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特集 鉄道・運輸機構 「建設DXビジョン」を作成

2023.11.29
サイバー空間での鉄道走行や建築限界シミュレーション(VRAIN)の画面、タブレットを活用した開業監査指摘事項整理表アプリの使用イメージ。機構では日々の業務の生産性向上に力を入れる(鉄道運輸機構提供)

 幅広い分野で〝シンカ〟への取り組み

 今年10月、設立20年を迎えた鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT、鉄道・運輸機構)。この節目の年に、20~30年後の達成を目指すべき目標を取りまとめた「建設DXビジョン」を作成した。若手・中堅社員が中心となり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を中心とした新技術活用の位置付けとして、幅広い分野での取り組みを盛り込んだ。キーワードは「シンカ」、その中身を紹介する。(卜部 正太記者)

 

 ■「建設DXビジョン」検討の経緯と背景、現状の課題

 2021年7月に取りまとめられた「鉄道・運輸機構改革プラン」の取り組みの一環として、同機構では建設DXの検討を進めてきたが、今回、今年4月にスタートした第5期中期計画と合わせて、鉄道建設部門に特化したデジタル戦略の「建設DXビジョン」を策定した。

 機構設立からの20年間で社会は大きく変化し、日本社会や鉄道建設の持続可能性に対する課題が顕在化した。少子高齢化など、今後の社会変化を見据えた対応が求められる中、同機構は中期目標として、「持続可能性」「デジタル化」「安全・安心」「環境」「技術者不足への対応」などを設定。これらの課題への対応が必要となる。

 このうち、「持続可能性」は、15~64歳の人口が2020年の7508万人から2070年には4523万人となる見込みで、中長期的な労働人口の減少化は避けられない。

 「安全・安心」は、ひとたび大きな鉄道事故が発生すると社会的に深刻な影響を及ぼし、鉄道建設の殉職者は減少傾向にはあるもののゼロにはなっていない。また、気候変動の影響もあり、毎年のように激甚災害が発生している。

 これらの諸課題に対応していくため、設立20年を契機に、次の20年を担う若手・中堅社員が中心となって、数十年後の達成を目指すための同ビジョンを作成した。

 国の計画やJR各社、建設会社も含めた技術開発動向を考慮し、「持続的な社会に向けて〝シンカ〟する」をコンセプトに掲げ、さらに安全で地球にやさしい鉄道への〝進化〟、これまで培った技術や事業遂行能力の〝深化〟、新技術を積極的に導入して、絶えず変革する組織への〝新化〝という三つに取り組み、機構の〝真価〟を発揮していく。

 ■鉄道の建設現場の〝シンカ〟

 「鉄道の建設現場のシンカ」には、①ロボットやICT(情報通信技術)を活用し、現場作業を自動化・遠隔化・最適化②3Dプリンターなどの活用で現場作業を効率化③AI(人工知能)が現場のビッグデータを分析して調査・管理等を効率化④危険な箇所での作業を無人化し、労働災害・公衆災害をゼロに⑤建設現場から発生する二酸化炭素(CO2)の大幅削減⑥建設業の技術と魅力を伝承――を掲げる。

 このうち、①ではレール敷設、電気設備工事の自動化や橋・トンネルなどの無人化施工などを目指す。④は気象・地盤・周辺環境などの工事現場周辺のあらゆるデータをAIで解析して、工事中止の判断といった現場の安全管理や施行管理の最適化に活用する考えだ。

 

 ■サイバー空間を活用しオフィスを〝シンカ〟

 「サイバー空間を活用しオフィスを〝シンカ〟」では、①サイバー空間を通じてどこでも効率的に勤務を可能に(本社・現場などの地理的な概念をなくす)②AIを活用し作業効率を飛躍的に向上③サイバー空間での試験を通して安全性を向上④サイバー空間で環境への影響をシミュレート⑤技術を習得し伝承できる環境の構築――を目標にする。

 ①の効率的な勤務の取り組みに関して、同機構では、サイバー空間での鉄道走行や建築限界シミュレーション(VRAIN)やタブレットを活用した開業監査指摘事項整理表アプリを導入。生産性向上に注力している。

 ■鉄道運行や技術支援を〝シンカ〟

 「鉄道運行や技術支援を〝シンカ〟」では、①新技術を活用しライフスタイルの多様化に対応②全ての新幹線が自動運転化することを前提とした安全対策③さらに人にも環境にもやさしい鉄道に進化④全ての鉄道の進化に向けての支援・協力を目指す。

 ②安全対策の最新の技術開発動向では、来年3月16日開業予定の北陸新幹線金沢―敦賀間の「地上監査・検査」で、3Dレーザーによるトンネル内の建築限界測定や打音検査を実施。当該装置で測定した区間では、監査・検査に要する人日が半分程度に改善した。

 ■「建設DXビジョン」実現に向けて

 「建設DXビジョン」の実現に向けたチャレンジとして、ビジョンを実現するロードマップの作成、マップに沿った新技術の開発・活用、新技術を導入するための基準などの整備、多様な主体・計画との連携、ビジョンに対する理解と共感、ビジョンを踏まえた機構の新たな仕事の検討を掲げる。

 このうち、多様な主体・計画との連携に関して同機構の藤浪武志建設企画部担当課長は「国やJRをはじめとした鉄道事業者、建設会社の方々とともにロードマップの具体的な中身を詰めていければと思っている。新技術をどのような形で深化させるかについてはJR各社の協力が不可欠であり、ビジョン作成の過程でも行ってきた意見交換を各社と進めながら今後も連携していきたい」と話す。

 ビジョンに対する理解と共感では、より一層の周知に向けて、報告会、パンフレット配布といった取り組みを検討している。

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