特集 JR東海 機械技術センター 幹在共通で一元的に管理
状態監視保全を推進
機械設備約1万8000台を所管
リアルタイムに把握/故障時、遠隔で復旧も
JR東海は昨年7月、名古屋市に「機械技術センター」を設置した。東海道新幹線と在来線全12線区に関する約1万8000台の機械設備を一元的に管理する現業機関だ。従来は新幹線と在来線で所管が分かれ、担当社員も地区ごとに分散していた機械部門。2021年度に導入した機械状態監視システム「アルテミス」の活用をベースとして、設備の種類ごとに専門性を持った担当者が同センターに集まり、幹在共通で効率的に管理する形に移行した。機械部門における状態監視保全の確立を推進する中で、同センターが果たす役割について、中野久司所長に聞いた。(栗原 康弘記者)
「検修」最適化へ故障前に修繕
同社は、ICT(情報通信技術)などの最新技術を活用して効率的な業務執行体制を構築する「業務改革」に取り組んでいる。状態監視技術を活用した検査・修繕もその一環で、車両や線路設備、電気設備などの分野で導入が広がる。
機械部門では、さまざまな用途で機械化が進む中、機械設備の種類、台数がともに増大する状況を受け、検修業務の最適化が求められていた。そこで、21年4月に機械状態監視システム「アルテミス」を導入。定期検査や故障発生後に修繕する体制から、稼働状態を遠隔でリアルタイムに把握して必要に応じた修繕を故障前に行う状態監視保全へと舵(かじ)を切った。
その中枢をなす拠点が、昨年から稼働した「機械技術センター」だ。所管する機械設備は、出改札機器やホーム可動柵、昇降機(エレベーター、エスカレーター)、空調機器、鉄道車両の不具合を検知する装置、検修設備など、東海道新幹線と在来線全12線区にわたる約1万8000台。列車運行に関係する設備から、駅利用者が直接使う機器に至るまで約6000種類に及ぶ。
同センターは主に、状態監視による機械設備の安定稼働、検修計画の策定、現場作業の安全確保、異常時対応に関する業務を担う。各設備担当は、アルテミスによって集められたデータを分析し、故障の予兆を解析したり、閾値(しきいち)を設定したりして新たな設備保守の方法であるCBM(状態基準保全)を推進。検査の代替や周期延伸などを検討して、保守費の低減を含んだ効率的な管理を目指している。
24時間体制で異常時の起点
センターの一角には「設備管理センター」を置いた。社員が常駐し故障の連絡を受け付けるとともに、24時間体制でアルテミスを活用した設備監視を続け、異常時対応の起点となる。重要な機械設備4000台以上の情報がネットワーク化されたアルテミスでは、あらかじめ設備の状態を9段階に分類。一定レベルに達すると、設備管理センターではアラームが発報し、 同時に3段階の区分に応じて3色のランプのいずれかが点滅して監視員に異常を知らせる。
タブレット端末で現地共有
故障対応では、一部の設備は遠隔操作による復旧が可能。現地での対応が必要な場合は、迅速な復旧に向けて設備管理センターがいわば指令塔になり、同社グループの東海交通機械に修繕を依頼するとともに、要員配置された地区の派出に対して現地に急行するよう指示する。アルテミスを利用できる業務用タブレット端末を現地に携行すれば、情報が共有でき、作業をスムーズに進められる。
主な設備には監視カメラを設置しており、故障発生時のほか、リアルタイムでも映像で確認できるため、現状の把握や原因の特定に役立っている。例えば駅のエスカレーターの緊急停止時は、東海交通機械の出動を待たずに、映像を基に設備管理センターと駅社員との連携で対処できるケースがあり、ダウンタイムの抑制につなげている。
状態監視保全を推進する上で、データを分析する社員には設備に対する高い専門性が求められる。だからこそ、単にデータと向き合うだけでなく、現地や現物を知ることが大切になる。採取したグリース(潤滑剤)の成分分析、取り換えた部品の解体など、現地や現物の調査から得られるものは大きい。これらの情報をしっかりと加味し、アルテミスのデータと突き合わせることで、より的確な状態把握に努めている。
こうした積み重ねは、異常を知らせるアラームの発報レベルの判断基準や閾値の設定などに生かされる。状態監視保全の体制を一層強固にしていくために、故障の予兆を早く、正確に捉えることは重要だ。機械技術センターの社員はこれからも、データ分析のスキルアップを続ける。
■インタビュー
JR東海機械技術センター所長 中野久司氏
データ分析、傾向つかむ
部門全体の対応力向上へ
――センターの運営に当たって目指していることは。
中野 鉄道の現業機関ですので、まずは関係会社と一体となってお客さまと列車運行の安全を最優先に考えることが大前提です。その上で、われわれが保守する機械設備の安定稼働とコストの低減を目指すことが、組織としての使命だと認識しています。
――中でも重視している点は。
中野 機械技術センターは、状態監視保全を推進していく中で誕生した新しい組織です。故障内容の分析をしっかりと行い、故障傾向をつかんで対策を講じていくことが重要だと考えています。一例を挙げれば、アルテミスの設備状態レベルでアラーム発報に該当する部分の確認だけではなく、ログとして残された記録にも目を向けて、予兆の把握に使えるものはないか探すようなことに取り組んでいます。コストは、故障対応が減れば、必然的に抑えられます。
――センターの社員に求めていることは。
中野 固定概念にとらわれず、物事をよく見てしっかりと考え、積極的にチャレンジしていこうと呼び掛けており、それぞれのアイデアを尊重しています。自らの職場にとどまらず広い視野で捉えて、機械部門や会社全体、社会的な視点から、より良い方向になるように業務に取り組んでほしいと考えています。
――今後の運営に対する考えは。
中野 状態監視保全に向けた取り組みを着実に推進しながら、異常時の対応の必要性を感じています。検修や設備運転など定例・定型的な業務は外注化していますが、天災が発生した時に現業機関として対処することが求められます。東海交通機械による対応が困難な状況において、直轄で仕事ができることが大事です。設備の応急復旧や点検、異常時の調査、調整など各種訓練の充実を図ります。東海交通機械とも協力して取り組むことで、機械部門全体の対応力アップに努めていきたいと考えています。(K)
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