交通新聞社 電子版

特集 鉄道・運輸機構 10月1日創立20年

2023.09.29
来春から北陸新幹線の新たな終着駅となる敦賀駅(鉄道運輸機構提供)

 人々の暮らし、経済支える

 鉄道や海運を中心に、安全・安心で環境にやさしい交通ネットワークを整備してきた鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT、鉄道・運輸機構)は、日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団との統合で2003年に誕生してから、来月1日で発足20年の節目を迎える。新幹線をはじめとした欠かすことのできない交通インフラ整備を支援する立場を担い、人々の暮らしや経済を支えてきた。さらに、技術力と豊富な経験、高度な専門知識を活用して、被災鉄道の復旧や海外の高速鉄道整備の支援などにも活躍の場を広げている。(卜部 正太記者)

 

 ■「北陸」「北海道」の建設進む 整備新幹線

 北陸新幹線金沢―敦賀間(約125㌔、工事延長約114・6㌔)は、12年6月に着工してから約10年間を経て、来年3月16日の完成・開業を予定。完成した設備の出来栄えや整備状態、各種基準との照合などを確認する「地上監査・検査」も完了し、今月23日からは新幹線電気・軌道総合検測車「East i(イーストアイ)」や営業用のW7系新幹線車両を用いた走行試験を実施している。

 新規開業区間では、小松、加賀温泉、芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀の6駅を整備。また高架橋が全体の52%、トンネルが34%、橋りょうが13%、路盤1%と、過半を高架橋が占める構造となっている。

 主な構造物はトンネルが新北陸トンネル(越前たけふ―敦賀間、約19・8㌔)、加賀トンネル(加賀温泉―芦原温泉間、約5・5㌔)、第2福井トンネル(福井―越前たけふ間、約3・5㌔)など。橋りょうは手取川橋りょう(金沢―小松間、558㍍)、九頭竜川橋りょう(芦原温泉―福井間、414㍍)など。

 30年度末の開業を目指す北海道新幹線新函館北斗―札幌間(約212㌔)は、山岳トンネルとしては日本最長となる渡島トンネル(約32・7㌔)をはじめ、全体の約8割に当たる約169㌔を全17本のトンネルが占め、14年から掘削工事に順次着手している。現在、約7割の掘削が終わり、トンネル工事の最盛期にある。

 新駅は、新八雲(仮称)、長万部、倶知安、新小樽(仮称)、札幌の5駅。本年度からは駅部の高架橋や整備新幹線で初となる高架式の札幌車両基地の工事も始まった。

 

 ■支援強化や早期復旧図る 鉄道災害調査隊

 国土交通省からの要請に基づいて鉄道施設の被災現場に職員を派遣し、鉄道事業者などに被災状況調査といった技術的支援を行う「鉄道災害調査隊」を今年4月1日付で創設。近年、激甚化・頻発化する自然災害によって鉄道施設への被害が相次ぎ、被災時の支援活動や復旧に向けた取り組みが急務となっていることを踏まえて、同隊と同省が連携を深め、支援活動の強化や鉄道路線の早期復旧を図る。

 初活動として6月、台風で土砂流入や倒木などの甚大な被害を受けて一部区間が不通となっている大井川鐵道に職員を派遣。徒歩踏査で鉄道施設の被害状況を把握し、必要な追加調査や復旧方法などに対する技術的助言を行い、被害状況の調査結果や技術的所見を取りまとめた「調査報告書」を同社に提出した。

 

 ■海外展開

 独立行政法人などが海外業務に従事できる「海外社会資本事業の我が国事業者の参入の促進に関する法律」が18年に施行され、海外高速鉄道の調査業務の分野に注力。技術者の派遣に加え、培った技術を海外プロジェクトで活用できるようになった。

 インドのムンバイ~アーメダバード間高速鉄道プロジェクト(延長508㌔)で、日本コンサルタンツを中心としたコンソーシアム(JICC)が実施している詳細設計調査業務についての技術支援、JARTS(海外鉄道技術協力協会)が実施している軌道における教育訓練・認証事業への技術協力などを行っている。

 また、JOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)、JR東日本との共同出資で、インド高速鉄道公社(NHSRCL)の電気システム分野の発注者業務の代理・代行を行う日本高速鉄道電気エンジニアリング(JE)を21年に設立。JEへの人的・技術的支援などを通じて貢献している。

