交通新聞社 電子版

特集 東急 「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」開業 渋谷駅東口エリア 新たなにぎわい創出へ

2024.07.23
「渋谷アクシュ」の外観(渋谷アクシュ提供)

 渋谷二丁目17地区市街地再開発組合と参加組合員の東急は8日、オフィスや飲食店などで構成する大型複合施設「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」を渋谷駅東口エリアに開業した。低層部に広場を設け、周辺エリアとのつながりを強化することにより、これまではオフィス中心だった地域のにぎわい創出を図る。同施設の魅力と合わせて、「働く場」としての渋谷に向けた東急の取り組みを紹介する。(卜部 正太記者)

 

 ●「渋谷アクシュ」概要

 渋谷駅から青山方面へと続く通称〝青渋〟地域は幹線道路に囲まれ、周辺エリアとの円滑な回遊が妨げられていることやオフィス中心の地域である点などから、人々が集うにぎわい創出の場所が不足しているという課題があった。同地域に位置する「渋谷アクシュ」は「TSUNAGI-BA」をコンセプトに、渋谷二丁目の飲食ゾーンと青山の文教エリアとのつながりを生かして、渋谷を代表するエリアである奥渋や渋南などに続く地域アイコンになることを目指す。

 建物は鉄骨造り(一部鉄筋コンクリート造り、鉄骨鉄筋コンクリート造り)地上23階・地下3階建て、高さ約120㍍、延べ床面積約4万4500平方㍍。総事業費275億円。名称には渋谷と青山方面をつなぎ、多種多様な人が行き交う場所で、交流を誘発する施設になっていきたいという思いが込められている。

 傾斜地であることなどを踏まえ、周辺の坂道との高低差を解消する縦動線や隣接街区と接続するデッキを整備。回遊性向上を図るとともに、周辺施設のエスカレーターやデッキと合わせて利用することにより、渋谷駅から青山方面へ上り坂を歩かずに移動できる。

 駅に直結している複合商業施設「渋谷ヒカリエ」がすぐ裏手にあり、地上2階レベルを屋根付きの歩行者デッキで接続。青山通りを挟んで向かいに立つオフィスビル「渋谷クロスタワー」とも既存の歩道橋を介してつながっている。

 アクシュ内の1、2階の吹き抜けのアトリウムが縦方向の動線になる。早朝5時から深夜25時まで通行可能。

 

 ●商業フロア、広場

 1~4階は商業施設、5~23階はオフィスで構成。商業施設は飲食店のほか、現代アートギャラリー、健診センターなど全15テナント(開業予定の店舗も含む)が入る。

 飲食店はワーカーや周辺の学生が日常的に利用できるカフェやレストランに加え、芸術作品に触れながら食事やワインをゆっくり楽しめるイタリアンなど、幅広い利用シーンに対応する店舗が軒を連ねる。これまで店舗が少なかった青渋エリアで、休憩や食事を通じた人々の交流の場になることを目指す。

 3階のレンタルスペース「階段室(たまりば)」は階段型のユニークな造りで、会議やセミナーのほか、展示会場、ポップアップストア、PRイベントといった用途での利用を想定。イベントを行わない期間は施設に入居するワーカー限定で開放して、休憩などに活用する。

 青渋エリアの歩行者ネットワークをつなぎ、人々が集う空間として、渋谷駅方面と青山方面に玄関口となる広場をそれぞれ整備。渋谷駅方面の広場「SHIBUスポット」では、大型シースルービジョンの設置やキッチンカーの出店などでにぎわい創出を図る。

 青山方面の広場「AOスポット」では、現代アートギャラリーなどを出店するNANZUKAのパブリックアートプロジェクトを通じて、訪れる人々がさまざまな形でアート作品に触れる機会を設ける。年間に数回の展示替えを行う企画展形式により、新たな渋谷カルチャーを発信していく。

 第1弾のパブリックアートはフランス人アーティスト・Jean Jullien(ジャン・ジュリアン)氏が担当。「The Tank(水槽)」と名付けられた作品は、漁師の祖父を持ち海岸の町で育った同氏の幼少期の記憶と空想を膨らませながら、ヒラメ、タイ、アジといった魚たちやカニ、エビ、タコ、海藻などに囲まれて生きる人魚の姿をした生物の物語を表現している。

