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交通ニュースアイ JR渋谷駅改良プロジェクトなど受賞 23年度土木学会賞決まる

2024.07.11
JR渋谷駅は南北両側で主要幹線道路をオーバークロス。駅改良では道路交通を一時通行止めにして工事間合いを確保しました

 北陸新幹線の金沢―敦賀延伸、相鉄・東急直通線の開業といった鉄道の新規プロジェクトで基盤を支えるのが土木技術です。鉄道、道路などでのオール分野の優良技術を顕彰する、土木学会賞の授賞セレモニーが6月14日の土木学会定時総会(ホテルメトロポリタンエドモント)に合わせて開かれ、鉄道分野で8件が技術賞を受賞しました。

 本コラムでは、JR東日本が受賞した渋谷駅改良をはじめとする、鉄道プロジェクトのアウトラインを順不同でご報告します。

 

 ■首都圏駅の機能強化

 渋谷駅改良、武蔵小杉駅ホーム新設

 JR東日本東急など

 JR東日本は、「渋谷駅改良(駅機能の抜本的更新と再編による利便性の向上)」「スマートプロジェクトマネジメントを活用した鉄道駅新設ホームの早期供用開始(武蔵小杉駅横須賀線ホーム2面2線化)」の2件で受賞。ともに首都圏駅の機能強化につながる基幹プロジェクトです。

 山手線を片側ずつ運休し工事間合いを確保

 渋谷駅改良では、JR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(東京建設PMO)、鹿島建設・清水建設共同企業体、大成・東急建設共同企業体、鉄建・東急・東鉄建設共同企業体、交通建設東京支店新宿第2工事所、駒井ハルテック、JR東日本コンサルタンツの7者が共同受賞しました。

 JR渋谷駅の改良では、18年5月~23年11月に合わせて5回の線路切り換えを実施。改良前に約350㍍離れていた埼京線ホームを山手線ホームに横付け、山手線ホームをかさ上げして線路下に平坦な通路スペースを確保しました。

 山手線を運休した昨年11月の切り換えは、交通新聞をはじめ各マスコミに大きく取り上げられました。工事は17日終電から20日始発まで、18日は外回り大崎―池袋間、19日は内回り池袋―大崎間を運休。ホームは中央で仕切って、営業エリアと工事エリアを区分しました。

 両日は、渋谷駅の山手線停車時分を通常より1分30秒延長。土木学会は、「関係事業者と連携して進める新しいまちづくりへの寄与は、鉄道事業者の駅改良という以上の社会的貢献が認められる」と評価しました。

 武蔵小杉駅に短期間でホーム増設

 JR東日本2件目の武蔵小杉駅ホーム増設は、渋谷駅改良と同じ東京建設PMOと大林組、横須賀線武蔵小杉駅2面2線化設計共同企業体の3者が共同受賞しました。

 武蔵小杉駅はJR横須賀、南武の両線と東急電鉄東横線が接続する交通の要衝。JR湘南新宿ライン、東急目黒線にもつながります。駅利用客はJR駅だけで1日平均約10万人(22年度の乗車人員)。

 JR東日本は22年12月、横須賀線に新しい下りホームを新設して、従来の島式1面2線を2面2線構造に変更しました。

 表彰対象のスマートプロジェクトマネジメントでは、新技術や新しい契約手法で従来工法に比べ工期を大幅に短縮。JR東京建設PMOは、今後のモデルと位置付けます。具体的には、3Dモデルで工程管理するBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)が代表例。プロジェクト初期段階で技術要件などを確定する、フロントローディングも効果を発揮しました。

 学会は、「今後の鉄道土木工事でも同様の手法が継承されるはずだ」との期待を示しました。

 

 ■新工法に高い評価

 営業線直下や高層建築直下での工事

 JR西日本北大阪急行

 営業線直下に地下新線建設

 関西エリアでは、「東海道線支線地下化・新駅設置(国際ゲートウェイ・国土軸を繋ぐ)」「高層建築直下のシールド掘進と不飽和地盤凍結工法の開発」の2件が、技術賞に輝きました。

 支線地下化と新駅では、JR西日本、奥村組・鉄建建設特定建設工事共同企業体、錢高組・西松建設特定建設工事共同企業体、鴻池組・前田建設工業特定建設工事共同企業体、大鉄工業・清水建設特定建設工事共同企業体、大林組・淺沼組特定建設工事共同企業体、大成建設・大鉄工業特定建設工事共同企業体、大鉄工業、ジェイアール西日本コンサルタンツの9者が共同受賞しました。

 東海道線支線とは、新大阪駅と大阪環状線福島駅付近を結ぶ東海道線の別線(2・4㌔。全体では吹田貨物ターミナル~福島駅付近間4・9㌔)。関空特急「はるか」や南紀特急「くろしお」、貨物列車が走ります。

 JR西日本は、地上の支線を地下化しつつ線形を変えて大阪駅北側に近接。地下新線に新駅(大阪駅うめきたエリア)を設けて、大阪駅に接続させました。

 新駅は、23年3月のJRグループダイヤ改正で開業。地下新線は同年2月に供用開始しました。関空や南紀への時間短縮効果や、鉄道ネットワーク充実に関しては、交通新聞で詳報されましたが、土木学会が評価したのは工法の工夫です。