 

 ■船舶

 内航海運ネットワークを支えるため、国内を航行する旅客船・貨物船について、良質な船舶の建造を支援する「船舶共有建造制度」にも力を入れる。海運事業者と機構とで建造費を分担することによって船舶を共同発注し、機構が建造中の工事監督を行い、事業者が完成した船舶を営業に用いながら機構分担の建造費相当分を使用料として支払う制度で、22年度は22隻が建造された。

 また、内航海運業界の事業者から「顔の見えるJRTT」となることを目指して23年度から、共有建造の相談について、エリア毎の担当者制の導入や短期出張所の開設といった新たな取り組みに着手している。

 加えて、情報発信の充実として、昨年7月から「共有船ニュースレター」を発刊しているほか、ユーチューブやⅩ(旧ツイッター)も活用し、機構の取り組みを分かりやすく紹介するとともに、海に関わる各種イベントへの参加も行っている。

 

 ■第5期中期計画

 今年3月、確かな技術力、豊富な経験、高度な専門知識を最大限に発揮し、持続可能で活力ある国土・地域づくりの実現に貢献するという役割を果たすため、第5期中期計画を策定した。期間は同4月から2028年3月までの5年間。

 21年7月に取りまとめられた鉄道・運輸機構改革プランの着実な実施を含む「業務プロセスの見直し等改革の確実な実施」、運輸施設の整備に関する技術力とノウハウをより一層活用する「運輸・交通分野を取り巻く課題への対応」、環境負荷低減に向けた取り組みを積極的に進めてSDGs(持続可能な開発目標)に貢献する「カーボンニュートラルの実現をはじめとする社会的課題への対応」を三つの柱に据える。

 

■20年の歩み

【2003年】

10.1 鉄道・運輸機構発足

【2004年】

2.1 横浜高速鉄道みなとみらい線開業

3.13 九州新幹線新八代―鹿児島中央間開業

12.1 東京モノレール羽田線羽田空港第1ビル~羽田空港第2ビル開業

【2005年】

1.29 中部国際空港線開業

5.22 北海道新幹線新青森―新函館(仮称)間起工式

6.4 北陸新幹線富山―金沢間、福井駅部起工式

8.24 首都圏新都市鉄道・つくばエクスプレス開業

【2006年】

11.21 都市鉄道等利便増進法に基づく速達性向上計画認定(相鉄・JR直通線)

【2007年】

1.23 山梨リニア実験線の建設計画の変更を国土交通大臣が承認

1.30 吹田貨物ターミナル駅建設事業起工式

2.5 仙台市高速鉄道(地下鉄)東西線着工式

3.18 仙台空港線開業

4.11 都市鉄道等利便増進法に基づく速達性向上計画認定(相鉄・東急直通線)

7.20 SES「みやじま丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型旅客船部門賞受賞

【2008年】

1.27 愛知環状鉄道三河豊田―新豊田間複線供用開始

4.1 第2期中期計画(2008~2012年度)スタート

4.28 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―諫早間起工式

7.22 武蔵野操車場跡地地区土地区画整理事業の事業計画認可

【2009年】

7.24 「フェリーあけぼの」がシップ・オブ・ザ・イヤー大型旅客船部門賞受賞

12.24 中央新幹線東京都―大阪市間の建設に要する費用などに関する調査結果報告書を国土交通大臣に提出

【2010年】

3.22 九州新幹線鹿児島ルート博多―新八代間レール締結式

3.25 相鉄・JR直通線起工式

7.17 成田新高速鉄道線(成田スカイアクセス線)開業

12.4 東北新幹線八戸―新青森間開業

【2011年】

3.12 九州新幹線博多―新八代間開業

7.22 タンデム・ハイブリッドシステム船「興山丸」がマリンエンジニアリング・オブ・ザ・イヤー2010受賞

8.1 改正国鉄清算事業団債務処理法が施行(JR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物に対する新たな支援業務)

