交通新聞社 電子版

特集 東急グループ 新たな実証実験開始 ノウハウ活用、事業創造へ

2023.11.14
「マケプレ」第1弾は韓国ブランドが対象。展示会では個性的なブランドの商品が並んだ

 東急東急電鉄は今秋、自社グループの資産やノウハウを活用した新たな事業の実証実験を開始した。東急では海外ファッションブランドのB2B(法人対法人)向けオンライン卸売りプラットフォーム「makepre(マケプレ)」を10月にスタート、国内バイヤーの登録を始め、オフラインの展示会も開催した。東急電鉄も、駅改修工事などで発生した古材の販売による資材再循環の取り組みを古材日和グループとの連携によりスタートさせた。二つの実証の概要を紹介する。(鴻田 恭子記者)

 

 ■B2Bプラットフォーム「マケプレ」

 マケプレは、東急の「社内起業家育成制度」第9号案件。国内のバイヤーが海外ファッションブランドのアパレルなどの仕入れをECサイト上で行えるプラットフォームだ。立ち上げたのはプロジェクトリーダーの荒川真梨さん以下、石山賢さん、崔有梨さんの3人。いずれも「SHIBUYA109」「二子玉川ライズ」など東急グループの商業施設を運営するSHIBUYA109エンタテイメント、東急モールズデベロップメントで、海外ブランド誘致や海外店舗運営、エンタメ誘致などを手掛けてきた。現在はグループ横断的に事業創造に取り組むイノベーション推進組織である「フューチャー・デザイン・ラボ」に所属する。

 簡単、手軽にマッチング

 マケプレを考案した理由は、海外ブランドと接点を持つ方法がアナログだと感じたことだった。大規模展開を行っていない海外ブランドの誘致や取引は、関係者の伝手(つて)やSNSなどでブランドを探して声をかけるのが基本。現地での交渉も必要になるが、現地に行けば確実に誘致や取引が成功する保証はない。さらに、コロナ禍によりファッション業界の売り上げが落ち込み、出張を伴う海外仕入れが困難な状況も起きていた。

 そこで、簡単、手軽に取引ができるように、ブランドとバイヤーのマッチングを行うオンラインサービスを考案。マケプレ側が日本未展開を含む新進気鋭のブランドをセレクトし、ECサイトで紹介。バイヤーはあらかじめ会員登録(無料、マケプレによる審査が必要)を行った上で、気に入ったブランドにサイトから発注できるというものだ。

 輸入申告・税関審査などの手続きは佐川グループとの連携でマケプレが代行、発注時の翻訳や納品まで一括で担う。請求金額は商品代金のほか、物流費や関税、消費税など実費を請求。収益は海外ブランドからの手数料で上げる仕組みだ。バイヤー側は海外仕入れの時間やコストを削減でき、海外ブランド側は日本とのコネクションを得ることができる。

 マケプレという名称は「マーケットプレイス」の略で分かりやすいという理由もあるが、アルファベットのつづりには、まだメジャーになっていない(PRE)ブランドをつくり(MAKE)、日本に紹介していきたいという思いも込めている。

 実験第1弾は韓国ブランド

 実証実験第1弾は、2024年春夏向け商品として、日本でも取り扱いのあるものから実店舗を持たない個人デザイナーのブランドまで韓国の約30ブランドを展開。韓国側では韓国大手の新世界百貨店、韓国政府機関のKOTRA(大韓投資振興公社)がサポートを担当している。

 10月には東京・渋谷でオフラインの展示会を開催。実際の商品を手に取り、オンラインでは分かりにくい質感や色合いなどを確認する機会を設けた。展示会は来春以降も開催を予定している。

 事業化に当たっての東急グループのメリットは、手数料収入のほか▽リテール分野の事業拡大(B2B進出)▽テナントの商品ラインナップ充実など既存商業施設への波及▽グループと海外との接点づくり――など。将来像として「卸売りからサービスを開始し、海外ブランドの店舗展開のコンサルティング、次世代ブランドの育成なども手掛けていきたい。日本のファッション産業を元気にしていければ」(荒川さん)としている。