 最難関は、営業線(地上を走る支線)の直下に地下新線を建設、地上から地下へ一気に切り換える工事。対象区間は、上層の東海道線(本線)ともクロスします。

 JR西日本は、東海道線の橋脚を仮片持ちから門型に順次受け換えるなど工法を実践。本線列車に影響を与えることなく、所定時間内に切り換えを完了しました。

 高層建築直下にシールドトンネル

 高層建築直下のシールド掘進と不飽和地盤凍結工法は、今年3月に開業した北大阪急行電鉄(北急)南北線の延伸区間(千里中央―箕面萱野間2・5㌔)で採用されました。 

 受賞者は北大阪急行電鉄、阪急設計コンサルタント、熊谷組・フジタ・森組特定建設工事共同企業体の3者です。

 新線で、48階建て高層マンション、ショッピングセンターなど建物群直下をシールドマシンで掘進したのが千里中央―箕面船場阪大前間。北大阪急行電鉄などは地上の建物に与える影響を事前予測したほか、工事開始後は変位計でリアルタイム計測して影響を回避しました。

 もう一つの不飽和地盤凍結工法は、千里中央駅北側にあった土留め壁の撤去で採用。地中の水を凍結させて、地盤を強化しました。

 学会は関西エリアの2件について、新工法開発や地域社会への貢献を認めました。

 

 ■まちづくり一体型駅整備広域ネットワークを形成

 虎ノ門ヒルズ駅 東京メトロ、UR、森ビル

 相鉄・東急直通線 鉄道・運輸機構、相鉄、東急

 さらに今回は、「まちづくりと一体となった地下鉄新駅の整備~日比谷線新駅整備事業と隣接する市街地再開発事業~」(受賞者=東京地下鉄〈東京メトロ〉、都市再生機構〈UR〉、森ビル)、「神奈川東部方面線(相鉄・東急直通線)の建設(既存ストックを活用した総延長約250㌔の広域ネットワークの形成)」(鉄道建設・運輸施設整備支援機構、相模鉄道、東急電鉄)に技術賞が授与されました。

 地下鉄新駅は23年7月に本開業した虎ノ門ヒルズ駅です。学会は、東京メトロとURなどの協力関係に基づく、まちづくりの成果としての新駅を今後のモデルとして高評価、既存駅更新への展開も期待しました。

 相鉄・東急直通線では、鉄道7社局・14路線による神奈川、東京、埼玉の3都県の広域ネットワークが誕生。鉄道網拡大を評価対象としました。

 

 海外案件2件も

 海外鉄道プロジェクトでは、「ジャボデベックLRT(次世代軽量軌道交通システム)建設工事」(〈インドネシア〉運輸省鉄道総局、オリエンタルコンサルタンツグローバル=OGC)、「フィリピン鉄道車両基地における建設マネジメントの先駆的な取組」(清水建設)の2件が技術賞を受賞しました。

 インドネシアとフィリピンは、いずれもLRTというのが共通項です。

 インドネシアの首都・ジャカルタ近郊のジャボデベックLRTは次世代軽量軌道交通システムで、昨年8月に本開業を迎えました。道路渋滞をはじめ慢性的交通問題の解決が目的です。鉄道橋としては世界最長径間のクニンガン橋をはじめとする、10橋の長大橋があります。OGCは設計精査、施工管理などを受け持ちました。

 フィリピンで清水建設が担当したのは、首都・マニラ郊外のLRT1号線延伸に伴う車両基地整備で、特別円借款(JICA円借款)案件を受注。マングローブ林6800本を移植するなど、自然環境に配慮しました。

 

 ◇北陸新幹線九頭竜川橋りょうに田中賞、渡邉元JR東海常務執行役員に名誉会員の称号

 施設関係では、鉄道橋りょう技術者として現代に名を残す故田中豊氏を顕彰する田中賞(作品部門)に、北陸新幹線芦原温泉―福井間の鉄道・道路併用橋「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」(鉄道・運輸機構、福井県)が選ばれました。

 個人では、名工建設相談役の渡邉清氏(元社長、元JR東海常務執行役員・建設工事部長)、前JR東日本取締役(社外)の天野玲子氏(横河ブリッジホールディングス取締役、ゆうちょ銀行取締役〈いずれも社外〉兼任)に、長年の土木界への貢献を認めて名誉会員の称号を贈りました。

 

 一部画像協力・土木学会 受賞件名のタイトルは原則、土木学会資料の通りとしています。

 

 ■筆者紹介■ 上里 夏生(こうざと・なつお)。42年間在職した交通新聞社を2019年に退職。現在は交通ジャーナリストとして鉄道、観光、自動車業界の機関誌やインターネットメディアに寄稿。モットーは「読んだ方が鉄道をもっと好きになる記事やコラム」。なお、本稿は交通新聞とは直接関係ない筆者の見解である。

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