交通新聞社 電子版

特集 JR九州 日田彦山線BRTひこぼしライン1周年

2024.08.29
日田方面への通学の利便性を高めたBRTひこぼしライン(JR九州提供)

 利便性アップ、堅調推移

 JR九州初のBRT(バス高速輸送システム)として、28日で運行開始から1周年を迎えた日田彦山線BRTひこぼしライン(添田―日田間)。使いやすさを目指した柔軟な運用や沿線地域との連携による利用促進策などが奏功し、乗客数は堅調に推移している。担当者の話を交えながら、この1年の動向や取り組み、見えてきた課題などを紹介する。(松尾 恭明記者)

 

 1日平均290人利用

 代行バス時代の5倍の乗客数

 ひこぼしラインは、福岡県添田町と東峰村、大分県日田市にまたがる約40㌔区間。このうち彦山―宝珠山間の約14㌔が線路跡の専用道区間で、そのほかは一般道を走行している。

 運行体系は沿線住民によるアンケート結果を基に決めており、1日上下計32本(下り15本、上り17本)を運行する。BRT駅(バス停)は従来の鉄道駅(12駅)に、病院前や量販店付近などを加えた全36駅ある。

 この1年間の利用状況をみると、乗客数は1日平均約290人で、開業前の代行バス時代の同約60人に対して約5倍に増えている。開業344日目の今月5日には累計10万人を突破した。

 開業準備から携わる同社鉄道事業本部営業部企画課副課長の西羅悠平さんは「事前アンケートや代行バス時代から要望のあった朝通学の運転ダイヤの見直しなどで、お客さまに便利な乗り物と感じていただき、堅調な利用につながっていると思います」と総括する。

 通学利用に対しては、主に筑前岩屋―大鶴間のエリアから日田市内の高校に通うニーズが高いため、従来の学校の始業時間に合わせて添田6時25分発(日田8時3分着)「ひこぼし1号」を新設。これにより、筑前岩屋6時15分発(日田7時23分着)と2便体制をとる。

 光岡―日田間は通常直行ルートを走るが、この2便はBRTの柔軟性を生かして、高校前や市役所前などに迂回する「高校ルート」を運行。今年3月のダイヤ改正では「ひこぼし1号」について、学生から始業時間に合わせて到着を早めてほしいとの要望に応え、出発・到着時刻を5分繰り上げた。

 

 要望に応えるルート、ダイヤ

 さらに、高校ルートは学生のみならず、日中の利用者からの要望も高く、同じく3月に日田発の上り3便を高校ルートに変更。これにより、上り便では午後の日田発8便全てが高校ルートを走り、利便性はぐっと高まった。

 こうした取り組みにより、代行バス時代は15~20人程度だった学生の利用は、本年度は45人程度に増加。以前は日田17時30分発の次が20時発だったのに対し、BRTで同18時37分発を設定したことで、「部活に入れるようになったとの声も聞かれます」。

 また、上り最終の日田21時20分発(筑前岩屋22時20分着)「ひこぼし104号」はビジネス客に好評で、「代行バス時代は最終便が20時頃だったため、日田で商談後に懇親会をやるとタクシーで帰宅していたのが、BRTで帰れるようになったと喜ばれています」と話す。

 このほか「BRTで大幅に駅を増やしたことによって、短区間に乗るケースも見られるようです。これは鉄道時代にはできなかったことで、地域の足として活用されていることの表れだと思います」。

 鉄道(日田彦山線)との対面乗り換えを行う添田駅での接続時間も一部見直した。「バスにトイレがないため、当初は添田駅でトイレを済ませている間に列車に乗り遅れる方がいたため、接続時間に余裕を持たせました」

 

 行楽・観光目的も

 一方、開業以降、九州初のBRTへの関心も高いようで、添田―日田間を乗り通す沿線外からの利用者も多いという。「『青春18きっぷ』を使って乗車できることも、乗り物ファンの皆さんにとって、乗るきっかけになっているかもしれません」

