特集 JR九州 人流に頼らない新たな事業 物流不動産事業を推進開発中含め6件
EC(電子商取引)市場の拡大などを背景に、物流施設のニーズが高まる中、JR九州では物流不動産事業を強力に推進。昨年3月の第1号物件取得を手始めに、現在は開発中を含め6件を手掛ける。コロナ禍が大きく影響した〝人流〟に基づくビジネスモデルとは異なる事業として、経営の重要な柱に育てていく考えだ。(松尾 恭明記者)
23年3月1号物件 EC市場拡大など背景
物流不動産事業は、物流施設(倉庫)を賃貸し、テナント収入を得る仕組み。2010年代から参入企業が徐々に増え、市場規模が拡大した。とりわけ、コロナ禍を契機にステイホームでEC市場が急成長し、不動産各社の物流不動産への投資が積極化している。
福岡都市圏の物流不動産市場をみると、九州自動車道福岡インターチェンジ(IC)付近や、福岡市の箱崎ふ頭・アイランドシティをはじめとした港湾エリア、または福岡近郊の同自動車道鳥栖ジャンクション(JCT)のある佐賀県鳥栖エリアに物流施設が集積する。
JR九州では2021年4月に物流不動産事業への新規参入を表明。それから約2年後の23年3月、福岡県粕屋町に第1号物件となる「福岡北物流センター」を取得し、事業を開始した。
同センターは、福岡ICから車で約5分と近いことに加え、テナントの要望に応じて建設されるBTS(Build To Suit)型倉庫で、別会社が建設したものを竣工した時点で買い取るスキームが決め手となった。リーシングのリスクを負う必要がなく、初の物件として魅力的な条件だった。
同じ3月には2例目となる「箱崎ふ頭物流施設」(福岡市東区)を取得。テナント入居済みの稼働している収益物件で、福岡都市高速「箱崎」出入り口に近く、近距離・広域配送拠点として交通利便性に優れているのが特徴だ。
その後、JR九州は3PL物流を手掛ける吉田海運(長崎県佐世保市)と、物流施設の共同開発・所有に関する協定書を締結。これに基づき23年11月、JR九州は 吉田海運所有の「須恵第一物流センター」(福岡県須恵町)の一部持ち分を取得。施設はセールスアンドリースバック型で吉田海運が継続使用している。
4例目は北九州エリア初進出となる「新門司物流施設」(北九州市門司区)を取得。ドライバー不足に伴う「2024問題」を背景に、同エリアでは物流不動産分野が活発化しつつあり、本州と九州各地の中継拠点としての需要が期待される。
施設の新規開発も着手
5例目から同事業は新たなステージに入り、今年3月に福岡県小郡市で大規模物流施設の新規開発に初めて着手。敷地面積約7万7000平方㍍と同社の物件では最大規模となり、建物は鉄骨造り2階建て(ボックス型)、延べ床面積8万5870平方㍍。25年7月竣工予定。
施設は高床式、低床式区画や冷蔵対応区画に加え、危険物倉庫も計画し、多様なニーズに対応でき、1棟の倉庫に複数のテナントが入居するマルチテナント型物流施設とする。九州の東西交通の要衝となる鳥栖JCTに近く、九州全域への広域輸送拠点として高い需要が見込まれる。
また、この新規開発に合わせて、同社が開発する物流施設のブランド名を鉄道会社らしく「LOGI STATION」に決定。小郡市の開発物件は「LOGI STATION 福岡小郡」とした。
事業推進に拍車がかかり、今年5月には吉田海運と共同で福岡県苅田町に物流施設開発用地を取得。両社の初めての共同開発事例で、竣工は25年度末予定。大手自動車製造工場に近接し、自動車関連産業の底堅いテナント需要が期待される。
■インタビユー
JR九州事業開発本部開発部物流開発課長 三又陽介氏
市場規模は拡大の余地
開発案件を増やし将来的には「柱」に
――改めて事業参入の狙いからお願いします。
三又 当社の不動産事業は駅ビルやホテルに代表されるように、人流に依存したビジネスが中心でしたので、新型コロナウイルス感染拡大により人流がストップし、当社の経営は大きな影響を受けました。物流不動産市場はEC拡大に伴い大きく成長していましたので、人流に頼らない新たな事業への挑戦として参入しました。
福岡の市場には東京からの企業進出も増えていますが、マーケットを見るとまだまだ賃料は上がっていますし、直近の空室率も4%台と、好不調の目安となる5%程度を下回っており、市場は今後も拡大する余地はあると考えています。
――事業参入における人材育成は。
三又 コロナ禍前から物流不動産市場はあったため、当時から定期的に市場環境や事業に関する勉強はしていました。21年4月に事業参入を発表して以降、大手不動産会社や信託銀行などに社員を出向させて学ばせてもらい、戻ってきた社員が現在活躍しています。事業の特殊性は高いですが、既存の不動産事業と重なる部分も多く、これまで培ってきた他社との関係性などを頼りに経験やノウハウを積み重ねています。
――JR九州が手掛ける物流不動産事業の強みとは。
三又 会社発足以来、鉄道を中心に地域の方々と協力しながら事業を進めてきた部分は大きいと思います。また、駅ビルやオフィスビルの日々のリーシング活動でできたつながりで、いろんな話ができるのも当社の強みです。
――収益物件の取得基準は。
三又 おおむね敷地が2000坪(6600平方㍍)以上、土地・建物合わせて取得額30億円以上です。当然大きい方が運営効率はいいですが、リスクも高まりますので、立地やテナント需要などさまざまな条件から検討を重ねて判断します。
――吉田海運との協定締結により、どのようなメリットを期待されますか。
三又 当社が物流施設を提供することで、先方は拠点を増やすことができます。当社としては先方のテナントネットワークや物流施設開発のノウハウを活用させていただき、お互いのシナジー効果を心がけています。
開発場所はお互いに持ちよるような形で、持ち込まれた案件ごとに対応を検討していきます。その上で、共同開発するのか、当社が開発してテナントとして入ってもらうのかなど、お互いにウイン・ウインとなる形にしていくことが大切です。
――「2024問題」への貢献は。
三又 熊本、鹿児島など九州各地から本州の大都市圏に運ぶ際に、ドライバーの中継地点として北九州エリアに注目しています。実際に北九州に拠点をほしがっている物流会社があり、そこに拠点を提供できることは一つの大きな価値と考えます。また、北九州エリアは自社倉庫で築年数が古いものが多く、老朽化や事業拡大に伴う移転・拡張、複数拠点の集約などの需要にも応えていけると思います。
――今後の事業展開について。
三又 事業開始当初はノウハウが少なくリスクがあるため、まずは収益物件の取得を進めてきましたが、その中で物流施設の運営やテナントに関して学び、現在は少しずつ開発にシフトしつつある段階にあります。今後は収益物件も引き続き取得するとともに、開発案件をもっと増やしていきたいです。
前述の北九州エリアのほかにも、半導体関連で新しい需要が少しずつ見えてきている熊本エリアも注視しています。物流の需要が見つかれば、九州各地はもちろんですが、さらには首都圏、近畿圏に進出できればと思います。
ただ、まだ始まったばかりの事業ですので、まずは年間2~3件ずつを目安に着実に進めていくことが重要です。将来的には駅ビルやマンション、ホテル、オフィスと並ぶようなアセットとして、事業開発本部を支える柱となれるよう事業拡大を図っていきたいと考えています。
(M)
■吉田海運(吉=土口)
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