交通新聞社 電子版

特集 鉄道・運輸機構 10月1日 あす創立21年

2024.09.30
北海道新幹線(新函館北斗―札幌間)明かり区間の工事。(上から)俱知安駅高架橋、市渡高架橋=鉄道・運輸機構提供=

 人々の暮らし、経済支える

 鉄道や海運を中心に、安全・安心で環境にやさしい交通ネットワークを整備してきた鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT、鉄道・運輸機構)は、日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団との統合で2003年に誕生してから、来月1日で発足21年を迎える。新幹線をはじめとした欠かすことのできない交通インフラ整備を支援する立場を担い、人々の暮らしや経済を支えてきた。さらに、高い技術力と豊富な経験、高度な専門知識を活用して、被災鉄道の復旧といった鉄道に関する諸課題の解決などにも活躍の場を広げている。(卜部 正太記者)

 ■新函館北斗―札幌間 各所の工事が本格化 北海道新幹線 

 北海道新幹線新函館北斗―札幌間(約211・9㌔)は、山岳トンネルとしては日本最長となる渡島トンネル(約32・7㌔)をはじめとして、全体の約8割に当たる約169㌔を全17本のトンネルが占め、2014年から掘削工事に順次着手している。さらに、橋りょうや高架橋などを造る「明かり区間」の工事が本格化している。

 明かり区間の全体の延長は約43㌔(路盤約7・4㌔、橋りょう約5・3㌔、高架橋約30・3㌔)で、これを全20工区(一部、橋りょう上部工工事除く)に分けて本体工事が進められている。

 22年7月開始の北斗市「市渡高架橋他工区」を手始めに、整備新幹線初の高架橋上車両基地を構築する計画の札幌市「札幌車両基地高架橋」工区(23年7月起工式)や八雲町「新八雲(仮称)駅高架橋」工区(同11月起工式)など。土木工事であるトンネルや明かり工事を行い、その後は軌道敷設工事などに順次着手する。

 札幌延伸部の明かり区間工事では、他の整備新幹線にはない取り組みも行われている。「省力化」では、強度に優れ、桁長25㍍以上に採用してきたプレストレストコンクリート(PC)桁について、工場製作したセグメント桁(U形)を桁長25~35㍍に基本採用する。一部にプレキャストタイプを用いることで、現場作業の生産性アップにつなげる。

 「高速化」では、JR北海道の施策による最高時速320㌔運転への対応を図る。整備新幹線の最高設計速度である時速260㌔を上回ることから、設計では、高速化が構造物に与える衝撃荷重などを加味して、安全性のほか、乗り心地、騒音に配慮した各種検討を進めている。

 「極寒豪雪」では、地域によって異なる気温や積雪量への対応に、雪を高架橋上にためる閉床構造、雪を堆積させない開床構造の2タイプの高架橋をエリアごとに選択。延伸区間では、開床式の騒音対策として、雪を落とす開口部に吊(つ)り下げ式の防音壁を整備新幹線で初めて採用する。

 ■敦賀―新大阪間 最短25年度末着工へ 北陸新幹線

 北陸新幹線は今年3月16日、金沢―敦賀間(工事延長114・6㌔)が延伸開業を迎えた。12年6月の着工以来、約10年の間、工法面でさまざまな工夫を凝らして施工を進めてきた。今後は敦賀―新大阪間の延伸に関しての準備が進められる。最短の場合、25年度末の着工を目指す。

 敦賀―新大阪間のルート案は、京都駅の地下にホームを新設して東西方向に乗り入れる「東西案」(約146㌔)、南北方向に乗り入れる「南北案」(約144㌔)、同駅から西に約5㌔離れたJR桂川駅付近の地下に新駅を設ける「桂川案」(約139㌔)の全3パターン。

 敦賀から京都市街近くまでは共通で、福井県小浜市内に新駅を設置。それぞれ京都駅付近を経由した後は、3案ともに京都府久御山町付近の車両基地で合流して、同京田辺市内の新駅を経由して新大阪駅へとつながる。

 これらの案の概算事業費は、東西案がおおむね3兆7000億円程度、南北案が同3兆9000億円程度、桂川案が同3兆4000億円程度。将来の物価上昇を見込んだ場合、東西案がおおむね5兆3000億円程度、南北案が同5兆2000億円程度、桂川案が同4兆8000億円程度となる。

 ■合計6事業者に派遣 鉄道災害調査隊

 近年、激甚化・頻発化する自然災害による鉄道施設の被災に対処するため、「鉄道災害調査隊」(RAIL-FORCE)を昨年4月1日付で創設。国土交通省からの要請に基づいて職員を被災現場に派遣し、機構が有する鉄道建設への総合的な技術力やノウハウを活用して、鉄道施設の被災状況調査や復旧策に対する技術的助言を行う。