10.14 九州新幹線新鳥栖駅、新玉名駅がブルネル賞を受賞

【2012年】

6.29 国土交通省が整備新幹線3区間の工事実施計画(その1)を認可

7.25 貨物船「よね丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型貨物船部門賞受賞

8.18 九州新幹線西九州ルート諫早―長崎間起工式

8.19 北陸新幹線金沢―敦賀間起工式

8.25 北海道新幹線新函館(仮称)―札幌間起工式

11.30 武蔵野操車場跡地地区土地区画整理事業の終了

【2013年】

3.16 吹田貨物ターミナル駅、百済貨物ターミナル駅が開業

3.31 運輸分野の基礎的研究推進制度が終了 

4.1 第3期中期計画(2013~2017年度)スタート

7.25 SES貨物船「新進丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー小型貨物船部門賞受賞

8.29 山梨リニア実験線での列車走行試験再開

【2014年】

5.24 北陸新幹線長野―金沢間レール締結式

11.1 北海道新幹線新青森―新函館北斗間レール締結式

【2015年】

3.14 北陸新幹線長野―金沢間開業

7.27 SESの「橘丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー2014大型客船部門賞受賞

8.26 改正鉄道・運輸機構法施行(地域公共交通出資等業務の追加)

12.6 仙台市高速鉄道(地下鉄)東西線開業

【2016年】

3.26 北海道新幹線新青森―新函館北斗間開業

【2017年】

7.7 「フェリーしまんと」がシップ・オブ・ザ・イヤー2016大型客船部門賞受賞

11.28 独立行政法人として国内初のグリーンボンドを発行

【2018年】

4.1 第4期中期計画(2018~2020年度)スタート

7.13 水中翼付き高速双胴船「鷹巣」がシップ・オブ・ザ・イヤー2017の小型客船部門賞受賞

8.30 九州新幹線西九州ルート嬉野温泉駅(仮称)予定地で同ルート初のレール発進式

8.31 「海外インフラ展開法」施行

9.28 旧国鉄用地の処分終了(梅田駅〈北〉地区の土地引き渡し完了)

12.13 神奈川東部方面線の路線名称を相鉄新横浜線および東急新横浜線と公表

12.26 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―長崎間で最長の新長崎トンネル貫通式

【2019年】

2.5 九州新幹線西九州ルート武雄温泉―長崎間で初の駅舎部工事となる諫早駅新築工事安全祈願

5.30 アジア初のCBIプログラム認証を取得した「サステナビリティボンド」を発行

7.12 カーフェリー「さんふらわあ さつま」がシップ・オブ・ザ・イヤー2018大型客船部門賞受賞

7.26 日本造船技術センターと包括的連携協定締結

11.30 相鉄・JR直通線開業

【2020年】

4.7 北陸新幹線福井県区間のレール敷設開始

7.10 北陸新幹線金沢―敦賀間最長のトンネルとなる新北陸トンネルが貫通

7.13 共有建造制度により25年ぶりのジェットフォイル「セブンアイランド結」が就航

7.27 観光型フェリー「SEA PASEO」がシップ・オブ・ザ・イヤー2019小型客船部門賞受賞

【2021年】

3.18 北海道新幹線新函館北斗―札幌間のトンネルで初貫通となる昆布トンネルが貫通

4.28 九州新幹線西九州ルートの路線名が西九州新幹線に決定

5.11 国内クルーズ船「SEA SPICA」がシップ・オブ・ザ・イヤー2020小型客船部門賞受賞

7.7 ユーグレナ社と包括連携に関する基本合意書を締結

7.30 鉄道・運輸機構改革プランを策定

9.1 JOIN、JR東日本とインド高速鉄道建設支援の「日本高速鉄道電気エンジニアリング」設立

9.4 西九州新幹線武雄温泉―長崎間レール締結

11.12 ユーグレナ社の次世代バイオディーゼル燃料使用の観光型高速クルーザー試験航行実施

【2022年】

1.27 相鉄・東急直通線が2023年3月開業予定と公表

5.10 西九州新幹線N700S「かもめ」本線で試験走行開始

7.22 相鉄・東急直通線でレール締結式

9.23 西九州新幹線武雄温泉―長崎間が開業

【2023年】

3.18 相鉄・東急直通線が開業

4.1 第5期中期計画(2023~2027年度)がスタート

4.1 鉄道災害調査隊を創設

5.27 北陸新幹線金沢―敦賀間レール締結式

9.23 北陸新幹線金沢―敦賀間試験走行を開始

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