと二足のわらじを履く。会社を経営していた祖母が2019年に病気で倒れ、依頼を受けて会社を手伝い始めたが、コロナ禍に加え、20年7月豪雨の被害で肥薩線が不通となり、売り上げは半分以下に。中途半端ではいけないと、会社存続に向けて代表就任を決心した▼ただ、従業員は倍ほども年の離れた超ベテランぞろい。初めは考え方の違いで苦しんだそうだが、対話と丁寧な説明を尽くしながら関係を構築してきた。今なお鉄道が不通のため、駅弁は主に熊本駅などの売店に運ぶ。冷凍販売による全国発送を視野に入れ、商品開発にも力を入れる▼「作り手が変わると、味も変わる。新しく人を入れても存続は簡単ではない」と富田さん。「今後の自分の身の振り方は、作り手をうまく受け継がせられてからかな」と、まだ二足のわらじは続きそうだ。

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