特集 鉄道・運輸機構 北海道新幹線札幌延伸 「明かり区間」の工事が本格化
鉄道建設・運輸施設整備支援機構が進める北海道新幹線(新函館北斗―札幌間)建設事業で、橋梁(きょうりょう)や高架橋などを造る「明かり区間」工事が本格化している。工事延長は主にトンネルで構成する全体(約211.9㌔)の約2割だが、高架橋柱が徐々に姿を見せるなど、目に見えやすい変化が現れるのは明かり区間ならでは。工事概要と、2町1村に係る工区を担当して基礎建設が最盛期を迎える後志建設事務所(倶知安)管内の最新の工事進ちょく(1日現在)を整理した。(三浦 瑞基記者)
基礎建設の最盛期を迎える後志建設事務所(倶知安)管内
工事進ちょく状況
省力化、高速化、極寒豪雪
明かり区間の全体延長は約43㌔(路盤約7・4㌔、橋梁約5・3㌔、高架橋約30・3㌔)。これをJR北海道委託区間も含む全20工区(一部、橋梁上部工工事除く)に分けて本体工事を進めている。
このうち本格的な工事は19カ所でスタート。2022年7月開始の北斗市「市渡高架橋他工区」を手始めに、整備新幹線初の高架橋上車両基地を構築する計画の札幌市「札幌車両基地高架橋」工区(23年7月起工式)や、駅部を含む工事では一番最近着工した八雲町「新八雲(仮称)駅高架橋」工区(23年11月起工式)など、今月1日現在では長万部町「長万部駅高架橋」工区を唯一残すのみ。工区によって多少の違いはあるが、本体構造物はおおむね26~27年度まで工事し、その後は次なる軌道敷設工事などに順次入っていく。
他新幹線にない独自の取り組み
札幌延伸部の明かり区間工事では、省力化、高速化、極寒豪雪をキーワードに他の整備新幹線にはない独自の取り組みも行われる。
「省力化」では、強度に優れ、桁長25㍍以上に採用してきたプレストレストコンクリート(PC)桁について、工場製作したセグメント桁(U形)を桁長25~35㍍に基本採用する。従来の桁長45㍍以下はT形桁を現場施工してきたが、一部にプレキャストタイプを用いることで現場作業の省力化を進める。
「高速化」では、国土交通省や営業主体のJR北海道の協議で決まった延伸区間最高時速320㌔運転への対応を図る。従来の整備新幹線最高時速260㌔を上回ることから、設計では高速化が構造物に与える衝撃荷重などを加味し、安全性、乗り心地、騒音に配慮した各種検討を行っている。
「極寒豪雪」では、地域によって異なる気温や積雪量への対応に、雪を高架橋上にためる閉床構造、雪を堆積させない開床構造の2タイプの高架橋をエリアごとに選択。延伸区間では、開床式の騒音対策として、雪を落とす開口部に吊(つ)り下げ式の防音壁を整備新幹線で初めて採用する。
■「岩尾別高架橋」工区 延伸区間最長の橋の架橋
後志建設事務所(倶知安)管内では、倶知安町、仁木町、赤井川村に係る工区を担当。範囲は羊蹄トンネル出口から後志トンネル中間地点(赤井川村と余市町の境界付近)の約32・2㌔。明かり区間は新幹線倶知安駅部を含めて総延長約10・2㌔の全4工区で構成する。
羊蹄トンネルを出てすぐとなる「岩尾別高架橋」工区(延長2354㍍、倶知安町)は23年6月に安全祈願を実施した。工区最大の特徴は、延伸区間で最も延長が長い橋となる「尻別川橋梁」(桁長267㍍)の架橋で、現在はクレーンなどを入れる仮設の桟橋を河川に設置し、2本の橋脚の基礎を構築する「鋼管矢板井筒基礎」工法を開始した。桁は別発注で3径間連続の合成箱桁を採用する。
■「倶知安駅高架橋」工区 駅隣接部分含む工事が最盛期に
隣の「倶知安駅高架橋」工区(延長3160㍍、同町)は、23年5月の安全祈願。駅部を含み、細心の注意がいる営業線近接工区となる。同町の高架橋、橋梁の基礎は主に、ケーシングチューブで地盤の固い支持層まで穴を掘って鉄筋コンクリート杭を打設する「場所打ち杭」、縦坑を掘削土とセメントの混合物で満たして鋼管を埋め込んで周面摩擦で支持力を得る「鋼管ソイルセメント杭」を採用。同工区ではいずれも8~9割方打ち終え、現在は残る保守基地線も含めた駅隣接ゾーンが最盛期を迎える。
琴平高架橋工区
さらにその隣で二ツ森トンネル入り口までの区間となる「琴平高架橋」工区(3395㍍、同町)は23年11月の安全祈願。同工区の基礎の中心となる鋼管ソイルセメント杭の進ちょく率は約6%程度で、本番はこれからだ。
明治高架橋他工区
二ツ森トンネル出口、後志トンネル入り口に挟まれた立地で赤井川村の工事となる「明治高架橋他」工区(延長976㍍)は23年6月の安全祈願。こちらは倶知安町の工区とは違って地盤が固く、杭基礎ではなく、直接基礎を採用する。各トンネル坑口を結ぶ線上には桁式高架橋や橋梁の下部工、ラーメン高架橋の柱が姿を現す。
日々懸命に従事
北海道新幹線工事担当の誇り持って
後志建設事務所の古屋元規工事長(倶知安土木)は明かり区間工事の本格化に際し、「『北海道新幹線工事を担当した』と誇りを持って言えるよう、多くの工事関係者が日々仕事に従事している。機構としても受注者と一丸となって1日も早い札幌延伸ができるよう努めていきたい。自然に配慮し、事故防止にも細心の注意を払って、安心・安全な工事を進めていく」とコメントした。
◇
他エリアの明かり区間の主な進ちょくは、北斗建設事務所の「市渡高架橋他」工区工事が最も進行。新函館北斗駅、渡島トンネル入り口をつなぐ461㍍の短い工区で工事は現在8割方が完成。長万部町の明かり区間で最も早い昨年6月に着工した長万部建設事務所の「平里高架橋他工区」(1838㍍)も順調で、海に面した函館線沿いの風光明媚(ふうこうめいび)な区間にラーメン高架橋の柱が姿を見せる。
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