 9月18日現在、合計6事業者に調査隊を派遣。現地踏査やドローンの活用などにより被災状況の全体像を把握するとともに、個別の被害状況を詳細に調査し、必要な追加調査項目や応急・恒久復旧策に対する技術的助言を行う。これらを「調査報告書」として取りまとめ、鉄道事業者などに手交している。

 ■鉄道技術センター

 鉄道建設に関する技術力を強化するため、今年4月1日付で「鉄道技術センター」を新設した。本社の設計・設備・電気などの部署を同センターに再編。同センターでは▽鉄道建設に関する専門技術の結集により、さらなる鉄道建設技術の向上▽鉄道〝建設〟技術から〝鉄道技術〟へ技術力のスパイラルアップの実現▽わが国の鉄道技術のプラットフォームとなること――の3点を目指す。

 技術の向上に加えて、調査・計画・設計・施工・維持管理といった鉄道施設のライフサイクルを一元的に担うことで、時代のニーズに対応した鉄道システムの構築に貢献する。

 ■海外展開

 独立行政法人などが海外業務に従事できる「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律」が18年に施行され、海外高速鉄道の調査業務の分野に注力。技術者の派遣に加え、培った技術を海外プロジェクトで活用できるようになった。

 インドのムンバイ~アーメダバード間高速鉄道プロジェクト(延長508㌔)で、日本コンサルタンツを中心としたコンソーシアム(JICC)が実施している詳細設計調査業務についての技術支援、JARTS(海外鉄道技術協力協会)が実施している軌道における教育訓練・認証事業への技術協力などを行っている。

 また、JOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)、JR東日本との共同出資で、インド高速鉄道公社(NHSRCL)の電気システム分野の発注者業務の代理・代行を行う日本高速鉄道電気エンジニアリング(JE)を21年に設立。JEへの人的・技術的支援などを通じて貢献している。

 ■船舶

 国内の海上交通ネットワークを支えるため、環境対策、物流効率化および地域振興に資する良質な船舶の建造を支援する「船舶共有建造制度」に力を入れている。船舶共有建造制度とは、海運事業者と機構が建造費を分担して船舶を共同発注し、機構が建造中の工事監督を行い、事業者が完成した船舶を使用しながら機構が分担した建造費相当分を使用料として支払う制度で、23年度は15隻が建造された。

 また、24年度は、建造申し込みの相談から共有期間の終了まで一貫して対応できるよう組織を見直すとともに、事業者へ個別訪問する機会を積極的に設けるなど、支援体制の強化にも注力している。

 ■21年の歩み

【2003年】

 10.1 鉄道・運輸機構発足

【2004年】

 2.1 横浜高速鉄道みなとみらい線開業

 3.13 九州新幹線新八代―鹿児島中央間開業

 12.1 東京モノレール羽田線羽田空港第1ビル~羽田空港第2ビル開業

【2005年】

 1.29 中部国際空港線開業

 5.22 北海道新幹線新青森―新函館(仮称)間起工式

 6.4 北陸新幹線富山―金沢間、福井駅部起工式

 8.24 首都圏新都市鉄道・つくばエクスプレス開業

【2006年】

 11.21 都市鉄道等利便増進法に基づく速達性向上計画認定(相鉄・JR直通線)

【2007年】

 1.23 山梨リニア実験線の建設計画の変更を国土交通大臣が承認

 1.30 吹田貨物ターミナル駅建設事業起工式

 2.5 仙台市高速鉄道(地下鉄)東西線着工式

 3.18 仙台空港線開業

 4.11 都市鉄道等利便増進法に基づく速達性向上計画認定(相鉄・東急直通線)

 7.20 SES「みやじま丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型旅客船部門賞受賞

【2008年】

 1.27 愛知環状鉄道三河豊田―新豊田間複線供用開始

 4.1 第2期中期計画(2008~2012年度)スタート

 4.28 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―諫早間起工式

 7.22 武蔵野操車場跡地地区土地区画整理事業の事業計画認可

【2009年】

 7.24 「フェリーあけぼの」がシップ・オブ・ザ・イヤー大型旅客船部門賞受賞

 12.24 中央新幹線東京都―大阪市間の建設に要する費用などに関する調査結果報告書を国土交通大臣に提出

【2010年】

 3.22 九州新幹線鹿児島ルート博多―新八代間レール締結式

 3.25 相鉄・JR直通線起工式

 7.17 成田新高速鉄道線(成田スカイアクセス線)開業

 12.4 東北新幹線八戸―新青森間開業

【2011年】

 3.12 九州新幹線博多―新八代間開業

 7.22 タンデム・ハイブリッドシステム船「興山丸」がマリンエンジニアリング・オブ・ザ・イヤー2010受賞

 8.1 改正国鉄清算事業団債務処理法が施行(JR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物に対する新たな支援業務)

