特集 JR北海道 電気設備を効率的に検査 状態監視システム整備
夜間作業、限られた間合い、相応の人手…
冬期は特有の事情も
経営基盤強化へオペレーション変革
千歳線10駅10区間 10月以降実用化へ
経営基盤強化に向けたオペレーションの変革へ、電気転てつ機や軌道回路など電気設備の効率的な検査体制・手法の確立を目指して「電気設備状態監視システム」の整備を進めている。現在、施工するのは千歳線白石―新千歳空港間(函館線に係る白石駅と信号設備のない平和駅、長都駅を除く10駅10区間)。普段の作業間合いが確保しづらく、システムの効果が最大限発揮できる線区として、2025年度まで4カ年計画で導入に着手している。(三浦 瑞基記者)
一部を機械化
線路沿線の電気設備点検は、設置状態やサビなど目視による外観チェックのほか、動作状態や電源電圧・電流などを確認する何項目にも及ぶ測定検査を周期的に行っている。特に札幌圏など高輸送密度線区の作業は主に夜間。従来、その限られた間合いで作業を終わらせるために相応の人手を確保してきた。冬期は路面凍結し、線路沿い設備は雪に埋もれ、作業開始までに何時間も費やす、北海道特有の事情もある。
電気設備状態監視システムは、現場で人手を要してきたこれら検査のうち測定検査の一部機械化を目指すもので、指令所や電気所などの遠隔拠点から現場設備の検査データを把握可能にする。現地での点検項目数を減らすことで検査業務の負担軽減につなげるほか、人手による入力業務解消やヒューマンエラーを防ぐ狙いもある。省力化効果が大きい設備として対象は、電気転てつ機、軌道回路、踏切を選定し、専用測定装置(センサー)を製作。国の支援「省力化・省人化に資する支援」も活用し、日本信号をパートナーに導入を進める。
4ヵ年計画
検査を機械化するシステム構想は以前からあったが、現行仕様での試験的な導入計画は2020年度に策定。翌21年度に千歳線千歳駅に試験版システムを導入し、初期型を含めて、転てつ機センサー、軌道回路センサー、踏切センサーを開発。動作検証を経て、22年度から千歳線10駅10区間への整備を4カ年計画で開始している。
本システムは、既存の駅通信線も活用して携帯電話回線の契約数を極力抑えるなど運営コストを下げ、検査結果を管理する他システム「設備管理システム」との間にクラウドサーバーを介することで将来的な改修コストも回避しやすい仕様とした。
転てつ機、軌道回路、踏切の各センサーは自動車のドライブレコーダーのようにいずれも常時測定し、測定データは装置メモリーに一時的に保存・随時上書きする方式を採用。センサーそれぞれにトリガーを設けていて、これが発動すると保存用測定データが作成され、一定間隔で駅ごとにデータ集約する「蓄積表示装置」に送られる。表示装置には隣接する駅間設備のデータも一緒に集められ、その上で、携帯回線の閉域ネットワークサービスを使ってクラウドサーバーへと集約・蓄積する。
転てつ機
運転保安装置である転てつ機などの動作は、電気関係指令で常時監視されているが、本システムでは、電圧など、設備の電気的な「状態」を指令も即座に確認できるため、異常時対処の早期化も期待できる。機器故障の兆候の検知を目指し、測定項目ごとにしきい値を設けた監視機能も設けている。
転てつ機センサーは、スペースに余裕のない転てつ機内部に収まるように、ヒーターなど既存機器の取り付け箇所を見直した上で、縦187㍉×横121㍉×奥行き40㍉で開発した。測定項目は転換時の動作電圧や動作電流などで、ヒーターの故障が分かるよう温度測定機能も設置。従来の人力測定ではある時点における点データしか把握できなかったが、一定時間の連続したデータが取得できるようになった。
軌道回路
軌道回路センサーは縦147㍉×横147㍉×奥行き198・5㍉。信号関係装置を設置する駅構内建屋(リレーハウス)や器具箱に取り付けることを考慮して、リレーなど信号関係で使用する装置サイズに合わせた。測定項目は軌道回路の送信側、受信側双方の電圧・電流など。センサーは最大20分間連続したメモリーの保存が可能で、長時間停車などの異常が発生した時のデータも測定できる。
踏切
踏切センサーは縦147㍉×横220㍉×奥行き198・5㍉。踏切器具箱や駅のリレーハウスに設置する。踏切は、警報機や遮断機など構成機械が多い保安装置であり測定項目も多岐にわたる中で、システムに搭載可能な範囲で最大限動作状況を把握できるように測定項目を検討した。センサーは警報機が鳴動開始すると自動的に検査を開始し、整流器の入出力電圧など全24項目を測定できる仕様とした(踏切設備により測定可能項目は異なる)。
センサーはこのほか、さまざまな電源設備のデータが測定できる装置「汎用(はんよう)センサー」も開発。昨年度末に仕様が確定して本年度中に導入を開始する。設備に用いる電源は、お互いの干渉を避けるために直流、交流以外に電圧や周波数などがさまざま。それぞれに合わせた装置でなければ正確に測定ができないため、センサーでは機能はある程度共通とし、構成ユニットを載せ替えることで測定対象を変えられる方式を採用した。他センサー同様に、駅単位でデータ収集し、クラウドに集約する。
当該検査項目のシステムへの置き換え自体はまだ先の見通し。現在は、10月以降の実用化を目指して準備を進めている。切り替えは、業務が煩雑にならないよう、設備ごとではなく、駅単位で行う方針とする。
高効果の箇所に
25年度の千歳線整備完了以降は、札幌圏の函館線小樽―江別間や札沼線へのシステム導入を検討しており、具体的な計画はこれからだ。さらなる導入先など今後の展望について担当者は「国からの支援を活用し、札幌圏に限らず、効果が高いと考えられる箇所には導入を検討していきたい」とコメント。さらなるセンサー開発の可能性については、具体的な計画はないとしながらも、必要の都度、検査の機械化・省人化に向けて検討したいとする。
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