交通新聞社 電子版

特集 東海交通事業 人が支える案内サービス、地域の足

2023.08.28
JR東海が導入拡大を進めるモニター付きインターホン、券面確認台を備えた㊧近距離券売機と㊨「サポートつき指定席券売機」(JR東海提供)

 お客様サポートサービス10年

 

 JR東海が「集中旅客サービスシステム」として始めた「お客様サポートサービス」は、10月で導入から満10年を迎える。導入駅には近距離券売機の隣にモニター付きインターホン(一部駅を除く)と券面確認台を設置。加えて、新幹線や在来線特急の指定席券の購入ニーズが高い駅には「サポートつき指定席券売機」を備える。いずれもインターホンの先にいるのは案内センターのオペレーターで、その運営を担うのが同社グループの東海交通事業だ。鉄道利用案内の「JR東海テレフォンセンター」、今年3月で全線開業30周年を迎えた城北線とともに、同社が果たす役割を紹介する。(栗原 康弘記者)

 ◆案内センター

 オペレーター、安心感ある伝え方意識

 利用者ニーズ即座に察知

 「お客様サポートサービス」は、2013年10月に武豊線に初めて導入した。その後、17年10月に東海道線岡崎―豊橋間、20年12月に同大府―岡崎間、21年2月に関西線名古屋―桑名間へと拡大。中央線や飯田線の一部駅を含め、導入駅は今年7月現在で28駅にのぼる。来年2月ごろには東海道線名古屋―米原間の9駅と中央線勝川駅に導入する計画で、設備の工事が進められている。

 導入駅は、これまで東海交通事業が駅業務を受託し同社社員1人勤務の体制で運営していた駅が中心。駅窓口での営業がなくなる一方で、駅係員の対応が必要なきっぷ類の発売を、従来は不在時に購入できなかった早朝、深夜や休憩時間などを含め、列車運行時間帯に広げることで利便性を向上させた。例えば、証明書が必要な学生割引乗車券や「ジパング俱楽部」の割引きっぷの購入機会が拡大した。

 駅利用者と遠隔で結ばれ応対するオペレーターは1日9人体制。複数の駅を受け持つため、各駅の特性を踏まえる必要がある。新幹線駅との位置関係、特定都区市内運賃の適用範囲など、駅ごとに置かれている状況は違う。時間帯によって利用者のニーズも異なり、それを即座に察知するコミュニケーション能力が欠かせない。業務知識だけではなく、声の抑揚や安心感を与える伝え方も意識。オペレーターはモニタリングや、責任者との面談を通じて、応対業務のさらなる質的向上を日々図っている。

 遠隔でも親身な応対

 遠隔でのやり取りを考慮した工夫も。オペレーターの名札を駅係員よりも大きくし、画面越しでも見やすくしている。最近では、オペレーターの顔写真入りポスターを作成。一部の導入駅で、券売機の横に掲出している。機械を通じた応対に、一般的には無機質で不安なイメージを抱くことも少なくないことから、親身に接するオペレーターの存在をアピールする。

 

 ◆テレフォンセンター

 JR東海の列車時刻、運行情報、運賃・料金、空席情報などの問い合わせに、電話で対応している。営業時間は毎日6~24時。オペレーターは1日24人体制で案内する。

 コンシェルジュのような存在

 昨今は公式ホームページやインターネット上の検索機能などで、調べる手段は増えている。それでもテレフォンセンターを利用するのは、そうした新たな手段を苦手とする年配の人々ばかりではないという。急いでいるビジネス客、選択肢が多く決めかねている観光客といった具合に、利用者のニーズは多岐にわたる。鉄道での移動に関して的確でスピーディーな案内が期待されており、まさに鉄道旅行のコンシェルジュのような存在。

 次々と受ける電話に、時刻表をめくりながら機敏に応対するオペレーター。JR社員と同様に、鉄道の営業知識・スキルを身に付ける集合研修を経て、業務委託を受けたJR駅に配属され、鉄道営業の現場で出札や改札を通して接客の経験を積んできた。それを生かしながらも、今度は電話という音声、会話のみで応対する難しさがある。

 SNSをはじめ、文字によるコミュニケーションツールを主流とする若者にとって、見ず知らずの人からかかってくる電話でのやり取りは苦手だといわれる。そのため、電話応対ならではの技量や注意点を踏まえてオペレーターを育成。自らの声のトーン、言葉遣い、言い回しはさることながら、利用者ニーズをつかむための聞き取る力、それを基に正確に順序立てて案内する説明能力を養う。

 OJTとしては、録音した実際の応対を上司とともに振り返るフォローアップを定期的に行い、磨きをかけている。さらに外部の力を取り入れ、コールセンター業務の教育専門企業によるスキルとマインド面の向上にも取り組み始めた。

 応対力に一層磨き

 宮本聖一郎駅営業部長の話

 案内センターは、いわば〝駅〟です。JR東海による業務改革で、最新の技術を導入した効率的な経営が進められていますが、テレフォンセンターを含めて、人だからこそできるサポートやサービスの役割はしっかりと果たしていきたいと思います。それが腕の見せどころです。応対力に一層磨きをかけ、安心してご利用いただけるよう頑張っていきます。

 ◆全通30周年の城北線

 日々の安全・安定輸送を追求

 城北線は、枇杷島―勝川間駅の全6駅を結ぶ営業キロ11・2㌔の路線。枇杷島駅でJR東海道線、勝川駅で同中央線に乗り換えできる。1991年12月に部分開業、93年3月に全線開業した。ほぼ全線が高架複線。

 求められる安全水準守る

 駅は全て係員を配置せず、ワンマン運転を行い、車両は気動車1両を1編成として計2両を運用している。ダイヤは平日27往復、土休日19往復。1日に1100人前後が主に通勤通学で利用する名古屋近郊の路線だ。

 城北線の運営に携わる社員は、全系統を合わせても17人。小規模な鉄道ではあるが、会社の大小に関わらず、求められる安全の水準は変わらない。だからこそ、日々の安全・安定輸送を最大のサービスとして取り組む。

 工夫凝らして実践的な訓練

 高架区間で踏切がないなど設備面で安全上の利点がありながらも、運転士は異常時の経験が少ない。そのため、現車訓練を含む実践的な訓練に力を入れている。

 高架という特性に応じたオペレーションとして、駅間停車時の地上への避難誘導のほか、転てつ器の鎖錠や逆線運転を伴う故障車両との併合といった大掛かりな訓練を実施。運転士が使うタブレット端末でフローチャート形式の異常時対応マニュアルを確認できるようにしたり、動画で現場の状況を画面共有できる機能を活用したりと、ICTを導入している。さらに、さまざまな異常時場面の写真を見て急きょの判断や対処法を考える「体認訓練」と呼ばれる訓練を取り入れ、工夫を凝らす。

 接遇面では、JR東海在来線でのサービス向上の取り組み「リアルバリューサービス」をグループ会社として実践。利用者の感謝の声や意見を記録し、喜ばれた接遇を社内で水平展開するほか、さらなる改善につなげる手掛かりとしている。

 物販では昨年、ショッピングウェブサイト「JR東海MARKET」に「城北線ONLINEショップ」を開設。硬券の全通30周年記念きっぷなどを販売し、全国に販路と城北線の認知を広げている。

 生活基盤を確実に担う

 巻田高広鉄道部長の話

 運輸、車両、工務など各系統で日々連携しながらマルチタスクで仕事をして、一体感を持って運行を支えています。限られた人数の中でも機動力を生かした対応を強みに、お客さまの信頼に応え、生活基盤としての鉄道輸送を確実に担い続けていきます。

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