 10.14 九州新幹線新鳥栖駅、新玉名駅がブルネル賞を受賞

【2012年】

 6.29 国土交通省が整備新幹線3区間の工事実施計画(その1)を認可

 7.25 貨物船「よね丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型貨物船部門賞受賞

 8.18 九州新幹線西九州ルート諫早―長崎間起工式

 8.19 北陸新幹線金沢―敦賀間起工式

 8.25 北海道新幹線新函館(仮称)―札幌間起工式

 11.30 武蔵野操車場跡地地区土地区画整理事業の終了

【2013年】

 3.16 吹田貨物ターミナル駅、百済貨物ターミナル駅が開業

 3.31 運輸分野の基礎的研究推進制度が終了 

 4.1 第3期中期計画(2013~2017年度)スタート

 7.25 SES貨物船「新進丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型貨物船部門賞受賞

 8.29 山梨リニア実験線での列車走行試験再開

【2014年】

 5.24 北陸新幹線長野―金沢間レール締結式

 11.1 北海道新幹線新青森―新函館北斗間レール締結式

【2015年】

 3.14 北陸新幹線長野―金沢間開業

 7.27 SESの「橘丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー2014大型客船部門賞受賞

 8.26 改正鉄道・運輸機構法施行(地域公共交通出資等業務の追加)

 12.6 仙台市高速鉄道(地下鉄)東西線開業

【2016年】

 3.26 北海道新幹線新青森―新函館北斗間開業

【2017年】

 7.7 「フェリーしまんと」がシップ・オブ・ザ・イヤー2016大型客船部門賞受賞

 11.28 独立行政法人として国内初のグリーンボンドを発行

【2018年】

 4.1 第4期中期計画(2018~2020年度)スタート

 7.13 水中翼付き高速双胴船「鷹巣」がシップ・オブ・ザ・イヤー2017の小型客船部門賞受賞

 8.30 九州新幹線西九州ルート嬉野温泉駅(仮称)予定地で同ルート初のレール発進式

 8.31 「海外インフラ展開法」施行

 9.28 旧国鉄用地の処分終了(梅田駅〈北〉地区の土地引き渡し完了)

 12.13 神奈川東部方面線の路線名称を相鉄新横浜線および東急新横浜線と公表

 12.26 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―長崎間で最長の新長崎トンネル貫通式

【2019年】

 2.5 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―長崎間で初の駅舎部工事となる諫早駅新築工事安全祈願

 5.30 アジア初のCBIプログラム認証を取得した「サステナビリティボンド」を発行

 7.12 カーフェリー「さんふらわあ さつま」がシップ・オブ・ザ・イヤー2018大型客船部門賞受賞

 7.26 日本造船技術センターと包括的連携協定締結

 11.30 相鉄・JR直通線開業

【2020年】

 4.7 北陸新幹線福井県区間のレール敷設開始

 7.10 北陸新幹線金沢―敦賀間最長のトンネルとなる新北陸トンネルが貫通

 7.13 共有建造制度により25年ぶりのジェットフォイル「セブンアイランド結」が就航

 7.27 観光型フェリー「SEA PASEO」がシップ・オブ・ザ・イヤー2019小型客船部門賞受賞

【2021年】

 3.18 北海道新幹線新函館北斗―札幌間のトンネルで初貫通となる昆布トンネルが貫通

 4.28 九州新幹線西九州ルートの路線名が西九州新幹線に決定

 5.11 国内クルーズ船「SEA SPICA」がシップ・オブ・ザ・イヤー2020小型客船部門賞受賞

 7.7 ユーグレナ社と包括連携に関する基本合意書を締結

 7.30 鉄道・運輸機構改革プランを策定

 9.1 JOIN、JR東日本とインド高速鉄道建設支援の「日本高速鉄道電気エンジニアリング」設立

 9.4 西九州新幹線武雄温泉―長崎間レール締結

 11.12 ユーグレナ社の次世代バイオディーゼル燃料使用の観光型高速クルーザー試験航行実施

【2022年】

 1.27 相鉄・東急直通線が2023年3月開業予定と公表

 5.10 西九州新幹線N700S「かもめ」本線で試験走行開始

 7.22 相鉄・東急直通線でレール締結式

 9.23 西九州新幹線武雄温泉―長崎間が開業

【2023年】

 3.18 相鉄・東急直通線が開業

 4.1 第5期中期計画(2023~2027年度)がスタート

 4.1 鉄道災害調査隊を創設

 5.27 北陸新幹線金沢―敦賀間レール締結式

 9.23 北陸新幹線金沢―敦賀間試験走行を開始

【2024年】

 3.16 北陸新幹線金沢―敦賀間開業

 4.1 鉄道技術センターを創設

 5.14 小型フェリー「あいしま」がシップ・オブ・ザ・イヤー2023小型客船部門賞受賞、一般貨物船「國喜68」がシップ・オブ・ザ・イヤー2023小型貨物船部門賞受賞

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