 添田町にある「道の駅・勧遊舎ひこさん」(最寄り駅・勧遊舎ひこさん駅)は地元の名産品などを販売しており、沿線住民の来店も多い。「運転士にヒアリングすると、東峰村や日田市の方が休日に少し遠くへの買い物や日帰り旅行として道の駅まで出かけるケースが見られると聞いています」

 観光目的の利用者は春・秋の行楽シーズンにピークを迎える。沿線の豊かな自然は春に新緑、秋には紅葉と表情を変え、気軽な散策に最適だ。登山やハイキングでは、筑前岩屋駅から霊山・英彦山の峰に建つ英彦山神宮を目指すコースが定番となっている。

 繁忙期には小型のEV(電気)バスでは対応できず、続行便を走らせることも少なくない。「混雑が激しい時には日田から添田まで立ちっぱなしだったとの声もいただきました。大変申し訳ないことで、柔軟な運用と混雑緩和のために4月から中型ディーゼルバス1台を追加しました」

 

 地域と連携した利用促進策

 今年4月には大分県の主導で、BRT沿線3市町村の五つの酒蔵が連携・協力して、「ひたひこ沿線酒蔵巡り~BRTに乗ってほろ酔い旅~」イベントを開催。JRグループの大型観光キャンペーン「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」とも重なり、多くの参加者が各地を訪れた。

 これに合わせて、JR九州バスでは続行便を運行して輸送力増強。JR九州も社員を各会場に配置して案内誘導に当たり、「協力体制を確認するとともに、沿線 地域との連携や親交を深める機会になったと思います」。

 東峰村では4月からオンデマンドバス「のるーと」を活用した乗合タクシーの有料運行を開始。村内を1区間300円で乗車でき、BRT駅からの二次アクセスとして一層の利用が期待される。

 九州の交通事業者が取り組むMaaS(マース)のプラットフォームとなるアプリ「my route」では、デジタルチケットとして「BRTひこぼしライン 1DAY満喫フリーチケット」を販売。大人860円(子ども半額)で添田―日田間が1日乗り放題となる。

 このチケットはBRT開業に合わせて実証実験として始まり、今年3月のリニューアルで3市町村が県域を越えて連携。価格は据え置いたまま、3市町村で使える特典クーポンが13個から66個と5倍以上に増え、利用機会は大幅に拡大している。

 この間、BRTの運用面の柔軟性が生かされた事例もある。今年7月に日田市の国道386号で、大雨による増水の影響で花月川に架かる三郎丸橋の橋脚が傾き通行止めに。同橋りょうは夜明―光岡間の運行ルートに含まれているため、現在も迂回を余儀なくされているが、「鉄道なら不通となりますが、迂回して運行を続けられる点もBRTならではの強みです」。

 ひこぼしラインでは、目指す〝やさしい交通機関〟として、EVバス4台を運用しているほか、昨年11月から福岡県などとともに水素を活用したFC(燃料電池)バスが運行開始。全国から視察に訪れる自治体、交通事業者の関係者も多く、環境にやさしい路線としても注目されている。

 

 便利な地元の〝足〟さらなる周知課題

 2年目以降のひこぼしラインについて、西羅さんは「改めて災害の多い地域という認識があるため、やはり安全最優先の運行が第一です。課題としては日常利用が少し物足りなく感じており、地元でもまだ乗ったことのない方がいるのではないでしょうか。その点ではまだ伸びる余地があると思います」と語る。

 その上で「自宅から駅までのアクセスの問題もありますが、便利さを知ってもらい、地域交通として多くの方に乗っていただいてこその持続可能性ですので、末永く続いていけるように地域と一緒に取り組んでいくというのが私の願いです」。

写真説明

日田方面への通学の利便性を高めたBRTひこぼしライン

やさしい交通機関として活躍する小型EVバス

昨年12月に福岡市で開かれた福岡モーターショーに出展し、人気を集めたひこぼしラインのFCバス

行楽シーズンには多くの観光目的の乗客でにぎわう

通称・メガネ橋を走行中は周辺の美しい景色も楽しめる

添田駅での鉄道との接続時間に余裕を持たせた

BRTひこぼしラインに開業前から携わる西羅さん

検索キーワード:JR九州

822件見つかりました。

41〜60件を表示

<

>