往時の“姿” 今も・・〝究極のブルートレイン〟「夢空間」
1991年1月、ある鉄道車両が運転を開始した。「夢空間」である。3両編成の豪華な客車は2008年3月の引退まで全国各地を走った。鉄道車両は一定の役目を終えると、博物館で展示されるケースはあるが、解体されることが多く、現役当時を知るためには各種資料、写真、映像などで確認するしかない。かつてない豪華な鉄道の旅を演出した夢空間は、その後のバブル経済崩壊に端を発した旅行スタイルの変化、レジャーの多様化などもあって、その役目を静かに終えていく。だが、一世を風靡(ふうび)した夢空間は〝歴史の一証人〟として現存しており、ショッピングセンターでの憩いの空間として、レストラン施設の一部として活躍している。
憩いの空間、レストラン施設に
1988年10月、フジテレビの企画で〝来日〟し、日本国内で運転された「オリエント急行」が、折からのバブル経済の波にも乗り、日本に豪華列車ブームを巻き起こす。当時は88年3月から運転開始した上野―札幌間の特急「北斗星」が新たな寝台列車として人気・話題を集めていたこともあった。JR東日本では89年3月に〝究極のブルートレイン〟とも称された豪華客車を新造する。
豪華客車は89年の「横浜博覧会」開催に合わせて根岸線桜木町駅前のブース(夢空間 ’89 )で展示。90年10月の「国際鉄道安全会議」では特別列車として招待客を輸送した。その後は京葉線海浜幕張駅前でレストラン施設として活用されたが、91年1月10日から「北斗星トマムスキー」号に併結する形で旅客営業運転を開始した。名称を「夢空間」とした。
夢空間は、オロネ25901「デラックススリーパー(寝台車)」、オハフ25901「ラウンジカー(スープリモ)」、オシ25901「ダイニングカー(食堂車)」の3両で構成される。
芸術作品のよう
オロネはA寝台車で2人用個室「エクセレントスイート」1室、「スーペリアツイン」2室、全室にバスルームを設置したもので、車両製造は日本車輌製造、内装は髙島屋が担当した。オハフは車内にバーラウンジを設け、ソファや自動演奏装置付きピアノを備えたロビーカーで、車両は富士重工業、内装は百貨店の松屋が担当した。オシは展望室のあるダイニングカー(食堂車)で、車両は東急車輛製造、内装は東急百貨店が担当した。車両メーカーの技術の粋とバブル期の豪華絢爛(けんらん)を演出した大手百貨店とのコラボレーションによる、まさに芸術作品でもあった。
日本各地を走る
客車列車のため自走することはできず、電気機関車けん引の「北斗星」と連結されて北海道方面の「夢空間北斗星」号として、東北、北陸、大阪、山陰方面でも運転された。夢空間は、今日の「TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」「ななつ星 in 九州」に代表されるJRグループ各社のクルーズトレインの先駆けとなった。
穏やかに人に寄り添う
SC内の休憩場所や都内仏料理店で〝余生〟
2008年3月に惜しまれつつ引退。ラウンジカーとダイニングカーの2両は武蔵野線新三郷駅前の武蔵野操車場跡地を活用して09年にオープンした三井ショッピングパーク「ららぽーと新三郷」(埼玉県三郷市新三郷)で展示され、ラウンジカーは買い物客の休憩場所として利用されている。車内には今でもピアノが置かれ、カメラに収める人の姿も。ダイニングカーは車内に入ることはできず、外観だけ見ることはできる。
また、デラックススリーパーは、11年12月に東京都江東区木場の洋食・フランス料理レストラン「A ta gueule(ア・タ・ゴール)」に移設され、翌年2月からラウンジとして使用されている。同レストランのオーナーシェフ・曽村譲司氏は日本人で唯一、オリエント急行のシェフを務めた経歴があり、ホームに停車するイメージで、店内からデラックススリーパーを見ながらの食事が楽しめるという。
いずれの車両も屋外展示・設置のため、雨風などにさらされ、車両外観の傷みが目立ち、きらびやかな往時の姿はない。ラウンジカー車内は改修されている。
あす10月14日は「鉄道の日」。明治維新後の1872年、日本で最初の鉄道が新橋―横浜(桜木町)間で開業したことを祝い、記念する日。鉄道の一時代を築いたこの客車に思いをはせてみるのもいい。
検索キーワード:東急
