特集 JR九州 速達性で勝負! 列車荷物輸送サービス
物流の新たな価値アピール
全国的に鉄道やバスによる貨客混載輸送が注目される中、JR九州も新幹線や在来線特急を活用した荷物輸送サービスに力を入れている。トラック輸送のドライバー不足を補うとともに、より早く荷物を届ける速達性を強みにした新たな事業基盤の構築を進めている。担当者の話を交えながら、取り組みの現状や見えてきた課題、同社が目指す事業の姿を紹介する。(松尾 恭明記者)
さまざまなトライアル展開
輸送ニーズに手応え
荷役対応、難しさも
これまでの取り組みを振り返ると、2021年5月に九州新幹線博多―鹿児島中央間で、車内の業務用スペースを利用した荷物輸送サービス「はやっ!便」をスタートし、22年1月から博多―熊本間に拡大。現在は3辺の計(センチ)が最大140サイズ、重さ15㌔までを対象に、博多―鹿児島中央間は最速2時間35分、同―熊本間は1時間50分で各駅に届ける。
サービス開始に合わせて、鹿児島の生鮮食材や福岡の和菓子、フルーツなどを「はやっ!便」で相互に運び、博多、鹿児島中央各駅で販売する産直市「つばめマルシェ」を定期的に開催している。21年10月には従来の通販では取り扱えなかった鹿児島の鮮魚や福岡の生菓子、焼きたてパンを個人向けに販売する「お取り寄せっ!便」も始めた。
そのほか、鹿児島県奄美大島からフェリーと、熊本県天草エリアからバスと新幹線をリレーした輸送、途中停車駅での積み込み、客室1両を使った大ロット輸送をはじめ、さまざまトライアルを実施。今年7月からは法人向け即日配送を開始し、ニーズの開拓に力を入れる。
当初からこの事業に携わる同社鉄道事業本部営業部営業課副課長の新山夏江さんは「たくさんの種をまいてきましたが、なかなか芽が出ないというのが率直な感想です。地面ぎりぎりまで来ている感触はありますので、もう一押しです」と現状を総括する。
さまざまなセールス先で物流の新たな価値をアピールすると、多くが興味を示し、ニーズに対する手応えは感じている。「ただ、皆さんにとって物流はすごく大事で、それを急に明日から変えますという話にはならないと、最近実感しています。お客さまとは半年や1年ぐらいかけてじっくり話をする必要があります」と話す。
課題の一つに挙げるのが、駅周りの設備が物流に適していない点。小さな単位には対応できるが、モーダルシフトによる大ロットでは効率性が下がり、「新幹線だけだとスピードで勝てるが、どうしても両端が足かせとなり、せっかくの速達性を損なってしまう」。設備改修には高いコストがかかるため、現在は台車などの改良に取り組む。
荷役の問題も大きい。各駅の荷役は主にJR九州商事が担い、一部の駅では駅社員が行っている。しかし、これらは全ての駅を網羅していないため、積み降ろしを希望する駅によって輸送ニーズに応えられないケースも少なくない。
「新幹線で運ぶ」ブランド化
需要開拓へ知恵絞る
法人向け即日配送
福岡市内に物流倉庫を持ち、九州各地の在庫をカバーする企業も多く、そこをターゲットに今年7月に始めたのが、九州新幹線を利用した博多発の法人向け即日配送「ウルトラはやっ!便」だ。
IT関連企業を中心に一定数の需要があるものの、熊本ではなく荷役を確保できない新八代での荷降ろしや、新鳥栖から載せたいという要望もあるとか。「もっと増やしていきたいが、荷役がカバーしていないと受けられません。ニーズがあるのに、ちょっとしたパズルが合わずに契約につながらないケースも多いです」ともどかしさを感じている。
JR西日本と行う山陽・九州新幹線の連携輸送は、鹿児島から大阪まで毎月1、2回程度、鮮魚を運ぶ。消費地の大阪エリアで定期的に一定量を仕入れてくれる取引先の開拓が、今後のポイントとなる。
一方、JR九州フードサービスでは、「はやっ!便」を活用して毎朝熊本、鹿児島から作りたての駅弁を直送し、博多駅コンコースの売店で販売している。輸送費を同社と弁当製造会社が折半して負担することにより、新幹線で約250㌔離れた鹿児島限定の人気駅弁を現地価格で販売できている。
マルシェでニーズ検証
「つばめマルシェ」は、荷物輸送のテストケースを実施する場と位置付け、消費者ニーズを検証しているが、購入者の半分ほどをリピーターが占めるという好評ぶりだ。時折店頭に立つ新山さんも「顔なじみのお客さまに声をかけられると、うれしいですね」と話す。
当日朝に作ったスイーツや朝採れ野菜、朝締め鮮魚などが人気で、「お客さまは新鮮なもの、おいしいものにはちゃんとお金を出します。付加価値をどのように提案するかで、購買意欲が変わることがよく分かります」。
福岡エリアでの地元特産品のPRにつながるとあって、九州各地の自治体からの引く手は数多い。今年2月に新幹線物流の推進による鹿児島県産品の販路拡大について連携協定を結んだ鹿児島県とは、9月に2日連続でマルシェを開催。初日は通常のマルシェ、2日目は新幹線輸送を条件に県主催で行われた。
また、最近では博多駅のマルシェで福岡のホテルや飲食店のシェフに各地の食材を試してもらい、商談の場にも活用するという〝一石二鳥〟の役割を担っている。
今年9月からは、JR九州と羽田市場(東京都大田区)が物流パートナーとしてタッグを組み、鹿児島県甑島で水揚げされたきびなごをフェリーと九州新幹線で当日中に博多まで運び、福岡市内の飲食店で提供している。
速達・新鮮さ前面に
この取り組みに関して、新山さんは「羽田市場にとどまらず、朝水揚げされたきびなごが福岡や大阪で味わえるのは、新幹線で運んだものに限るといったブランド化を図りたい」と語る。例えば「新幹線きびなご」と書かれた商品は、間違いなくその日の朝に獲れたものという具合で、「そのような食材を本年度から増やしていきたいと思っています」と意欲を見せる。
将来展望
事業の将来展望について、新山さんは「長いスパンで育てていくことが大切で、最終目的は鉄道事業の固定費を活用して人流に依存しない新しい事業の一つの柱をつくることです。運ぶ以外の分野をもっと勉強し、それを踏まえてオリジナルの物流にしていきたいです」と語る。
その上で「個人的には、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)なども視野に入れ、将来のスケールアップを描いていますが、まずは早くベースとなるコアの部分を固め、列車荷物輸送サービスを軌道に乗せたいと考えています」とさらなる基盤強化に取り組む。
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