 ●社内起業家育成制度

 東急および連結子会社従業員らが提案者となり、新たなビジネスのアイデアを会社に対して提案。選考の進捗に応じ、提案者が専任で詳細を検討する。最終選考通過後は提案者がプロジェクトリーダーとなり事業を推進していく。これまでに会員制サテライトシェアオフィス事業「NewWork」や東急グループふるさと納税「ふるさとパレット」などが事業化され、定着している。

 

 

 ■「ステーションウッド」販売

 東急電鉄が今月開始したのが、池上線池上駅の改良工事で出た古材を「ステーションウッド」として販売する事業だ。販売は古材の収集・販売を目的に、塚田木材(香川県坂出市)など木材・建材販売や製材を手掛ける5社が立ち上げた古材日和グループと連携して行っていく。

 

 池上駅の古材「えきもく」に

 東急電鉄では1922年の開業当初から改修しつつ使われてきた池上駅の木造駅舎を橋上化(2020年完成)する際に確保した古材を「えきもく」と命名。旧駅舎の記憶の継承とともに、廃棄物量の削減、廃材処理時の二酸化炭素(CO2)削減につなげようと、「みんなのえきもくプロジェクト」の名称で、ワークショップなどで活用してきた。えきもくはベンチや現在の池上駅の装飾、大井町線等々力駅ホームの店舗の装飾や東京・大井町エリアにある「PARK COFFEE(パークコーヒー)」の店舗の内装などにも使われてきた。

 

 確保した古材6割ほど消費

 こうした取り組みで、すでに確保した古材の6割ほどを消費し、残るは4割、約5立方㍍となった。この活用方法として出されたのが、「ステーションウッド」としての付加価値をもった古材販売だった。古材は古民家などの解体時に出され、そのまま廃棄されることが多かった。しかし、素材として見た場合、適切に維持されていたものは乾燥が進み強度も高まっている。駅で使われていたものは、安全面や美観維持などの観点からきちんと管理されていたため、質のいい古材となる可能性が高い。

 古材はリフォーム時に味わいを出せる素材であり、環境負荷も小さいことから使われてきたが、2021年のウッドショック(木材不足による価格高騰)で、より見直されるようになった。池上駅のものは、柱や梁(はり)などに使っていた杉、松などの材が中心。くぎなどの金具類は抜くものの、塗装などはあえて残している。古材そのものの販売だけでなく、古材を組み合わせたテーブル天板の制作といった加工についても対応する。

 

 南町田のイベントにも出展

 今月3~5日には南町田グランベリーパーク(東京都町田市)でのイベントにも出展、古材販売をアピールした。駅で使われていたものの再活用ということで、古材に興味のある人だけでなく、池上駅を利用していた人が足を止めてくれたそうだ。

 同社には池上駅のほかにも木造の駅構造物がある。横尾俊介鉄道事業本部工務部施設課・経営戦略部CSR環境経営推進課主査(フューチャー・デザイン・ラボ超循環型社会PJ担当)は「古材の活用の可能性を、えきもくプロジェクトとステーションウッド販売の両輪で探っていきたい」としている。

 

 ●木になるリニューアル

 東急電鉄は池上線の駅のホーム屋根建て替え、駅舎内外装などの改修に、東京・多摩地区で生産された木材「多摩産材」を活用する「木になるリニューアル」も展開している。こちらは沿線に昔ながらの商店街が残る池上線の駅改築にあたり、温かみのある木を多用する方針を掲げたもので、すでに戸越銀座、旗の台、長原の3駅で実施している。木を使うことで親しみやすい雰囲気となるだけでなく、鉄骨材と比較して建設時のCO2排出量を削減でき、CO2の固定化(木材を使用することで木が吸収していたCO2を排出しない状態を維持できること)などにつながっている。

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