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交通ニュース・アイ 2023年の鉄道イベント 印象に残った3つの場面

2023.11.02
鉄道事業者らしくリレーのバトンはタブレット。銚子駅ではJR東日本の土澤壇執行役員・千葉支社長・千葉支社鉄道事業部長(左)から銚電の竹本勝紀社長に手渡されました

 今年も残すところ1カ月余。昨年は「鉄道開業150年」で大いに盛り上がった日本の鉄道界、年が改まっても勢いは衰えず、盛況のうちに次の100年に向けた最初の一歩を踏み出しました。

 3年余のコロナ禍を経て変わったこと。全国の鉄道事業者が〝お得意さま〟といえる愛好家に向けたイベント列車などの企画を、積極的に打ち出すようになったのは多くの方が実感するところでしょう。今回は若干のフライングを承知で、23年の鉄道イベントを総まくりしてみます。

 

 ■広島から銚子へ〝100周年〟バトン 「新幹線リレー号」も一役

 銚電100周年記念「バトンリレー号」

 7月8日 成田-銚子間は185系で運転

 路線は銚子―外川間(6・4㌔)のミニながら、話題の数なら大手事業者にも負けない千葉県の銚子電気鉄道(銚電)。今年、開業100周年を迎えました。

 記念イベントとして、昨年8月に宮島線が開業100周年を迎えた広島電鉄(広電)から銚電へバトンリレーが企画されました。

 特別に運転された列車が「バトンリレー号」で、行き先は広島発犬吠行き。といっても1本の列車が全線走破するわけでなく、広島空港―成田空港間はLCC(格安航空会社)のスプリング・ジャパン、成田―銚子間はJR東日本、銚子―犬吠間は銚電のそれぞれ臨時列車がつなぎました。

 注目したいのがJRの185系電車。デビューは国鉄時代の81年で、一時代前は伊豆方面の特急「踊り子」などでおなじみでしたが廃車が進み、今夏時点で残るのは6両編成2本だけ。珍しい車両の登場に、始発・成田と終着・銚子の両駅、そして沿線では多くの愛好家がカメラを構えました。

 しかし、そうした人たちは185系がリレー号に充当された本当の理由を知っていたのか、知らなかったのか。40年前の話ですが、東北・上越新幹線は最初から東京、上野が始発ではありませんでした。

 東京都内の用地買収の遅れなどから、82年6月に開業した東北新幹線、同11月開業の上越新幹線は、85年3月の上野延伸開業まで大宮駅が始発でした。

 この間、新幹線を快適に利用してもらおうと、国鉄当局がひねり出したのが「新幹線リレー号」です。上野-大宮間の直行列車で、原則東北・上越新幹線利用客だけが乗車可能、車両は特急仕様の185系でした。

 今回はそうした歴史も踏まえ、かつての新幹線リレーがバトンリレー号の大役を受け持ちました。185系は今夏以降も、イベント列車や撮影会に引っ張りだこです。

 

 ■秋晴れの川根路  

 僕らのSL列車が走った!

 日本ナショナルトラスト親子ボランティア2023

 10月14日 SL磨き、仕組み学ぶ

 今年の鉄道イベントで頻繁に見かけるフレーズ、それが「4年ぶり」です。20年初にコロナ禍が発生し、多くの催しは3年余の間、中止を余儀なくされました。

 コロナの法令上の位置付けは今年5月から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行。平時に戻ったのに伴い、多くの定例イベントが再開されました。

 復活イベントの多くは盛況を極めているようですが、理由を考察。日本の鉄道はコロナ禍の間も東海道新幹線「N700S」デビュー(20年)、「西九州新幹線開業」(22年)など、常に話題を発信し続けてきました。

 鉄道界は大きな危機を、業界の総意で乗り切ったという見方も可能なように思います。

 そんな復活イベントの一つが、「鉄道の日」の10月14日に静岡県の大井川鐵道(大鐵)で開かれた「親子ボランティア2023」。主催は、JRグループが活動を支援する日本ナショナルトラスト(JNT)です。

 歴史ある鉄道車両を保存する「トラストトレイン」の活動として、大鐵ではSL1両(C12)と客車3両(「スハフ43」2両、「オハニ36」1両)を保有します。

 年1回の親子ボランティアは、本来はJNT会員を中心とするファミリーが、SLをピカピカに磨く活動です。今回は大鐵の車両運用の関係で実施は見送られたものの、代わってSL教室が開かれ、参加者は機関車の動く仕組みなどを楽しく学びました。

 大鐵は昨年9月の局地的集中豪雨で大井川本線が被災。1年を経過した現在も、川根温泉笹間渡―千頭間の運休が続きます。

 教室を終えた参加者は、片側にSL、反対側に電気機関車(EL)を連結したプッシュプル運転の客車列車で、新金谷―川根温泉笹間渡間を往復。思い出深い秋の一日を過ごしました。

 ■鉄道愛好家ゼロでも超満員イベント列車

 新京成「ふなっしートレイン」ラストランイベント 3月28日

 鉄道事業者の催しにやってくるのは多くが鉄道愛好家。何をいまさらという当たり前の話ですが、時には鉄道好きがほぼ皆無という珍しいイベント列車もあります。

 千葉県の新京成電鉄が、3月28日に実施した「ふなっしートレイン」ラストランイベント。くぬぎ山―新津田沼間を1往復した臨時列車に乗車したのは、鉄道イベントではほとんど見かけない方々でした。

 千葉県船橋市の非公認キャラクター「ふなっしー」。タレント、歌手、声優とマルチに活動するナシの妖精です。災害被災地支援など、社会貢献にも力を入れます。

 ふなっしーファンは、どんな人? 交通新聞読者には想像しにくいかもしれませんが、多くは大人の女性です。「ゆるキャラだけど、思いはゆるくない」「会う人に全力投球で元気を届ける」人柄(?)に、引かれる人は少なくありません。

 そこに着目したのが新京成。22年4月に運行を始めた同社2回目の「ふなっしートレイン」は、8800形電車1編成(6両)を特別装飾。営業運行は22年末までの予定でしたが、好評に応え3カ月間延長しました。

 今年3月のラストラン当日、地元・千葉県内のほか遠くは関西方面からの〝ふなっしー推し〟ファンで車内は超満員。車掌の制服で〝乗務〟したふなっしーは乗客とふれ合いながら、車内を歓声で埋め尽くしました。

 ふなっしーファンは、「274(ふなっしー)チャンネル」で情報交換します。「ふなっしートレインは見るだけでしたが、最後に乗れて本当に幸せ」と、あるファンは話してくれました。

 ラストランイベントの車内、ふなっしー登場に歓声を上げるファンは交通記者には衝撃そのもの。「鉄道事業者は創意工夫で愛 好家以外にも注目してもらえる」。そんな思いを強くしました。

 

 ■筆者紹介■ 上里 夏生(こうざと・なつお)。42年間在職した交通新聞社を2019年に退職。現在は交通ジャーナリストとして鉄道、観光、自動車業界の機関誌やインターネットメディアに寄稿。モットーは「読んだ方が鉄道をもっと好きになる記事やコラム」。なお、本稿は交通新聞とは直接関係ない筆者の見解である。

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