317件見つかりました。
1〜20件を表示
-
2024.07.26 民鉄・公営・三セク 予定・計画・施策
東急 株式インセンティブ制度導入 東急と東急電鉄社員対象に
東急は24日、同社と東急電鉄の全社員約5500人を対象に「株式インセンティブ制度」を導入すると発表した。
-
2024.07.26 民鉄・公営・三セク 施設・機器
東急 学芸大学駅高架下リニューアル 7月から順次オープン
コンセプトは〝まちの縁側〟 カルチャー、食、オフィスなど3エリア 東急が2021年から進めている東急電鉄東横線学芸大学駅高架下のリニューアルプロジェクトで、今
-
2024.07.25 その他業種分類 記録・調査・統計
ウイークリー・メモ 24年7月15~21日
◇7月15日(月) ◇16日(火)=JR東日本、JR東海、JR西日本と、北陸三県誘客促進連携協議会、北陸観光協会が観光キャンペーン「Japanese Beau
-
-
2024.07.19 民鉄・公営・三セク 予定・計画・施策
東急など 「IMMERSIVE OOH」の実証実験
3D音声で没入体験 新たな交通広告 東急と東急エージェンシーは、360度全方位からの音声で没入感のある立体的な音響を体感できる「イマーシブ3Dサウンド技術」と
-
2024.07.18 JR東日本グループ 予定・計画・施策
日本線路技術が開発「RAMos+Ⓡ」 6社に拡大
JR東日本グループの日本線路技術(NSG)が開発し、JR東日本、小田急電鉄、東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)の4社に2023年度から導入されている複数の鉄道
-
2024.07.17 その他業種分類 コラム・企画類
ティータイム 音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」詩羽さん
新しい文化をつくる一体感 今年4月に開業した東京・原宿の東急プラザ原宿「ハラカド」では、クリエーターとの共創作品第1弾となるショートフィルム「HARAKADO
-
2024.07.16 その他業種分類 記録・調査・統計
月間日誌 24年6月
【国土交通省関係】 国土交通省が2024年版「交通政策白書」を公表(18日) 国交省が24年版「首都圏白書」を公表(18日) 観光庁が24年版「観光白書」を公
-
2024.07.12 民鉄・公営・三セク 施設・機器
東京メトロ 介護付き有料老人ホーム「チャームスイート旗の台」
東京地下鉄(東京メトロ)と東京メトロ都市開発は1日、グループ初の介護付き有料老人ホーム「チャームスイート旗の台」(東京都大田区)をオープンした。
-
2024.07.12 民鉄・公営・三セク 人事異動・組織変更
東急人事 7月1日付
東急(1日付) 取締役・専務執行役員・都市開発本部管掌・都市開発本部長・都市開発本部都市戦略事業室長(取締役・専務執行役員・都市開発本部管掌・都市開発本部長)
-
2024.07.12 民鉄・公営・三セク 予定・計画・施策
東急など お出かけグリーンアクション『OFF&GO』」を展開
東急と東急カード、東急モールズデベロップメント、東急パワーサプライ、東急電鉄、環境省地球環境局デコ活応援隊(脱炭素ライフスタイル推進室)は15日から、環境に配
-
2024.07.12 民鉄・公営・三セク 予定・計画・施策
東京臨海高速鉄道 日本科学未来館タイアップ企画
東京臨海高速鉄道と日本科学未来館(東京都江東区)は10日から、同館の特別展「刀剣乱舞で学ぶ日本刀と未来展―刀剣男士のひみつ―」とのタイアップ企画を実施している
-
2024.07.11 その他業種分類 コラム・企画類
交通ニュースアイ JR渋谷駅改良プロジェクトなど受賞 23年度土木学会賞決まる
北陸新幹線の金沢―敦賀延伸、相鉄・東急直通線の開業といった鉄道の新規プロジェクトで基盤を支えるのが土木技術です。
-
2024.07.09 政府・省庁・鉄道運輸機構 予定・計画・施策
国交省 都市鉄道整備の促進に向け検討 受益主体や費用負担の考え方を整理
国土交通省はこのほど、2月から議論を重ねていた「今後の都市鉄道整備の促進策のあり方に関する検討会」(座長・山内弘隆武蔵野大学経営学部特任教授)のとりまとめを公