 

 ●「働く場」としての渋谷

 「渋谷アクシュ」を運営する東急グループは、働く・遊ぶ・暮らすが融合する「渋谷型都市ライフ」の実現を掲げ、まちづくり戦略を展開。今年5月、渋谷でオフィス事業を推進する意義を発信するため「心を踊る世界を、渋谷から。~渋谷のみなさんとともにさらなるフィールドを作り続け、産業と文化の発展をあとおしします~」というパーパスを策定した。「Playwork~渋谷で生きるビジネスに生きる~」をキャッチコピーに、渋谷で働く魅力を訴求する広告やプロモーションを展開している。

 併せて、東急のオフィスビルで働くワーカー向けのアプリ「Shibuya TOQ Pass」を同6月から提供。イベントやグルメの情報を届けるだけでなく、渋谷エリアの約250店舗で優待サービスを受けることができる。

 「渋谷アクシュ」のオフィスフロアは、総賃貸面積2万4950平方㍍、基準階面積約1325平方㍍。働く場としての渋谷の人気も高まりを見せており、100%稼働の状態で開業を迎えた。転職サイト「ビズリーチ」を展開するビジョナルをはじめ、ITや金融、不動産といった多様な業種の企業が入居する。

 3階オフィスエントランスは、壁面の緑化に加えて植栽をふんだんに配置することで、緑あふれる雰囲気となっている。また、ワーカーや来街者が幅広いシーンで利用できるように家具を配置。打ち合わせやワークスペースとしての利用にも対応し、渋谷をホームタウンとする企業にふさわしいオフィス空間を実現している。

 

 ◆東急(株)不動産運用事業部事業推進第三グループ主査

 亀田麻衣氏

 他地域より高いオフィス需要

 ハード、ソフト両面で働きたい街・「渋谷」に

 コロナ禍によるオフィスの縮小、働き方の変化などもあり、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィスの平均空室率は、コロナ前の1%台から2022年には約6・5%まで上昇しました。その後、徐々に回復傾向となり、現在の渋谷区の空室率は約4%で、千代田区に次ぐ低い水準です。

 さらに、渋谷区の24年第1四半期の平均募集賃料は都心5区の中で最も高い水準にあります。渋谷はオフィスの絶対数が少ないという要因もありますが、コロナ後、真っ先にマーケットが戻ってきたことや「渋谷にオフィスを構えたい」と考える企業の多さなどを表しています。

 今回の「渋谷アクシュ」のように開業前に満床になるのは近年、非常にまれなことで、渋谷のポテンシャルの高さを改めて感じています。入居企業の方は渋谷駅の利便性の高さや多種多様な企業がいること、文化が融合された街であることなどを渋谷で働く魅力と考えており、人が集まりやすい立地や最近の流行を肌で感じることなどが評価され、渋谷は働く場所としても独自の個性を持つ場になっています。

 また、電車で10分圏内に人気の住宅街が複数あり、渋谷はQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の高い生活がしやすい環境と言えます。「日本のいま」と隣り合わせで働けることはビジネスにとって非常に大切な要素であり、自分のスタイルで働きやすいことは現在の多様な働き方の中で、ますます大事なポイントになってくると考えています。

 弊社は20年以上にわたり渋谷の再開発を推進していますが、この変化の中だからこそ一度立ち止まり、改めて渋谷でオフィス事業を推進する意義を皆さまに発信していこうと考え、このたびパーパスを策定しました。渋谷はたくさんの企業やプレーヤーにより育ってきた街で、その皆さんが活躍できるフィールドをわれわれがつくることでさらなる産業や文化が生まれ、日本、そして世界の発展に貢献をしていきたいという思いを込めています。

 先月リリースしたオフィスワーカー向けのアプリ「Shibuya TOQ Pass」は、すでに1万3000を超えるダウンロード数となっており、ワーカーさんからの期待の高さを感じています。再開発によるハード面の整備だけではなく、ソフト面でも働きたい街として渋谷を選んでいただけるように、これからもさまざまな取り組みを行っていきます。

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